50.二連覇宣言しますっ!!

 7月に入った梅雨の中休み。久しぶりに晴れたお昼休みに拓也は美穂と、団員であるとどろき良明よしあきと一緒に屋上で弁当を食べていた。



「随分暑くなったね~、ここも」


 春は涼しかった屋上も、今は強い日差しと湿気で蒸し暑くすら感じる。美穂が良明に言う。



「ヨッシーはまたパンなんだ」


 購買部で買ってきたパンを食べていた良明に美穂が笑って言った。


「まあね、美穂はまた手作り弁当?」


「そうよ。で、木下君は?」


 美穂は自分の横に座っている拓也の弁当を覗き込む。



「夕飯の残りだよ」


 拓也がそう答えると、美穂が笑って言った。



「ふたりとも寂しいねえ~、良かったら今度私がお弁当作ってあげよっか?」


 すぐに良明が反応する。



「お、ホントに? 是非頼むよ!!」


「よし、じゃあ敵の討ち取ったら作ってあげる」


 大将とはもちろん『ワンセカ』の『ギルド大戦争』のことである。



「最近、人、減ってるよな……」


 拓也がぼそっと言った。

『ピカピカ団』団員の退団が、ここ最近増えていた。モチベが下がったり、傭兵はその名の通り渡り歩く人達のことなので人の流出は仕方ないが、最近の減り方は団の維持に関わるほどになりつつある。良明が言う。



「それなんだけどさあ、団長……」


 真面目な顔になった良明にふたりが注目する。



「実は退団した傭兵、俺のフレンド数名いたんだけど、ちょっと気になってプロフィール画面見たら結構『竜神団』に行ってた」


「『竜神団』……」


 拓也が小さな声で言う。それは前回の『ギルド大戦争』で決勝を争った相手。

 団長の不祥事か何かで一旦活動停止になっていたようだけど、最近また活動を始めているようだ。美穂が言う。



「えー、それってまさか、引き抜き!?」


「そうだね、偶然か分からないけどその可能性もある」


 良明が真剣な顔で言う。拓也が思う。



(それは困った。「団長の仕事は人集め」だとは言うけど、確かに団員の維持って難しい。それにこのままじゃ……)


 拓也は隣に座るを横目でちらりと見る。



「SNSで募集もっとたくさんかけよっか」


 その美穂がふたりに言う。

 既に幾つかのSNSで団員募集は行っているが、もう少し露出を多くしようと言う意味だ。良明が頷いて言う。



「そうだね。あと団長」


「ん、なに?」


 良明が拓也に言う。



「団長自らSNSで『二連覇宣言』してくれる?」


「はあ!?」


 良明は真面目な顔だ。美穂も突然の言葉に少し驚きながら良明を見る。



「ランカーで神軍師の団長がSNSで二連覇宣言をすれば、きっとたくさんの強者が共感して集まってくるはず。責任重大だけどね」


「なるほど。それはいい!」


 美穂も頷いて賛成する。

 拓也は以前ふたりで勝手にオフ会開催を決め、無理やり自分に同意させたことを思い出す。


「ちょ、ちょっと……」


 何か言おうとした拓也を遮るように美穂が言う。



「やろうよ、それ。簡単じゃん!」


(は? マジで言ってるのか、それ……)


 美穂はSNSに書き込むことを意味していたのだが、もちろん拓也には『二連覇すること』の意味として捉えている。しかし同時に考える。



(ただ、ただ考えろ。前回優勝のギルドの団長が『優勝宣言』をすれば確かに人は集まる。それに……)


 拓也は良明とSNSで書き込む文章を考え始めている美穂を見つめる。



(俺は二連覇するんだ。そして俺の気持ちをきちんと伝える。それは俺自身に誓った約束。なら自分を追い込んででも……)


