38.美少女ミーツ美少女。

「こんにちは、みなさん。池上いけがみ真紀まきです。マキマキって呼んでください!」


 肩までに綺麗に切り揃えられた髪、大きな目、そして男を魅了するような愛くるしい喋り方。それはまさしく『ピカピカ団』のオフ会で参加していたマキマキその人であった。



「え、可愛くね?」

「ふつーに刺さるわ、あれ」


 周りの男子からは既にマキマキを受け入れるような会話が聞こえて来る。当然女子からは微妙な反応をされているのだが、当の本人はそんなこと気にしているような感じはしない。

 しかしただひとり、この男だけはその両方とは違った反応を見せていた。


(な、なんでマキマキさんがこの学校、いやこのクラスへ!? 同じクラスって、クラスメートになるのか!? ど、どうして!!??)



 担任の教師が皆を見ながら言う。


「と言うことで、みんな。まだ学校のことをよく知らない池上に色々教えてやってくれ。えー、あ、あと席はそこ。木下の横空いてるだろ? そこへ座って」


「はい」


(え、えええっ!? こ、ここだとぉ!? 俺の隣じゃん!!!!)


 拓也はクラスで唯一の空席になっていた自分の隣の机を見て全身から汗を流す。

 そうこうしている内に歩きながらクラスメートに笑顔を振りまくマキマキが目の前まで迫って来る。



暗黒障壁ダークネスウォール!! 我を……、ぐわっ!!!)


 そのショートカットの美少女は最後列の席まで来ると、自然と足を止めて隣のクラスメートを見つめる。そして驚き表情を浮かべて言った。



「団長!?」


 拓也はひとり頭を抱え込みながら、どうして年少期より培ってきた自慢の暗黒障壁がこうも簡単に、ゲーム内では最強の防御障壁だったはずなのに、この世界では何の意味も成さぬものなのだろうと悲しくなった。






「美穂……」


 足立龍二は昨年度に続き、またクラスメートになった美穂に声を掛けた。

 龍二は新クラスにあの鬱陶しい木下拓也がいないことを喜んでいた。そして自分に最もふさわしい女性である涼風美穂が同じクラスであることをそれ以上に喜んだ。


(美穂……、やはりお前は可憐だ。完璧な男である俺に最もふさわしい女。同じクラスになったことでそれが証明されている。運命もが認めた相手ってことだ)



「……」


 美穂は声を掛けて来た龍二をちらりと見るだけで返事をしようとしない。そしてまるで無視をするように周りの友達と会話を始める。



「美穂……、くっ」


 龍二は例の一件、拓也への嫌がらせを美穂に見られて以来全く相手をしてくれない目の前の美少女に苛立ちを隠せない。


(くそっ、美穂の奴め、本当は俺と話がしたいのに……、無理しやがって!!)



 そう思いつつも美穂の友達からの視線に辛くなってその場を離れようとする龍二。しかし、ふと美穂とその友達との会話が耳に入ってきた。




「美穂ぉ、またそのゲームやってるの?」


「うん、今日からレイドが始まるんだよ。新キャラ試したくって!」



(えっ!?)


 龍二は美穂達に背を向けながら立ち止まる。



(今日からレイド? 新キャラ? それってまさか……、美穂がやってたゲームってまさか『ワンセカ』なのか!?)


 龍二は背を向けたまま少しだけ美穂を見つめた。美穂に直接聞いたことはない。ただ龍二の直感は間違いなく美穂が『ワンセカ民』だと告げていた。



(美穂、美穂、ミホ……、どこかで聞いた事があるような……)


 龍二は立ち去りながら、その名前について何かを思い出そうとしていた。






「団長ぉ!?」


「や、やあ……」


 拓也の顔を見て驚きと共に、満面の笑みを浮かべるマキマキ。


「どうして団長がここにいるんですか!?」


「いや、逆にどうしてマキマキさんこそここに?」


 驚くマキマキ。椅子に座りながら拓也の問いに答える。



「私は両親の引っ越しで陽華高校ここに転入になって……、うそぉ、信じられない!」


「そうか、すごい偶然だな、こりゃ……」


 既に周りから注目を集めて始めているふたり。拓也は小さくなって小声で答える。



「あの、マキマキさん。学校ここでは団長ってのは……」


 そこまで言った時、前に座っていた男子学生が拓也に言う。



「おい、木下。お前、彼女と知り合いなのか? 『ダンチョー』ってなんだよ?」


(うぐっ!)


 目立たず、平穏に過ごしたい。

 そんな拓也のささやかな願いが足元から崩れ始めようとしている。拓也が答える。



「いや、彼女は実は……」


 拓也は『親戚の子』と答えようとして、またつまらぬ嘘をつくのは良くないと思い続ける。



「ちょっとした知り合いで……」


 それを聞いたマキマキが頬を膨らませて言う。


「えー、『ちょっとした?』 私、もう団長の部屋に遊びに行ってる仲じゃないですか?」


(うぐはっ!!)


 拓也はまるで銀の杭を心臓に打ち込まれたかのような衝撃を受ける。



「ふーん、なんだそれ……」


 男子学生はそれを聞き、つまらぬそうな態度で前を向く。とは言え、明らかに周りの耳は拓也と転校してきた美少女に向けられている。拓也がマキマキに言う。



「さ、授業を受けようか。


 拓也は何度も目をパチパチさせて言う。


「はい、


 マキマキは頷きながら笑みでそれに答えた。




(どうしよう、どうしよう!? 隣にマキマキさんがやって来た……)


 拓也は授業が始まってからも隣に座るマキマキが気になって集中できずにいた。


(こうなってしまったこと自体もう諦めるしかないんだけど、なんと言うか俺の中にある『ワンセカ』という秘密がドンドン晒されていく気がする……)



 拓也は隣の席で真面目に授業を受けるマキマキを横目で見て思った。

 そして改めて彼女を見つめる。肩までに綺麗に切り揃えられた髪。大きくハッキリとした目。男を魅了する甘い口調。間違いなく美穂とは違う美少女だ。



「ん? うふふ……」


 思わず目が合うふたり。微笑むマキマキに対して咄嗟に下を向く拓也。



(いかんいかん!! つまらぬことを考えるな。平穏を守るぞ!!)


「はい、一限目の授業はここまで」


 そうこうしているうちに、あっという間に授業が終わりを告げる。

 そして平穏を望む拓也にとって、平穏ではいられなくなる状況がやって来た。




「おっはー、木下君! 朝の挨拶遅れてごめ……、え!?」


 元気に拓也の教室にやって来た美穂が、その隣に座った女の子を見て固まる。



「マキマキ……」


「こんにちは、ミホンさん」


 ふたりの美少女は拓也の前でお互いを見つめた。

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