四
春雷が落ちる様を、窓越しに眺める。
かつて『
(いや、蒼だったっけ.........)
森山宅から帰宅すると、既に日が暮れて真っ暗であり、ぽつぽつと
遠くの空で、稲妻が黒雲を引き裂くのが見える。見えている距離よりもずっと近くで轟音が鳴り、あやめは手で耳を押さえた。
窓からは
いつだったか、あやめは紫依那に、何故そんなに藤が好きなのかと訊いたことがあった。
すると紫依那は、懐から一本の
「うわあ、綺麗。藤の簪?」
藤を模した、硝子細工の
「昔、素敵な人に貰ったの。『貴女に似合うと思ったから』って。あのぶっきらぼうな子はもう居なくなってしまったけど、嬉しくて、それ以来ずっと藤は私にとって特別よ」
髪はもう結わないので、こうして懐に仕舞ってお守りにしているのだという。
紫依那の言う、『ぶっきらぼうで素敵な人』が誰なのか、あやめには分からなかったが、それはきっと彼女の想い人なのだろうと思った。女性に簪を贈る意味を、あの時代の人が知らない訳がない。その人にとっても紫依那は特別な人だったのだ。
(もう居なくなってしまった、ということは、そういうことなんだろうけど)
蒼は知っているのだろうか。
雨音が胸の奥を湿らせる。
ふと、切ないなぁ、と思った。
紫依那も蒼も自分も、みんなそれぞれ違う方に焦がれながら、傍に在ることを願っている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます