55.汗だくの美少女!?

『花火大会一緒に行きませんか~? もれなくマキマキの可愛い浴衣姿が見られますよ!!』


 拓也はスマホに送られて来たマキマキのメッセージを読んで固まった。



(マキマキさんの浴衣姿……、ごくり……)


 拓也は美穂や玲子とはまた違った美少女のマキマキの姿を想像する。

 肩までに綺麗に切り揃えられた髪に大きな目。そして浴衣を着て男を魅了するような愛くるしい喋り方で話し掛けてくるマキマキ。



(こ、これで落ちない男は居ないだろ……)


 そう思いつつも自分には大事な目標があると思い直し、返事を打とうとスマホを見つめる。



(断れ、断るんだ。簡単な事じゃないか……)


 そう思いつつも一向に動かない指。

 陰キャが女の子の誘い、しかも美少女の誘いを断るなど考えられないこと。しかも女性経験がほぼ皆無の拓也にとってそれは、下手に断って「相手を傷つけたらどうしよう」という不安が沸いて来る。



『実は、その日はちょっと……』


 打ち込んでから我ながら何といういい加減な返答だと呆れる。多少努力してもこれが陰キャの力。内面までは変えられない。



『当日の夜、改札で待ってますね!!』


 そんな拓也の返事も全く気にしない様なマキマキがすぐに返事を送る。慌てて拓也が書き込む。



『その日は行けるかどうか分からなくて……』


 しかしそう書き込んだメッセージは一向に既読にはならなかった。





『団長、乙~!! 快勝快勝!! 今日も頑張ったね♡』


 ぼうっとスマホを見つめる拓也が、『デスコ』の幹部部屋に書き込まれたメッセージに気付いた。副団長ミホンからである。マキマキとやりとりしていて初戦の結果を見ていないことに気付いた拓也が、すぐにスマホの『ワンセカ』を立ち上げる。



(完勝、だな)


 勝ちは確定していたが拓也が出した指示通りに動いてくれた団員のお陰で、初戦にしては十分過ぎるほどの勝ちを手に入れていた。すぐに美穂に返事を打つ。



『お疲れさま! いつもありがとう!!』


 すぐに美穂から返事が来る。



『ねえ、団長。明日ひま?』


 拓也が翌日の予定を思う。『ギルド大戦争』の予選がある以外特に予定はない。



「『ワンセカ』の予選やるけど、それ以外は特にないかな」


 そう打った後すぐに美穂が返事を送る。



『そお? じゃあ明日午前中だけど一緒に『夏季校内清掃ボランティア』に行こうよ!!』


 夏季校内清掃ボランティア。

 それは期末試験できわめて赤点に近い者が強制的に参加させられる夏休みのイベント。

 一見ただのアホの集まりのイベントに思われるが、そこにと付けることで希望する全生徒の参加を可能とし大勢が参加する賑やかなイベントとなっている。拓也が書き込む。



『それって、まさか?』


『そう、そのまさか』


 拓也は直ぐに美穂が強制参加の対象だと悟った。美穂が書き込む。



『一緒に行こうよ。暇なんでしょ?』


 これからしばらく精神的にも体力的にもハードな指揮を行わなければならない。決して暇ではない。


『暇じゃないけど……』


 美穂がすぐに反応する。



『暇じゃないけど、でも行ってもいいってことね?』


(おいおい!)


 陰キャに夏の日差しは天敵。

 夏こそ涼しい空調の効いた部屋でゲームやアニメ、ラノベを読むのが至高。炎天下での草取りなど想像しただけで干からびて死ぬ。



『じゃあ、明日校門に8時集合で。じゃあね!!』


(へ?)


 そう書き込むと美穂は役職部屋から退出して行った。






「おっは~、木下君っ!!」


 数日ぶりに見る美穂の制服姿、そしてその元気な挨拶。

 翌朝、校門の前で待つ拓也に美穂が近付いて笑顔で言う。



「ちゃんと来てくれたんだね! いい子いい子!!」


 そう言ってちょっと背伸びして拓也の頭を撫でようとする。


「わわっ!! よせって!!」


 突然のことに驚いて体を避ける拓也。

 セミの声が響く暑い夏の朝。強い日差しにアスファルトは既に熱を持ち、立っているだけで汗が出て来る。夏休みに入って息を止めていたかのように静かだった学校に、久しぶりに生徒がの声が響く。



「さ、行こっか!」


 美穂はそう言って拓也の手を引き校内へと入る。

 参加する生徒達が集まった校庭にはすでに数十名ほどになっている。皆、体操服に着替えて順番に教員の指示を待つ。

 拓也と美穂もすぐに体操服に着替え、そして校庭へと向かう。集まった者から順に清掃場所を言い渡される。



「はい、草取りね」


(ぐはっ!!)


 最も地味で人気のない校庭の草取り。

 事務的に話す教員から軍手を受け取り、拓也と美穂が指示された校庭の隅へ向かい草むしりを始める。



「ひゃあ~、ここは木陰になっていて涼しいけど、草って結構強いね!!」


 美穂が額に大粒の汗をかきながら、大きな雑草に手をかけ必死に引っ張っている。雑草に強いという表現自体良く分からないが、きっと「抜くのに大変だ」って意味なんだろうと拓也は思った。



(しかし、暑いな……)


 幸い木陰であったが、初めて数十分で汗だくになっていた。持ってきたタオルも既にしっとりとしている。熱中症にならないようにしっかりと水分補給するのだが、飲んでも飲んでもすぐに喉が渇く。



「ひゃあ~、大体この辺は終わったかな~?」


(うっ!!!)


 そう言って目の前に立った美穂に拓也の視線が釘付けになる。

 下は長ズボンを履いているが上半身は暑さのため半袖。その半袖が美穂の汗で濡れており、体のラインがはっきり分かるほどくっついている。見てはいけないと思いつつも拓也が美穂の体を凝視する。



(ピンク、ピンク、ピンク色……)


 服の上からうっすらと見える美穂の下着。

 それに気付かない美穂は暑さの為、シャツをバタバタと動かし涼む。そしてこちらを見ている拓也に気付いて言う。



「木下君、顔真っ赤だよ? 大丈夫? 熱中症に気を付けてね」


 別の意味の熱中症になりそうだ、と拓也は暑さで頬を赤らめる美穂を見て思った。





「はーい、じゃあ次、プール清掃お願いね!」


 一通り草取りが終わった拓也達は次の掃除場所の指示を受けた。

 時刻は午前10時前。昼前には清掃活動は終わるができれば『ワンセカ』の様子も見たい。そんなことを考えていた拓也だが有無を言わさず次の清掃場所であるプールへと連れて行かれる。



「きゃ!! 冷たいっ!!」


 水の抜かれたプール。少し撒かれた水で半分遊ぶように掃除をする生徒達。先ほどの蒸し暑かった校庭の草取りとは全く違う。

 拓也と美穂はズボンの裾をまくってプールサイドに立つ。



「はあー、泳ぎたいね! 水ないけど」


「そ、そうだね……」


 真面目に言ってるのかふざけているのか分からない美穂を見て拓也が苦笑する。



「じゃあ、始めよっか」


 デッキブラシを持った美穂に答えようとした時、プールの端から声が掛かった。



「団長ーーーっ!!!」


「え?」


 甘い呼び声。肩までのショートカットの美少女。拓也が言う。



「マキマキさん!?」


 マキマキは手や足をべたべたに濡らしながら笑顔で拓也の方へと走って来た。

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