41.マキマキ、攻めます!!

っ、おはようございます!!」


(ぐはっ!!)


 朝、登校して隣の席に座ったマキマキが笑顔で拓也に言った。

 美穂とはまた違ったタイプの美少女。しかも転校生、何をやっても目立つ。拓也が小声で言う。



「だから、学校ではその呼び方はやめろって言ったろ?」


 拓也が汗を流しながら言う。マキマキが答える。


「ええ〜っ、こんな後ろ誰にも分からないないですよ。大丈夫ですって」


 拓也はマキマキの顔を見ながら思う。


(こいつも陽キャの血が流れているのか? 何故そのように思える!?)


 拓也は周りの耳が自分達の方に向けられている事に気付きながら思う。



「それに団長だって、私のこと『マキマキ』って呼ぶじゃないですか?」


「は?」


(おいおい、ちょっと待てっ!! それはお前が最初の自己紹介でにそう呼んでくれって言ったからじゃないか!?)



「お前、だってそれは……」


 そう言い掛けた拓也の言葉を遮るようにマキマキが言う。


「私ね、また団長のに行って……」


「分かった!! 分かったからもうそれ以上は……」


 拓也は周囲の視線を感じながら、額に汗を流して言う。



「じゃあ、団長って呼んでも……」


「……ああ、いいよ」


「やった!」


 拓也は笑顔で喜ぶマキマキを見ながら、クラスメート用に団長という名の別の意味を考えなければならないと思った。



「あと団長……」


 マキマキが拓也を見つめて言う。鈍感な拓也だが、きっとこの後の言葉が爆弾になりそうな予感がした。


「団長ってよくお昼どこか行っちゃうじゃないですか。どこ行ってるんですか? 良かったら私も一緒に行ってもいいですか?」


(うぐっ!?)


 嫌な予感が的中する。拓也が答える。



「いや、その、購買部。そう、購買部でパンを買いに行ってるんだよ……」


「へえ……」


 マキマキの目つきが変わる。何か地雷を踏んだのかと思い、拓也の首に汗が流れる。マキマキが言う。



持って、パンを買いに行くんですか? この間後から追いかけて購買部も行ってみたけど、団長いなかったし」


(ぐほっ!!)


 見事、マキマキのカウンターを食らった拓也。元々女性との会話、陰キャにそんな駆け引きのようなことができるはずがない。



「いや、あれは……」


 どうしようかと拓也が考えた時、ドアが開いて担任が入って来て言った。



「おーい、始めるぞ」


 拓也はすぐに前を向き、助かったと思った。






(ん? 何これ?)


 美穂は休憩時間に拓也から送られて来た『デスコ』のメッセージを見て眉をしかめた。



『マキマキさんがお昼一緒に食べたいって言ってるけど、どうしよう?』


 美穂はそれを読み、しかめた眉を吊り上げて怒りの返事を送った。



『断って。屋上あそこはあまり他の人に知られたくないの!!』


(そうだよな……)


 美穂にとっても、拓也にとってもふたりで色々なことを話し合った特別な場所。特に美穂にとってはあそこを別の女に邪魔されるのは我慢ならなかった。

 拓也は了解の旨を『デスコ』に書き込んで送り返した。




 お昼。

 美穂から「考えがある」と返事を貰ってから沈黙を続けていた拓也。用意してきた弁当箱を取り出そうとすると、隣に座っているマキマキが拓也に言った。


「で、団長。お昼どうするの~?」


「うっ、そ、それは……」


 何も聞かされていない拓也。

 しかし一瞬で変わったクラスの空気に気付き、教室のドアの方を見る。



(涼風さん?)


 拓也は教室にやって来た美穂の姿を見て驚く。手には自分の弁当箱。そして遠慮なしにふたりの前に来ると笑顔で言った。



「一緒に食べようか、弁当。ここで」


「え?」


 驚くふたりをよそに、美穂は空いていた他人の椅子を持って来て拓也とマキマキの間に座る。そして弁当を拓也の机の上に置き笑顔で言う。



「さ、食べよ。ここで」


「す、涼風さん……?」


 マキマキも美穂の行動に唖然としている。クラスの視線を浴びながら美穂は美味しそうに弁当を食べ始めた。






 龍二は学校帰りの送迎車の後部座席で、『ワンセカ』の掲示板をじっと見つめていた。

 そこには夏に開催される『ギルド大戦争』についての書き込みが少しずつ増えてきている。強豪ギルドは今のうちから人集めに必死になり上位を目指す。龍二はそんな中からあまり思い出したくない名前を見つけた。


(『ピカピカ団』……)


 前回決勝で敗れ、そして自分が第一線から退く羽目になった相手。龍二の頭に当時の苦い思い出が蘇る。


(団長は、タクとか言ったな。団員にミホン、……あれ?)


 龍二は一度スマホから視線を外し、必死に何かを思い出そうとしている。そしてようやくそれが結びついた。



(タク、タク、タクヤ、拓也……、ミホン、ミホ、美穂……、嘘、ま、まさか……)


 龍二の顔が一瞬で青くなる。



(まさか木下拓也と、涼風美穂、なのか? 『ピカピカ団』とはあいつらのギルドなのか!?)


 龍二は信じられない気持ちと、大きな発見をした興奮で頭が真っ白になる。そしてひとりつぶやいた。



「調べなければ。ちゃんと調べる必要がある……」


 龍二は黙って『デスコ』の掲示板を見つめた。






『起きてる?』


 夜、ひとりもやもや感に苛まれていた拓也がスマホに送られて来た美穂のメッセージに気付く。すぐに返事を打つ。


『起きてるよ』


 拓也がそう打ち込むと暫くして美穂から返事が来た。



『ちょっと聞きたいんだけどさあ、団長って赤が好き? それとも白が好き?』


(赤? 白?)


 拓也は意味の分からない質問に一瞬戸惑う。



『何のこと?』


 そう拓也が打ち込むも美穂は「秘密」と言って教えてくれない。



(赤、白……、紅白のことか? だったら俺は男だから……)



『白、かな』


 すぐに美穂が返事を書き込む。


『白ね、了解!!』


 美穂は嬉しそうにPC画面に映し出された真っ白なの『購入』ボタンを押した。

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