第3話

ゴルゴは仕込み中、同僚と会話するのが苦手だ。いわゆる雑談てやつがしんどい。

ところが目の前にいる瀬里奈大河っていう

ホスト的名前の後輩がやたら話しかけてくる上、ライバル視してくるのだ。

「ゴルゴ先輩、来月の久保田の付け合わせ決まりました?」

「まぁな、定番だけど」

「俺はもう決めましたよ。3品全て担当させてくださいね」

ウインクして去る大河に寒気がするゴルゴ。

「なんなんあの負けず嫌いは。。」


大将の目の前にズラリと並んだ小鉢。白いカウンターは木の香りがし、清潔さが際立つ。

目を閉じて一品ずつ味見をしている。

大将は白髪が目立つが顔立ちやスタイルはまだ30代のそれで、10人以上並ぶ弟子たちの誰よりも顔に艶があった。上流の仕事をしてきた人間しか出ない輝きだ。

ピリリと緊張感が痛い。

「ゴルゴ」

「ハイ!」

「このかき揚げ酸っぱいな、なんでだ」

「ハイ!!久保田紅寿はフルーツにも合います。かき揚げには意外性を狙い、敢えて爽やかなラディッシュを入れてみました」

「ほー。お前、相性をわかってるな」

うなづく大将に、弟子たちは感嘆の表情。

その中で大河だけは浮かない顔をしている。


「ゴルゴ先輩、酒苦手って言ってませんでした?」

休憩中、大河がチーズケーキをゴルゴに見せながら明るく話かけてきた。

「え、りくろーおばさんのチーズケーキじゃん!予約困難なんよコレ!!」

「良かったら差し上げますよ。。」

「マジか?ありがとう!うわー嬉しい!」

「先輩、全ての久保田、それぞれに合う料理なんてよく思いつきますよねーほんと尊敬しちゃいますよ。俺なんか全然」

ゴルゴはチーズケーキにかぶりつきながら

「実はさ、シェアハウスの同居人が酒好きで、俺の代わりに呑んで料理との相性教えてくれんのよ。なかなか鋭い指摘でね。

酒癖めっちゃ悪くて超ームカつくけど」

ゴルゴは昨夜の顛末を思い出しては

頭を振った。酔うと別人になる

あの生意気フランス人形め。

大河は笑いながら

「先輩、甘いものの方が好きですもんね」

「そ、そう言うわけじゃ。。」

ゴルゴはキリっと真顔になった。

眉毛が黒光りするほど弓なりになる。

「俺は日本1、いや世界1の鮨職人になるぜ」

呟いた言葉が低く響いた。

「そうですよね、先輩はセンスありますよ」


大河が去ったあと、ゴルゴはスマホの写真を

眺めていた。

幼いゴルゴ、手作りの崩れたケーキ、

それを囲む今は亡き祖母。

誕生日には毎年、お祝いしてくれた

その写真は14歳で祖母の死と供に

終わった。15歳からここで働き、ほかの世界をゴルゴは知らない。一心不乱に命を捧げてきたし、山も谷もありながら、乗り越えてきた。先輩にいじめられて、辞めたいと思ったこともあった。最近はやっと認められて、働いてて楽しいと感じてきた。

ここが家族で、親で、社会で、世界で、

ゴルゴの全てだった。

親方からお前は将来有望だ、

世界一の鮨職人を目指せと言われたら、

そうなるのだ。

その為にはあのフランス人形のアルハラも耐えてみせる。今晩も。。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る