「分かった。書き込むよ。『二連覇する!!』って」



「うん、そう言ってくれると思ったよ。じゃあ文章は……」


 良明は頷きながら拓也に答えると、美穂と考えた『二連覇宣言』の文章を伝えた。



 その夜、前回優勝ギルド『ピカピカ団』団長タクのSNSに『ギルド大戦争二連覇』宣言が書き込まれる。そしてしばらく『ワンセカ民』の間ではその話で持ち切りとなった。






「みなさん、本日はお忙しい中、また遠方よりお集まり頂きまして本当にありがとうございます!! 今日は心行くまでを楽しみましょう!! 乾杯っ!!!」


『竜神団』団長の龍二ジリュウは、オフ会の為に集まった団員に元気よく挨拶をし手にしたグラスを頭上に掲げた。



「乾杯ーーっ!!」


 集まった団員達も手にしたグラスで乾杯をする。

 急遽団長の呼びかけで開催された『竜神団』のオフ会。場所はさすがに団長が高校生なのでファミレスだが、それでも広い店舗の一部を借り切っての開催である。

 集まった数十名の参加者が用意された食事を食べならが笑談を始める。



「団長、お初にお目にかかります」


 そう言って龍二ジリュウの前にやって来たのは、同じ高校生ぐらいの男。すぐに自己紹介をする。



「軍師に任命して貰っているアッシです」


 それを聞いた龍二の顔が明るくなる。


「おお、あなたがアッシさんでしたか!! 何と聡明そうなお顔だ!!」


 龍二は今回初めて参加したアッシを見て喜びを表す。実際人付き合いが嫌いな嵐はこれまで開かれてきたオフ会をすべて断って来た。



(かなりのイケメンだな。まあ、予想通り軽そうな人だが……)


 アッシは笑顔を保ちながら龍二の挨拶に応えた。




「さて、ではみなさんにプレゼントを贈ります!!」


 オフ会が始まりしばらく経った頃、突然大きな声で龍二ジリュウが皆に言う。そして紙袋に入れて置いたカードを取り出すと皆に見せた。



「交通費です。ここまで来てくれたみんなにささやかなプレゼントです!!」


 そう言って手にしたを頭上にあげ皆に見せる。



「おおっ!!」


 会場からは喜びの歓声が上がる。

 そして龍二ジリュウは皆に景気よくカードを配りそして叫ぶ。



「さあ、これでガチャを回して、念願の『ギルド大戦争』の優勝を目指そう!!!」


「おおーーーっ!!」


 皆がカードから課金し、そして次々と有償ガチャを回し始める。SSRが確定された有償ガチャなので、皆が次々と最新キャラを入手していく。喜びの顔が溢れる会場。龍二ジリュウはそれを観て満足そうにうなずく。



(これで次こそは俺が勝つ。ピカピカ団あっちは崩壊だしな、くくくっ……)


 龍二は間もなく始まる『ギルド大戦争・予選』に確かな手応えを感じていた。






(はあ、ようやく終わった……)


 長かった学期末試験も無事に終わり、ようやく明日から待望の夏休みに入る。教室で最後の挨拶を終え荷物を片付けていると、隣に座ったマキマキが拓也を見つめて言った。



「団長~、夏休みはどうするんですか?」


 特にまだ予定もない拓也。ひとことだけ言う。


「『ギルド大戦争』予選」


「あ、そうですね。……って、それ以外です!!」


 マキマキがちょっとむっとした顔で言う。



「まだ分からないよ、じゃあ」


 そう言って帰ろうとする拓也にマキマキが後ろから言った。


「Rainで連絡しますねーーー!!」


 拓也は軽く手を上げながら廊下に出る。そして教室を出た瞬間、その聞き慣れた声が頭に響いた。



「おつ~、木下君っ!!」


「涼風さん!?」


 カバンを持ちにっこり笑う美穂。この顔は必ず何かあると拓也が身構える。美穂が言う。



「次の土曜日、海行こ! う~みっ!!」


 拓也は予想通りの展開に思わず苦笑いした。

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