39.美少女、ご立腹!?
一限目の授業の合間に拓也のクラスにやって来た美穂。しかしその横に座るショートカットの美少女を見て驚きの声を上げる。
「マキマキ!?」
「こんにちは、ミホンさん」
一瞬で変わる空気。
鈍感な拓也ですらその変化に気付く。そしてそれ以上に拓也のクラスの視線が、ただならぬ雰囲気の美少女ふたりに注がれる。美穂が言う。
「な、なんでマキマキがここにいるの?」
「私、転校して来たんです。今日からここへ」
そう言ってマキマキは自分の机を指差す。拓也が言う。
「本当に偶然で。俺もさっき知って驚いて」
それを聞いたマキマキが拓也を見つめて言う。
「私もホントにびっくり。そして先生からもいろいろ教えてあげてって言われたよね、団長?」
「あ、いや、それは……」
振られた拓也が苦笑いする。
しかし見つめ合って笑う拓也の苦笑いは、美穂の目にはそうは映らなかった。
「楽しそうね……」
「え、涼風さん?」
拓也が驚いて声を出す。
その瞬間雰囲気が、決して良くない方向に美穂の雰囲気が変わったことに気付く。
「楽しそうね……」
(うぐっ!?)
明らかに怒っている。
理由は分からないが確実に怒っている。そんな美穂に余裕の笑みを浮かべたマキマキが言う。
「近くに来れて嬉しいです。これからよろしくお願いしますね。ミホンさん」
そんな言葉とは裏腹に、勝ち誇ったかのような表情に口調。
美穂は少し前まで自分の席だった最後列の拓也の横、その聖域が奪われたかのような感覚に陥る。何かを言おうとした時授業開始のチャイムが鳴った。
「こちらこそ。じゃあ、また」
美穂はそう笑みを浮かべて自分の教室へと戻って行った。マキマキが言う。
「そうか、やっぱり同じ学校だったんだ。団長」
「え、あ、ああ……」
鈍い拓也でも目の前で行われた少しギクシャクしたふたりの会話に戸惑った。
美穂が去り、クラスの視線も和らいできた時、担任が教室に入って来て二限目の授業が始まった。
(なんで、何でマキマキが!! あそこは私の場所なのに!!!)
教室に戻った美穂はやり場のない怒りと悔しさを必死に堪える。
(それに何よ、あの木下君の顔っ!!)
美穂はマキマキに見つめられてデレデレと笑う拓也の顔を思い出し怒りが頂点に達する。
(許さない、許さないんだから、あんなの!!)
美穂は教員が来る前に素早くスマホを取り出すと、メッセージを打ち込む。
ブルッ……
拓也はポケットに入れて置いたスマホにメッセージが来たことに気付く。
(涼風さん、かな……)
拓也はそっとスマホを取り出しメッセージを確認する。
『お昼、パンを買って屋上に来て。ひとりで来て!!』
それを見たまま少し固まる拓也。
(今日、弁当持ってきたんだけどな……)
拓也は教員が部屋に入って来たのですぐにスマホをポケットに入れた。
「ねえ、どうして彼女が隣に座っているのよ!!」
美穂はやや遅れて屋上にやって来た拓也を見て開口一番言った。
少し頬を膨らませて拓也を睨むように言う。以前の美穂のように用事もないのに話し掛けてくるマキマキの追撃を振り切って必死にここまで来た拓也だったが、とてもそんな話をする雰囲気ではなかった。
「どうしてって言われても、偶然なんだし」
「そんなこと分かってるわよ! でも何よ!!」
拓也は全く会話が嚙み合わないことに戸惑う。
「後ろの席で、楽しいの?」
(楽しい……?)
拓也にとって学校が楽しいと思ったことはほとんどない。
ただこうして美穂と関わりを持てたことについては戸惑いながらも嬉しいと思っている。それは素直に認めるところ。否定はしない。
「楽しい。うん、楽しい」
「な、何よ、それ!?」
美穂の顔が赤く染まる。拓也は彼女の顔が怒りで赤く染まっていることに気付く。
「い、いや、そう言う意味じゃなくて……」
「……海」
「へ?」
拓也はじっと自分を見つめる美穂の言葉を聞く。
「海、行こうよ」
(海? あ……)
拓也は以前、屋上で美穂に夏になったら海に一緒に行こうと誘われていたことを思い出す。
「う、うん。そうだね。夏になったら……」
「明日」
「は?」
美穂が真剣な顔で言う。
「明日土曜日でしょ? 海に行こうよ」
「あ、明日?」
てっきり夏になったら泳ぎに行くものだと思っていた拓也。
「海で泳ぐんじゃないのか?」
まだ晩春。泳ぐには早すぎる。
「それも行く。明日は海を見に、散歩に行くの。嫌なの?」
学年一の美少女に誘われて嫌な訳がない。
「そ、そんな訳ないだろ。もちろん行くよ」
その言葉を聞いた美穂の顔に初めて笑みが浮かんだ。美穂が言う。
「『ギルド大戦争』もまたやるし、団の相談もしたかったんだ。あ、あの幼馴染みさんやマキマキは連れて来ないでね」
「あ、ああ」
団の相談ならマキマキは良いはずだとは思ったけど、そんなことを言う状況ではないことは拓也は口を閉じた。
「あれ?」
美穂は拓也が持っている弁当の袋に気付いて声を出す。
「今日、弁当だったんだ」
今更ながら美穂が購買部でパンを買っていなかった拓也に気付く。
「ああ、今日は弁当」
そう言って拓也が美穂の隣に座る。美穂が拓也を見て言う。
「今度、一緒にお弁当作ってあげようか?」
「ええっ!?」
拓也も驚いて美穂を見つめる。
「団長にはいつもお世話になっているし。それぐらいいいよ」
そう言って密着するように座り可愛い弁当を広げる美穂を見て、やはりこの女性には敵わないと拓也は思い直した。
「あれー、玲子。何見てんの?」
拓也の幼なじみの風間玲子。
拓也と美穂が屋上で一緒にお昼を食べていた頃、先に弁当を食べ終わった玲子はスマホでネットショップを見ていた。それに気付いた友達が言う。
「水着? うわー、可愛いじゃん!!」
玲子の友達は彼女のスマホ画面に映った真っ白のビキニを見て言う。
「うん、これどうかなって思って」
「いいんじゃない? それより玲子。男できたの~、一緒に行くの~?」
友達は興味深そうに尋ねる。
成績優秀、スポーツ万能。そして歩けば男達が振り返るような美少女。そんな玲子に未だに特定の男がいないことに友達皆が不思議がっている。言い寄られた男子学生は多数。それをすべて断っているとの噂もある。玲子が答える。
「ううん、まだ。うん、まだだよ」
「まだ……?」
友達はその意味深な言葉に首を傾げる。
玲子は笑みを浮かべながらスマホの『購入』ボタンを押した。
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