宿り木 クビキ❗

淡雪 隆

第1話

           淡雪 隆


  一 同棲しますか?


 私は柊木太陽。現在二十六歳で、大学を卒業し、社会人になって四年目のサラリーマンだ。東京の狛江市に住んでいる。三流の証券会社に就職したが、私の卒業時代はまさに就職氷河期で、就職できただけでも上出来だった。三流大学の卒業なので三流会社は仕方がない。しかし、最近は景気も回復し、四年も勤務すると感じることがある。どうもこの会社は胡散臭いところがある。私はもうこの会社を辞めようかと思っている。何だかサギの片棒を担いでいるような気分が大きくなったからだ。



 毎日がつまらない。そこで私はスマホで、遊ぶことを日課としていた。ある日SNSを見ていると、『誰か私と同居しませんか?』という書き込みを見つけ、興味本位で返事を出してみた。すると、彼女は私とやり取りを始めた。色々なやり取りをした結果、名前は(自称)『棚倉桜』、二十四歳、無職と判った。思った以上に話が合い。趣味のこと等気が合って、私は『君がいいのであれば、俺の部屋で暮らしてもいいよ』と返事をしてしまった。一寸早まったかな~、と思ったが、まぁ、なるようになれだ! なんて思ってる暇もなく、三日後に本当にやってきた。



 ドアを叩く音がしたので、ドアを開けると、小さめな女の子がペコリと頭を下げて、

「始めまして、好意に甘えてやってきました」これが始めて直に交わした会話だった。

「本当に来たの? 棚倉さん?」

「はい、棚倉桜です。宜しく」

「君、本当に私と一緒に繰らす気かい? なにも知らない人と」

「いえ、メールのやり取りで、悪い人ではないなと判りました」

「あのね~~、君何処から来たの?」

「栃木県からです。那須からです」

「君、両親は?」

「いません。二人とも死にました。天涯孤独です」普通の子なのだが、笑うと少し愛嬌がある。身体も小さめだし、器量がいいわけでもない。何だか気持ち悪くなってきたが。私も現在は天涯孤独の身である。ここで追い出す訳にもいかないだろう。

「まぁ、入んなよ」と部屋に招いた。

「君、荷物は?」

「何もありません。この赤いカバン一つです。必要なときだけ買ってきます。ジーパンにTシャツ、スニーカーで十分なので」



 一緒に暮らし始めると、彼女は意外と几帳面だった。料理を作っても美味しいし、綺麗好きで、あんなに散らかってた部屋の中は見違えるように綺麗になった。私も気持ちがいい。別々に寝ていたのだけれど、桜が私のベッドに潜り込んできて、

「私を抱いてもいいよ」と囁いてきた。私は吃驚したが、

「本当にいいのかい?」

「一緒に暮らしてるんだもの、当たり前だよ」身体を押し付けてきた。『据え膳食わぬは武士の恥じ』とは言うものの、抱くのにヤッパリ勇気がいったが一度抱いてしまうと。抵抗も無くなった。しかも、


「私は赤ちゃんが出来ない身体なので気にしなくていいよ」と言われれば、私も安心した。しかし、本当だろうか? 後で赤ちゃんが出来た何て言って、私を脅すのではないかと、心配もあった。まぁ、そんなことの繰り返しで彼女との生活は当たり前の毎日となった。そして三ヶ月私たちは新婚家庭のように、ふざけ合ったり、じゃれ合ったりして過ぎていった。


 しかし、その生活も・・・・・


   二 何処へ………


 六月の中旬、桜が来てから三ヶ月くらい経った頃、私が会社にいっている間に私のアパートから出ていったみたいだ。夜会社から帰ると、アパートは真っ暗で、中にはいって、見回すと食卓のテーブルに紙が置いてあった。

『柊木太陽さん、今までお世話になりました。感謝しています。桜は出ていきます。別に太陽さんを嫌いになったわけではないので、勘違いしないでください。ある事情があって、もうここには居られないのです。その訳は誰にも話せないので、黙って出ていきます。心配しないでください。棚倉桜』

桜、出ていったのか! 桜の赤いバックだけが無くなっていた。私の私物はなにもなくなっていなかった。スマホで連絡を取っても、ブロックされていた。もう二度と会えないのかな。私はガックリとして、椅子に座りこんだ。また、寂しい生活が待っていた。



