五
白々と空が明け始める中で、あやめは紫依那と蒼の遺灰を土に埋めた。
二人の亡くなった場所には、遺体も骨も残っておらず、ただ灰だけがそこに落ちていた。
きっとこれも禁忌の代償だろうと茜が云った。
あやめはあえかな願いを込めて、遺灰を埋める。
せめて、あの世では共にあれるように。
想いあったまま結ばれず、非業の死を遂げた二人に、せめてもの救いをと思わずにはいられなかった。
どこかで、メジロの鳴き声がする。
隣に立った茜が、ふっと笑った。
「この土地は穢れてしまった。きちんと
「....離れて、どこにいくの」
「さあ、どうだろうな。まずは紫依那さまの実家に戻って......彬文さまのことや、今までの顛末を話す義務がある。それで、俺も自分の罪と向き合って、これからを生きていくさ」
でも、と茜は云った。
「そうだな、毎年メジロが鳴く頃には、ここに戻ってこよう。春告げ鳥の鳴くこの季節、藤も咲く。蒼や紫依那さまの魂も、此処に戻って来るんじゃないか」
二人で地獄に行ったとしても、また紫依那が大好きだった藤を見に、ここに戻ってくるかもしれない。
「そっか」
あやめは一言そう呟いて、空を仰いだ。
天は既に蒼穹の色を纏い、
そういえば、ここは風がよく通る場所だったな、と懐かしい感慨を覚えた。
間もなく、朝を迎える。
それは、この
呪いの根源をたった今、あやめの覚醒を妨げるものはない。
朝、自然に目が覚めるのと同時に、この夢の世界とはお別れである。
そして恐らく、未来永劫再びここへ来ることは無いだろう。
「茜.........ありがとう」
ずっと守ってくれていた。助けてくれていた。
好きだと云ってくれた。勇気をくれた。
そんな彼とも永遠の別れなのだ。
あやめと茜では生きている時代が違う。同じ時を過ごすことは叶わない。
「本当に大変で......正直、なんで私がって思ったこともあったけど.....でも、此処に来れて良かったよ。少しの間だったけど.......私にとっては奇跡みたいな時間だった」
茜は、そっと腕を伸ばしてあやめを抱きしめた。
柔らかい抱擁だった。
懐かしいような、泣きたくなるような温かさに触れて、あやめの瞳から涙が零れ落ちた。
「で、返事は?」
「え?」
突然なんのことか分からず、あやめは茜の顔を見上げた。
「俺、告白したよね。返事は?」
「っえ、っえ.........え、今?」
「むしろ今以外ないだろ。もうあやめ帰っちゃうし」
「いや、そうだけどでも.........いや急にそんなこと云われても」
まさかここでそう来るのは思っていなかったので、あやめは大いに狼狽えた。
「えっと、えーっとですねえ」
おろおろと言葉を選んでいるうちに、急に意識に靄がかかりだした。
――時間切れ。
あやめの身体は目覚めようとしているのだ。
「じゃあ、返事はまた今度会ったときでいいよ」
茜の声すら最早遠く聞こえる。
「.....っ、また今度って.........そんなの」
そんなの、会えるわけないじゃないか。
薄くなる意識の中、今一度強く茜に抱きしめられる。
藤の花びらが、視界いっぱいに散っていた。
耳元で、少年の声がする。
「約束してよ。俺が、どんな姿になっても」
必ず気が付いて。今度こそ、返事を聞かせて。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます