第八章「親父、一時帰国する!!」

62.美少女と父親が、ぐはっ!?

『何をやっていたんだ!! 大事な予選最終戦に軍師が不在になるとは、一体何を考えているんだ!!』



『竜神団』団長の龍二ジリュウは因縁の相手である『ピカピカ団』との予選最終戦で、職務を投げ捨て敗北を招いた軍師アッシを責め立てた。アッシが答える。



『だからそれは事前に連絡しましたよね。リアルの都合でその日は指揮がとれないと。それでも最初のパテや陣形などは可能な限り指示は出しましたよ』


 ギルドの方針にもよるが基本リアル優先のところが多い。現実の生活を壊してまでゲームをするのは誰もが避けるところ。むろん『竜神団』もリアル優先であるため、嵐が事前通知をして当日ほとんど参加できなかったことに非はない。



『団長、アッシさんは仕方ないですよ』

『リアル優先ですよ』

『予選突破しましたから、本選で頑張りましょう!!』


『竜神団』の『デスコ』には軍師アッシを援護する声や、切り替えて本選に集中しようと言う声が上がる。龍二ジリュウも団員達に言われ前回の二の舞になるのは避けたく素直に謝罪しようと思ったが、とある団員の言葉でその思いは一瞬で消え去ってしまった。



『相手はあの『ピカピカ団』ですよ! 天才軍師のタクさんがいるところ。簡単には勝てないですよ!!』


(タク、タク……、木下拓也っ!!!!)


 龍二の頭に忌々しい拓也と仲良くする美穂の姿が浮かぶ。



『負けは負けだ!! 本選では必ずこの借りは返す!! みんな、次こそはしっかりやってくれ』


 団員からは冷めたような反応が起こる。

 アッシは玲子の件をあれからずっと後悔し、非常に落ち込んでいるところだった。それに比べれば大したことはないのが、低俗な団長のプレイカードにつられて残ったことをやはり後悔した。






『今空港に到着した。夕方にはそっちに着けそうだ』


 拓也のスマホに日本に帰国した父親からのメールが入る。短期間の帰国だが、久しぶりに日本に帰って来られる父親はメールからもその嬉しさが伝わる。

 対照的に表情が暗くなる拓也。理由は簡単である。



「帰ったぞ、拓也! お、なんだその髪型は、色気づきやがって! ついに女でもできたか? もうやったのか?」


 親子で性格は似るとか似ないとか。

 とにかく拓也と真逆で、思春期であまり聞いて欲しくないことなどもずかずかと口にする。



「お帰り、父さん。そんなんじゃないよ」


 拓也は久しぶり父親を見つめる。

 ダークグレイの髪に渋さ漂う顔のしわ。拓也と同じく上背があり、お洒落なスーツをカジュアルに着こなしている。黙っていればかなりのイケメンオヤジなのだが、息子とは違いノリが良くよく喋る。


