42.両手に美少女!?

(重い、体が重い。いや、体じゃなくて、重いのはか……)


 朝、目が覚めた拓也は、全身を包むような体の重さにベッドから動けなくなっていた。



「はあ……」


 拓也は無理に体を起こすと、ここしばらくずっと続いている「もやもや感」にため息をついた。



(俺は、どうしたいんだ……)


 そう思った時、一番最初に頭に浮かんだのが涼風美穂の顔。



(彼女とは仲良くなった。同じゲームで遊んで、それ以外でも仲良くなった。……で、俺はどうする?)


 拓也は首を横に何度も振り、眠そうな顔が映った鏡で自分の顔を見る。そして黙って学校の支度を始めた。






(まあ、こんなもんでいいだろう)


 龍二は『ワンダフルな世界で君と(通称ワンセカ)』のゲーム垢の売買サイトを見ながら思った。

 PCの画面に並ぶ値が付けられたたくさんの『ワンセカ』の垢。引退、もしくは金銭目当てにアカウントを作り、ある程度育てて売りに出されたものだ。人気ゲームなら良い値が付くが、基本この様な売買は厳禁。公式のガイドラインにもしっかりと『違反行為』と明記されている。



「これが一番まともだろう」


 龍二はその中でも特にキャラの揃っていて、そして育成が進められている垢を選択。購入手続きに入る。

 やがて送られて来たパスワードなどのログイン情報をもとに、先にタブレットにインストールしておいた『ワンセカ』に入力する。



「……よし」


 龍二はその新しいアカウント、が正常に動くことを確認。すぐに所持キャラを確認した後に、クレジットカードを登録。



「じゃあ、やるか」


 そして一気に課金をして有償ガチャを回し始める。高校生としては多過ぎるほどの課金をしたガチャ結果を見つめる。



「相変わらず渋いガチャだ……、くそっ」


 龍二はその結果に不満を示しながらも、もとからあった戦力、そして今手に入れた最新キャラを育て強アカウントに仲間入りしたサブ垢を見つめる。



「これぐらいでいいだろう。さて次は……」


 龍二はサブ垢のギルド検索から『ピカピカ団』を探し出し、入団申請を行った。






「おはようございまーす。団長!」


 朝、学校に登校した拓也に正門で立っていたマキマキが笑顔で言った。


「あ、ああ。おはよう……」


 周囲の視線が元気な美少女のマキマキに集まる。

 朝から目立ちたくない。マキマキはそのままでも十分目立つ上、今日は幾分スカート丈も短くそこから伸びた白い足が周りの男達の視線を集めている。拓也が尋ねる。



「どうしたの、朝から……?」


 マキマキが笑顔で答える。


「どうしたのって、一緒に行きましょ。教室まで」


 そう言うとマキマキは遠慮することなく拓也の腕に手を絡める。



「うがっ!? ちょ、ちょっとマキマキさん!?」


 焦る拓也。

 しかしマキマキの目は既にふたりの前に現れたその人物をしっかりと捉えていた。



「おはよ、木下君」


「げっ、涼風さん!?」



 そこには腕を組んで仁王立ちする美穂の姿があった。美穂が眉間に皺を寄せて言う。



「げっ、て何よ。いちゃいけないの? 私」


 拓也の背中に大粒の汗が流れる。



「そ、そんなことあるはずが……」


「離しなさいよ、それ」


 そんな拓也の言葉を無視するように、美穂は拓也の腕に絡みつくマキマキに言った。マキマキも真剣な顔して答える。



「え~、どうしてですか? 団員が団長と仲良くするのってありだと思いますけど~。先生にも言われたし、から色々教われって」


 それを聞いた美穂の顔が怒気に染まる。そしてふたりの間にやって来ると、手刀を振り下ろしふたりの腕を断ち切る。

 無言の美穂。只ならぬ雰囲気に周りの視線が集まる。



「す、涼風さん……?」


 拓也が恐る恐る声を掛ける。美穂はマキマキを睨んだまま静かに口を開いた。



「これが勝負ってわけね?」


 拓也の横に立つマキマキも不敵な笑みを浮かべて答える。



「そう受けとって貰っても構いません」


「お、おい……」


 何が何だか全く意味が分からない拓也が声を出す。それを無視してマキマキが言う。



「前にも言ったけど『ワンセカ』では協力しましょうね。でも……」


 美穂が言う。



「それ以外は戦いね」


「ええ」



「な、仲良く、ふたりとも……」



「木下君!!」

「団長!!」


「はいっ!!」


 突如ふたりの美少女に名を呼ばれた拓也が驚いて返事をする。美穂が大きな声で言う。



「教室に行くよ、木下君っ!!」


 マキマキも負けじと声を出す。


「行きますよ、団長っ!!」



「ひゃっ!?」


 美穂とマキマキはそれぞれ拓也の左右に立ち、腕を手を絡ませながら校内へと歩き出す。



(ちょ、ちょ、ちょっと!? 一体何がどうなって……!?)


 拓也はふたりの美少女に挟まれながら校内へと入った。




「ねえ、ミホンさん」


 拓也の腕を引っ張りながら拓也の教室の前まで来たマキマキが美穂に言う。


「なに?」


 美穂も反対の腕に手を絡ませながら答える。


「『ギルド大戦争』、頑張りましょうね」


 そう言ったマキマキの顔が笑顔になる。美穂ももちろん笑顔で返す。



「当然!! 二連覇、目指そうね!!」


 そう言うとふたりは教室の前でお互いにグーを作って軽くコンとぶつける。そして笑顔で自分の教室へと入って行く美穂を見ながら拓也が思う。



(な、なんだ!? やっぱり仲がいいのか、このふたり……?)


 拓也は同じ笑顔のマキマキを見ながら、全く理解できないふたつの生き物について少し考えた。

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