二
藤の
そして、そこに広がる光景を前に、絶句する。
「え..........」
まず最初に捉えたのは、刀を構え合って互いを牽制している少年二人の姿だった。
鏡合わせのようにそっくりな少年たちは、炯々と睨み合って動かない。
それからあやめの視線は、吸い寄せられるように座敷の奥へと向かう。
畳の上に二人の人間が人形のように転がっていた。
一人は、薄紫の着物を纏った少女。もう一人は、薄汚れた大柄な老爺。
二人の身体は赤い液体に濡れて、染み出した赤は畳をも染め上げる。
「あやめさん........!?」
声を上げたのは、蒼だった。
その声に、弾かれたように顔を上げた茜も、こちらを見てその顔に驚愕の表情を浮かべた。
「君は、なんで....」
茜の呆然とした呟きも、蒼の声もあやめの頭には既に入ってこなかった。
「待って、なんで............」
―――紫依那と彬文さんが死んでるの。
一体、何が起こっている? なぜ、紫依那と彬文が斬り伏せられていて、茜と蒼が斬り合いになっているのか。どうして、地下牢にいたはずの彬文が此処で倒れているのか。
「なにが、どうなって........」
「あやめさん、私の後ろへ!」
呆然とするあやめに向かって、蒼の焦燥混じりの声が飛んだ。
「茜は危険です! 桐麻と紫依那さまと彬文さまを斬ったのは茜です。そこに居ては貴女も危ない。早くこちらへ!」
蒼は片手で
「茜が、斬った......?」
では
じゃあまさか、若葉雫を含む
あやめは震える足を叱咤して、蒼のほうへと向かう。
茜は、危険だ。皆を殺した。
「違う!
茜も切羽詰まったように叫ぶ。あやめはちらりと茜の方を見た。
茜は、最後に彼を見た時と同じように、何かを耐えるような、恐れるような表情をしている。
――――刹那、ふわりと香った藤の
何か、変だ。この状況は何かおかしい。
「あやめさん....?」
蒼も茜も、突然足を止めたあやめを怪訝そうに見ている。
そのそっくりな双眸のうち、どちらかは明確な悪意を宿しているはずで。しかし、吸い込まれるような
――ここで選択を違えれば終わる。
(桐麻、教えて桐麻。何があったの。貴女は誰に殺されたの)
心の中で既に儚くなった少女に問いかけても、なにも返事は無い。
どうか教えて。私は、どうすればいいの――――
『地上にサンゴがあったっていいじゃない』
あやめはハッとして息を止めた。
いつかの、恵茉の
『分かる、分かる。私も混乱するもん。固定概念で考えるなって言われたって、それが常識の世界で生きてきたんだから、違和感覚えるのが普通だし』
『思い込みって、本当に自分でも気が付かないうちに根付いちゃうから怖いよねー』
恵茉と棗の会話が脳に反芻する。少女たちの嬌声混じりの声がいやに頭に響いた。
(思い込み...........固定概念)
物事の表面だけを見ている人間には、真実は見えないのだ。
(そうだ、私はまだ)
あやめは自分を凝視している二人の少年を見据えた。
(この人たちの表面しか知らない)
何事かを叫んだ蒼の腕が伸びてくる。その動作が、まるで嘘みたいにスローモーションに見えた。
袖が振れる勢いで再び藤の匂いが鼻を掠める。
その、刹那。
あやめは蒼の腕を振り払って、茜のもとに駆け出した。
「あやめさん!?」
驚く蒼の声を
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