「そんなんじゃないって、まだ彼女のひとりもできないのか? 俺がお前ぐらいの頃は両手に余るほどの女を……」


「ああ、もういいから。早く入って飯にしよ」


「ん? ああ、そうだな。腹ごしらえが先だな」


 父親はそう言うとスーツケースをドンと廊下に置きそのまま中へと入って行く。



「どうだ? 元気でやってたか?」


 あえて尋ねなかった。

 拓也の顔や腕に少しアザや擦り傷がある事に気付いた父親だったが、それは多感な高校生。拓也から何も言わなければ尋ねるようなことはしない。


「ん、ああ、まあね……」


 拓也自身ここ数か月、色々なことがあり過ぎて若干疲れた感じもするが、元気と言われれば元気だ。



「まあ、それは後々ゆっくり聞くとして、何か食べたいものはあるか?」


「特にないかな。それより父さんの方こそ久し振りに帰って来て、何か食べたいものはないの?」


 父親はスーツケースを片付けながら答える。



「特にないかな。向こうでも日本食は幾らでも食べられるしな」


 日本でも有数の大企業に勤める拓也の父親。現在その海外事業の責任者を務めている彼が食事程度で困ることはない。父親が言う。


「じゃあ、適当に何か食べに行くか。俺のおごりだ」


「ああ、任せるよ。じゃあ……」



 そう拓也が苦笑してそう言い掛けた時、不意に部屋のインターフォンが鳴った。それを聞いた瞬間、拓也の顔が青くなる。


「ん? 誰か来たようだな」


 そう言って父親が玄関へと歩きドアを開けようとする。



「あ、と、父さん。ちょっと!!」


 拓也が慌てて玄関へと走るがそれよりも先に父親がドアを開けた。



「やっほ~!! 木下君、ご飯作りに来たよっ!!」


(あっちゃ~)


 嫌な予感はしたが、突然訪問して来た美穂を見て拓也は思わず顔に手を当てる。美穂が言う。



「あれ? 木下君、なんか老けた? ……って、え? この人誰!?」


 拓也の父親は余裕の笑みを浮かべて答える。


「誰って、ここは私の家だが、お嬢さんは、拓也のお友達かな?」


 美穂がその玄関に現れた男性の後ろで、顔を真っ青にしている拓也を見て口を開ける。



「え? まさか、この人って……」


「初めまして。拓也の父親です」


 美穂は一瞬で顔を真っ赤にして、両手を顔に当てながら言う。



「た、の、お父様!? うそぉ!?」


 父親は美穂が持ってきたバックから覗く食材を見て笑顔になって言う。


「どうやら息子がお世話になっているようだね。さ、どうぞ。上がってください」


「は、はい!!」


 それを後ろで見ていた拓也は、もう自分の手には負えない状況になったと首を横に振った。




「きゃははっ、やだ~、お父様ったら!!」


 新鮮なきゅうりがたくさん手に入ったとのことで、冷やし中華を作りにやって来た美穂。偶然一時帰国していた拓也の父親に会い、そのまま意気投合。一緒に冷やし中華を食べることなった。



「いや~、こんな綺麗な子にお酒を注いでもらえるなんて、日本に帰ってきて良かった」


「もう、お父様ったらお上手で!!」


 拓也の父親は思いがけぬ美少女の晩酌に顔を赤くして上機嫌で言った。拓也が溜息交じりに言う。


「父さん、いい加減にしてくれよ。涼風さんにそんなことさせて」


「いいのよ、。お父様、面白いし!」


「お父様か……、いい響きだ」


「やだ〜、お父様ったら! そんなの幾らでも呼んであげますよ。きゃはっ!!」


 そう言って笑う美穂も実に楽しそうである。

 もともとコミュ力の高い陽キャ。詳しくは知らないが仕事上で人付き合いが多い拓也の父親。会えばこうなるのは必然の摂理か。拓也の父親が上機嫌で拓也に小声で言う。



「なあ、拓也、もう美穂ちゃんとはのか?」


(ぐはっ!!!!)


 美穂に聞こえないように小声で拓也に言ったのだが、拓也は突然の予想もしない質問に食べていた冷やし中華を吐き出しそうになる。その会話が耳に入った美穂が顔を赤くして拓也の父親にで言う。



「や、やだ~、お父様ったら! 実はね、拓也さんからは何度も『俺の部屋でやろう』って誘われているんですけど、どうも奥手のようで」


「ちょ、ちょっと、ふたり何を話して……」


 こそこそ話をするふたりに焦る拓也。拓也の父親はそれを聞いて、ドンと拓也の背中を叩くと真剣な顔で言った。



「このバカ息子が!! 女性に恥をかかせおって! 美穂ちゃん、このバカには俺がしっかりと言っておく!!」


「お、お父様ったら、いいんですよ~、きゃは!!」



(ちょ、おいおい、一体何の話で、どう盛り上がってるんだ!?)


 拓也は暴走する父親と美穂との会話に、何度も首を振りながら早く食事が終わることを祈った。

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