47.俺の部屋で美少女コスプレショーだと!?
痛みも幾分引いてきた足をかばいながら拓也がクラス席に戻ると、校庭では初の開催となる『仮装大賞』の舞台が急ぎ組み立てられていた。
舞台の後ろには男女別に分けられた大きなテントが設けられ、中が見えないようになっている。そこに出場者だろうか、大きなカバンを持った人達が次々と入って行く。
初めての開催となるコスプレショーに生徒達の間に期待感が高まる。
拓也はそんな光景を見ながら、数日前突然マンションにやって来た美穂のことを思い出した。
『ねえ、今、部屋にいる?』
休日のお昼過ぎ、特段用事の無かった拓也は部屋でゴロゴロとアニメを見ていた。そこへ美穂からのメッセージが届く。
『いるけど、どうしたの?』
そう拓也が打つとすぐに返事が返って来た。
『今近くにいるんだけど、そっち行っていい? 相談したいことがあるの』
(相談?)
拓也はまた『ワンセカ』のことだと思いすぐに「いいよ」と返事を打つ。そして直ぐに美穂がやって来た。
「おっはー、木下君!!」
美穂は黒いキャップを被り、太ももまでの赤いジャケット、そしてデニムのショートパンツを履いている。陰キャにはどうひっくり返ってもあり得ない服の組み合わせ。
美穂は肩から掛けた大きな黒いバックを持って部屋に上がった。
「ごめんねえ~、ちょっと相談したいことがあってさ」
「『ワンセカ』のこと?」
そう言いつつもまだ『ギルド大戦争』まではまだ少し時間がある。美穂は首を横に振ってそれに答える。
「ううん、違うの。今度の『仮装大賞』のコスのことなんだけど」
「ああ……」
拓也は美穂が体育祭の『仮装大賞』で「暗殺少女リリルカ」のコスをすると言っていたことを思い出す。美穂は持ってきた黒いカバンの中から、赤と黒の衣装を取り出して拓也に見せる。
「あ、それって……」
拓也すぐにピンときた。美穂が言う。
「そう、リリルカの衣装だよ」
「うわっ、凄い!!」
暗殺少女リリルカのシンボルである真っ赤なマントに同じ赤いハット。黒のボンテージ風の衣装に同じ黒いブーツ。拓也は瞬時にそれがすぐにリリルカのものだと気付いた。美穂が言う。
「ちょっと本番前にさあ、木下君に見て貰おうと思って」
「俺に?」
戸惑う拓也に美穂が部屋に置かれたフィギュアを指差して言う。
「だって、詳しいでしょ?」
「あ、う、うん……」
確かに大好きなアニメ。原作はもちろん、アニメも何度も観ている。拓也が言う。
「分かった。じゃあ……」
そう言ってカバンから出されたマントに手を伸ばそうとする。しかし美穂は衣装を自分の方に寄せると拓也に言った。
「違うよ。これから私が着るからそれを見ておかしい所とかあったら言って欲しいの」
「は、はあ!?」
そう言うと美穂は衣装を抱えて立ち上がる。そして拓也の部屋を出ながら言った。
「覗いちゃダメよ」
「ちょ、ちょっと!?」
拓也の部屋のドアを閉めかけた美穂が立ち止まり、顔だけ出して笑って言う。
「でも団長命令ならちょっとだけいいよ、覗いても」
「お、おい!!」
「きゃははっ、ごめ~ん。じゃあ着替えて来るね!!」
美穂はそう言うと笑いながら部屋を出て行った。
部屋から出て行った美穂を見て、拓也は改めて彼女が自分の思考範疇では理解できない陽キャだと思った。
(う、そ……、マジで……?)
しばらくして着替え終え部屋に戻って来た美穂は、既に涼風美穂ではなく完全に『暗殺少女リリルカ』そのものであった。
「どう、かな……?」
拓也はちょっと恥ずかしそうに目の前に立つリリルカを着た美穂を見つめる。
リリルカのシンボルである真っ赤なマントの中に、黒のミニスカートタイプのボンテージ。真っ白な太腿の下には膝までの黒のブーツ。そして頭にはこれまた赤いハットが載せられている。
(凄い……、ほぼ完璧だ。だけど……)
しかしリリルカとは全く違う点がひとつだけあった。
(む、胸っ、胸、胸ええええ!!)
