第九章「二連覇を目指して!!」
67.本選開始、全力出しますっ!!
予選終了から少し間を置いて、いよいよ『ギルド大戦争・本選』が開始された。
「頑張ろうね、団長っ!!」
「うん……」
拓也の部屋には副団長の美穂がやって来ている。
とりあえず弟の面倒は母親が見てくれているので初日はこうして拓也の部屋に来てくれた。ただそんな美穂を見て拓也が思う。
(明らかに、疲れているよな……)
病院で手術を告げられから様々な準備を行い、そしてずっと弟に付きっ切りだった美穂。ひと段落したとはいえその疲労は火を見るよりも明らかだ。
「どお? 勝てそう?」
美穂がスマホの画面を見ながら拓也に問う。
「うん、大丈夫!」
拓也は美穂に余計な心配は掛けないよう力強く言った。
実際、初日ということもあり頭は冴え、全体の戦力を把握するとあっという間に勝利への道筋が頭に浮かぶ。
拓也は不安そうに見つめる美穂の前で次々と的確にパテなどの指示を出した。
「頑張ろうね!」
「ああ、全力で叩く!!」
拓也にとってはこの戦いはただの二連覇と言う意味ではない。
生まれて初めて自分で決めたこの「想いを告げる」と言う行動を賭けた大切な戦い。
(負けられない、絶対に負けない!!)
連覇と言う分厚くて大きな壁を感じ思わず身震いする拓也だが、隣に座る美穂の姿を見て気合を入れ直す。
(大丈夫絶対に勝てる。でも、明らかに元気ないよな……)
拓也はいつもの美穂らしくない美穂を見て少し辛くなる。
(だから俺が、彼女の不安のひとつを取り除いてやるんだ)
12時半、開始される本選初戦。
団に緊張が漂う中、初手から拓也の采配が強い輝きを放つ。
『ヨッシーさん、6番お願いします!』
『モモンタさんは、19番!!』
初戦とは言え相変わらずの神掛かった采配で敵を圧倒していく拓也。開始直後は様子を見るギルドも多い中、拓也は一切の躊躇もなしに次々と攻撃を仕掛ける。
「涼風さん、10番行ける?」
「うん」
拓也の指示通りに美穂が敵に攻撃し、そして勝利する。
「GJ、涼風さん!!」
「ありがと!」
拓也は美穂の勝利を見届けてから立ち上がると、キッチンに行って冷たい飲み物を持って戻って来た。そして美穂の顔を覗き込むようにして言う。
「お、おっつ~、す、涼風さん。こ、これでも飲んで……」
「……」
最後は照れなのか、消え入りそうな声で言った拓也を美穂が無表情で見つめる。
「私、そんなに馬鹿っぽくないわよ」
(うっ……)
最も辛いリアクションをされた拓也。陰キャには相応しくない軽率な行動だったとちょっと反省。
「ふ、ふふふっ……」
それでもそんな拓也を見て少しだけ笑ってくれた美穂。拓也はほっと胸をなでおろした。
「やっぱり凄いねえ。ほんと神軍師だわ」
初戦は夕方前には大方勝負がついてしまった。
いつも通り夜にログインする社会人組を待たずに『ピカピカ団』の勝利はほぼ確定した。心配したマキマキもいつも通りに戦闘に参加してくれて一先ず安心。
勝利を確信した拓也は、PC画面を『デスコ』からブラウザの検索画面にして「あるもの」を探す。
「木下君……?」
それを見ていた美穂が小さな声で言う。拓也は見つけ出したお目当てのものを画面に映し美穂に言う。
「明日、この神社に行こうよ」
「神社?」
拓也が紹介した神社は『太平神社』という隣県にある病気平癒で有名な神社であった。訪れてお守りを買って来るだけも効果があると言う。
「でも……」
美穂は嬉しいと思いつつも、弟から一時的にとは言え離れなければならないこと、それに『ワンセカ』の本選中であることを考え悩む。
「え?」
そんな美穂の顔を両手で挟むように添えて拓也が言う。
「明日一緒に行く。これは団長命令」
「う、うん」
思わずどきっとしてしまった美穂が頷きながら答えた。
トントントン……
風間家のキッチンでは、玲子とその母親が一緒に並んで夕食の準備をしていた。
母親とほぼ同じぐらいの身長。玲子はいつも通り艶のある黒髪を後ろで結び、料理用のピンクのエプロンをつけている。
玲子の母親は上手になった娘の包丁さばきを見ながら言った。
「上手くなったもんだね~」
「うん、お母さんに鍛えられているから」
玲子が笑って言う。母親が尋ねる。
「そう言えばもうすぐ誕生日よね。何か欲しいものあるの?」
8月31日。夏休み最後の日が風間玲子の誕生日である。玲子が首を横に振りながら答える。
「ううん。特にないよ。お母さんが元気でいてくれればそれでいい」
玲子は母親を見て笑って言う。母親が尋ねる。
「何か予定はあるの? 男の子とかさあ?」
母親の意外な質問に玲子が真剣に答えた。
「ううん、今はない。でももうすぐ埋まるわ」
玲子はそう言うと笑みを浮かべながら料理を続けた。
「よしこれでいい!」
拓也は朝、今日の対戦相手の分析を終えると、すぐに全団員に対して今日の指示を出す。そして急いで朝食を食べ服を着替えるとマンションを飛び出した。
「おっはー、木下君っ!!」
「お、おはよ。涼風さん」
久し振りに聞く美穂の元気な挨拶。
いつの間にか拓也にとってこの挨拶を聞かないと、一日が始まらないんじゃないかと思うようになっていた。
(綺麗……)
花柄のワンピースに少し厚底の涼し気なサンダル。頭には夏らしい麦わら帽子をかぶり、背中には可愛らしいミニリュックを背負っている。
拓也は素直にそんな美穂を綺麗だと思い、見惚れた。美穂が言う。
「あれ~、何じっと見てるのかな? ひょっとして惚れちゃった~?」
美穂が小悪魔のような笑みを浮かべて言う。まるで心を見透かしたような言葉に拓也がすぐに返す。
「そ、そんなんじゃな……、うわっ!!」
必死に否定しようとした拓也の腕に美穂が絡みつく。
「さあ、行こうか!」
「え、あ、ああ……」
自分が誘った神社参り。
でも結局はこの陽キャのペースで進んでいくのだろうな、と拓也は思った。
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