 そんな時、寒さが忍び寄ってきた十月中旬の朝刊を仕事上の癖で隅々まで読んでいると、北海道の札幌市のアパートで、サラリーマン(25)が消えたというニュースが目についた。連絡を受けた警察官が部屋のなかを見ると、警察関係者も目を背けるような光景で部屋の中は地だらけになっているが、十分なので致死量があったということで、死体がないと書いてあるのだが、警察は殺人事件として、同居していた女を探していると書いてあった。アパートの住人等からの情報では、同居していた女性は『矢板祥子』と言っていたらしい。道警では広範囲で捜索しているらしい。ただ、その子の写真はなく、似顔絵だけが載っていた。桜には似ていない。少しホッとした。



 新年を向かえた一月の下旬、忘れかけていた北海道の事件を彷彿とさせる事件が、山形県山形市内のアパートで、全く同様な事件が起こったらしい。新聞を良く見ると、工務店の工員男性(26)が北海道の事件同様部屋の中は地だらけだが、遺体のない事件が起こったらしい。やはり山形県警は、同じく三ヶ月ほど同居していた若い女性の行方を捜査している。周りの住民の話では、優しそうな若い子で名前は『大田原淳子』と。言っていたらしい。似顔絵を見るとやはり桜とは似ていない。そして、このての事件は止まらなかった。



 次は四月下旬、大阪府東大阪市で起こった。酒場のバーテンダーをしていた若い男性(28)が同じ手口でやられたのだ! やはり死体はない。地だらけの部屋があるだけだった。同じく短い期間同居していた女性『鹿沼佳子』の行方を捜査している。この三件の事件で、共通の証言『隣の部屋からガリガリと音がしていた』という声があったらしい。しかし、全件、五歳以下の子供の発言だったので、警察は重きを置いてなかったらしい。このように同じような事件が続けて起こったことで、マスコミも騒ぎだし、大きな見出しの事件扱いとなった。新聞によると、まず部屋中に血が飛び散っているのに遺体がないこと。どこかに埋めに行ったにしても女性一人では無理なこと。共犯者がいるのか? 更にスマホ以外は何も取られたものが無いこと。現金、通帳も手付かずだったこと。同居していた女の子が全く見つからないこと。更に部屋からは色々な指紋が出たが、三件に共通した指紋が無いということからマスコミはこれらの事件を『令和の残虐で陰惨な大事件』となるだろうと騒ぎ立てた。警察庁も黙っているわけには行かなかった。全国に指名手配をかけたがしかし、同一犯にしては名前も違うし、警察内では偽名を使ったのだろうと議論をし、モンタージュの顔も各々微妙に違う。本当に同一犯だろうかと、疑いもあった。第一遺体がないのが問題となった。室内には、バケツで汲んで撒き散らしたような、あれだけの血液が飛び散っているので、亡くなっているのはハッキリしている。DNAを調べても、部屋の持ち主と間違いがない。では何故遺体がないのか? ハッキリしない点が幾つかある。とにかく同棲をしていた女性を見つけることが第一となった。警察庁長官名で各県警本部長宛に檄がとんだ!


   三 惨劇は続く


 七月の上旬、更に惨劇は続いた。今度は広島県広島市で会社員(25)が次の被害者となった。惨劇の内容は今までと変わらず、やはり遺体がなくなっていた。一緒に同居をしていた女の子『塩谷ゆかり』と名のっていた子が消えていた。同じような事件が四件目だ。私は新聞やニュースで目にする度、桜を思い出した。そして北海道の事件に遡って、新聞記事のスクラップブックを作ってみた。

 ”まさかな~“と思うものの不安と疑惑が胸に渦巻いた。しかし、それならば私はどうして殺されなかったのだろうか? どうして? 判らない。そしてこの悲劇は、西へと向かっている。そうだ西へ、西へと移動している。次は九州あたりかもしれない。どの惨劇事件も捜査の進展が全く見られない。一体同居の女性とは、一体何者なのか? 全国指名手配をされているのに、有力な情報が集まらない。そして心配していたなか、ついに第五の事件が起こった。



 心配通り、十二月の中旬に九州は長崎県の長崎市で起こった。やはり会社員(27)がこれまでの悲惨な事件通り、地だらけのアパートで、遺体がない事件が起こった。不思議だと私は考えた。共通しているのは被害者が若い男であること。持ち去ったのはスマホのみ。そして同居していた女の子が『白河綾子』と名のっていた子が行方不明だということ。

 何故? 何故? 私の不安は高まった。桜は関係ないのだろうな。北海道に始まり、ついに長崎県まで行ってしまった。何か目的があるのだろうか?日本縦断だ!