暗殺少女リリルカは貧乳キャラである。
色気を使って暗殺を試みる際も、いつも胸パッドを入れるかどうかで悩んだりしている。
しかし目の目にいるリリルカは、ボンテージ衣装から半分ほどはみ出した豊満な胸を持つ、立派に成長したリリルカであった。
「ちょ、ちょとぉ、そんなにガン見しないでよ……、さすがに恥ずかしいよ~」
普段読モとして多くの人に自分を見られている美穂だが、拓也にじっと見られることがなぜだか想像以上に恥ずかしく戸惑う。
「……で、どうかな?」
美穂の言葉に拓也が頷いて言う。
「え? あ、うん。凄いよ、凄くリリルカ!! すっごく可愛いよ!!」
「ほ、本当ぉ!?」
拓也の言葉に美穂も頬を赤くして嬉しそうに答える。そしてくるくると何度も回りながら拓也に衣装を見せる。
(凄く綺麗、涼風さん!! で、でも……)
拓也は嬉しそうにする美穂を見てやはりその点だけはリリルカではないと言わざるを得ないと思った。
「あ、あのお、涼風さん……」
「ん? なに?」
拓也の言葉に美穂が目をパチパチさせながら言う。拓也は少し顔を赤くして言い辛そうに口を開いた。
「その、あまり気を悪くしないで欲しいんだけど、実は、その……」
眉をしかめる美穂。
「なに? はっきり言ってよ。そんなに言い辛いことなの?」
拓也が心を決める。
「その、胸なんだけど……」
「胸? なに、触りたいの?」
美穂がちょっと小悪魔的な笑みでからかう。
「ち、違うっ!!」
「触りたくないの?」
「い、いやそれも、違うと言うか何と言うか……」
「どっちなの~? うふふっ」
完全に陽キャに飲み込まれた拓也。改めて美穂を見て言う。
「む、胸なんだけどさ、貧乳キャラのリリルカにしては、その……、何て言うか……、涼風さんのは大き過ぎると言うか……」
拓也は自然と下を向き、顔を紅潮させ、そして汗が大量に流れているのに気付いた。
「あー、そうか、だからか!!」
「え?」
美穂は拓也の部屋にあった鏡を見て言う。
「だからなんか不自然だったのよね。そうか、胸か。胸が大き過ぎたのね!!」
(え? 気付いていなかった? いや、気付くだろ、普通……)
拓也は鏡の前で胸を寄せたり引っ張りしている美穂を見て驚く。
「ありがと、木下君。胸には布とか巻いて目立たなくするよ。一応ガイドラインにも露出の多い服とか性的刺激を与える衣装は不可って書いてあったし」
「あ、ああ、うん……」
もはや彼女のガイドラインの基準が良く分からなかった拓也だが、とりあえず理解した顔をして頷いた。美穂が言う。
「木下君、私、勝てるかな?」
拓也は大きく頷いて言う。
「うん、絶対優勝だよ!!」
「きゃは、嬉しい!! ありがと!!」
拓也は喜ぶ美穂を見つつ『仮装大賞は順位をつけたりして争う競技ではない』と思い出したが、彼女ならきっと優勝できると思えた。
「ねえ、木下君」
「ん?」
「ご希望ならまた違ったコスプレしてあげようか?」
「ええっ!?」
拓也は嬉しいと思いながらも、顔が真っ赤になり言葉が出ない。美穂が言う。
「団長命令なら、してくるよ~!!」
「うごごごっ……」
美穂は赤くなって固まる拓也を見てくすくすと笑う。そして思う。
(楽しいな。誰かに見て貰うことがこんなに楽しいことだと知らなかった)
読モで人に見られていることに慣れているはずの美穂。最初こそ新鮮であり楽しめてやれていたが最近はそうは思えない。
(やっぱり、……な人に見て貰えるのが一番嬉し、って、えっ!?)
そこまで思った美穂は両手を口に当てて驚く。
(私、今、なんて思ったの? えっ、ええっ……!?)
美穂は手で口を押さえながら、目の前で顔を赤くする拓也を見つめた。
『仮装大賞の開始でーーーす!!』
校庭に響く『仮装大賞』開始を告げる声。それに呼応して沸き起こる生徒達の歓声。陽華高始まって以来のイベントに学校中が熱気に包まれる。
(頑張れ、涼風さん)
拓也もクラス応援席で座って心の中で美穂の応援をし始めた。
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