 私は桜とは何も関係の無いことを祈って、この事件と『桜』の関係を調べてみようと思った。確か桜は、栃木県の那須地方から来たと言っていた。そこで私は、取り合えず国立図書館に行って那須地方のことを調べてみようと思い、アパートから持ってきたスクラップブックとメモ帳と筆箱を持って上野に向かった。図書館に着くと、栃木県の那須地方に関する町史や名所など載った本、那須地方の歴史に関する本を見つけて。机に座った。



 それらの本を何気なく流し読みをしていると、名所のところで、私の目を引いた項目があった。『殺生石』という項目であった。直ぐにその項目のページを開くと、その石は「近づいた生き物を殺す石」と信じられた大きな石が祀られているという。驚くのはあの松尾芭蕉も訪れたこともあるということである。何故ここに「殺生石」があるかというと、その伝説がまた異常であった。ことの始まりは、中国で中国・殷の紂王(ちゅうおう)を夢中にさせ暴政を敷き、王朝を滅亡に追い込んだ妲己(だっき)。等インドやアジアをまたにかけ、当時の権力者に取り入るために「九尾の狐」という妖獣が当時の絶世の美女に化け国を混乱させたということで、その触手は海を渡って日本へ渡ってきた。そして同じように美女に化け、鳥羽上皇に使える女官となりやはり、この陰獣のため残酷な最後を遂げます。



 これを見破ったのが陰陽師の安倍泰成が、真言を唱えたことで化けの皮がはがされ、「九尾の狐」のすがたに戻り行方を京から眩ました。その逃げた先が栃木県那須町です。しかし、その地には、弓の名手上総介広常(かずさのすけひろつね)と三浦介義純(みうらのすけよしずみ)がいて、「九尾の狐」を追い詰め矢を射かけたところ、巨大な石に化身し毒を放ち近づく生き物を殺したといわれている。そのまま時は流れのちに村人からこの話を聞いた源翁(げんのう)和尚が経文を唱えたところ石は砕け三つに割れて飛び散ったとある。その一つでここに残ったものが那須の「殺生石」と伝えられているという。これを呼んだ私はまさかと考えさせられた。・・・・


   四 真実は?


 この「九尾の狐」は九尾狐とも呼ばれ、特徴として、人に変身したり、憑依出きること。そして人を食べてしまうこと。等の凶暴性があった。大きさは狐を一回り大きくした位で金色に光、その名の通り、九つの尻尾があり。結局中国生まれの陰獣(妖怪)であり、「殺生石」の三つに割れたうち残りの二つは何処にいったのか判っていない。私はその「殺生石」の位置を確かめたくて、那須町の広域地図を眺めた。そして気付いたことがあった。そんな馬鹿な! 偶然だろと思い、スクラップブックを開き各々の事件に係わった女性の名前を書き出した。

  北海道 『矢板祥子』

  秋田県 『太田原淳子』

  大阪府 『鹿沼佳子』

  広島県 『塩谷ゆかり』

  長崎県 『白河綾子』

 問題は彼女達の苗字だ。矢板、大田原、鹿沼、塩谷、白河。この五つの名前は、那須町の周辺の地域名と合致している。まさか・・・『棚倉』は❔  やはり、周辺の地域名にあった。私はガックリとして、頭を垂れた。しかし、偶然ということもある。そう思いたかった。私は呆然としてアパートまで帰った。食卓のテーブルに肘を付いて暫く考えていた。部屋にもどってベッドに寝転がり天井のシミを見ながら考えた。何故俺は殺されなかったのだろう。----そうだ! 私は飛び起きると、本棚の上段に飾ったものを見上げた。私が今はない京都にあった実家を出て東京の大学に行くとき、そのときは生きていた祖母から、私の災厄よけのためにもらった、陰陽師のお札と 擬人式神をまじまじと見つめて手を合わせた。きっとこれが私を救ってくれたのだろう。そう思うことにした。陰陽師、様々だ❗ 婆ちゃん有り難う。きっと「九尾の狐」も、もう故郷の中国に帰ったことだろう。時代の大きな変遷を感じているだろうが………



 とにかく長崎の事件以来パタリとあの陰惨な事件は起こらなくなった。人々も段々と忘れ去るようになり。一年ほどが過ぎた。


 私が今日は日曜日なので、ベッドでグズグズしていると、誰かがアパートの呼び鈴を押していた。

「あー、煩いな今日は日曜日だ。ゆっくり練らせろよ!」と思いながら、ドアを開けると! そこにペコリと頭を下げる『棚倉桜』が微笑んで立っていた。・・・・・・


           (了)

 

 

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