35.おかえり!!

 次々と敵に討ち取られる『ピカピカ団』の団員達。地力では負けていないはずだが、指揮のない集団に敵は容赦なく牙をむく。


 そんな中、副団長ミホンが拓也にメッセージを打ち込む。



「私はあなたを、ずっと待っています」




 ――拓也の心は決まった



 拓也は直ぐに『デスコ』の書き込みを最初から読み返す。

 書きこまれている情報、そして上げられた画像データを見て戦況を分析。敵味方の戦力を頭に叩きこみ、戦況を把握。


 そして『デスコ』の状態をオンラインにしてから素早く文字を打ち込んだ。



『hishiさん、18番行けますよ!』

『マキマキさん、5番倒せそうですか?』


 まだ動ける団員に最適な指示をアドバイスという形で書き込み、団に対しては新たな戦術を提案。次々と表示されるタクの書き込み。それに団員が反応し始める。



『えっ、団長戻ってきたんだ!!』

『うそ、マジで!?』

『これって、あの『タクさん』!?』

『団長! 待ってましたよぉ!!』


 掲示板は突然戻って来た神軍師である元団長タクの書き込みに狂喜乱舞となった。



(うそ、木下君……)


 副団長ミホンはスマホを持っていた手が震え始める。そして画面を眺めながら赤くなった目から涙が流れる。


(遅いぞ、本当に……、でも……)



 ――ありがとう。



 美穂は直ぐに全団員に対しこの『タク』という人物の指示に従うよう通知。


 相手ギルドは突如動きの良くなった『ピカピカ団』に警戒を始めが、先ほどまでとは違い、的確に、確実に仲間が次々に落とされて行く状況に唖然とする。あれほど組み易かった相手がまるで岩のように強くて、硬く感じる。


 突然の相手の豹変に、何が起きたか分からない相手ギルドは恐怖を覚えた。



『ミホンさん、大将行きましょうか』


 拓也が美穂に指示を出す。


『はい』



 自分なら勝てないと思い決して挑まなかった相手。でも拓也かれがそう言うなら間違いない。美穂は大将を選び攻撃ボタンを押す。


 相手ギルドも負けじと必死に抵抗を試みるが、相手は神軍師が舞い戻った強豪ギルド。その実力差は歴然で、最終的に『ピカピカ団』は大差で勝利を収めることができた。




『お帰り、団長っ!!』

『団長、待ってたよ!!』

『マジ、胸アツーーっ!!』


『ピカピカ団』のデスコでは復帰した団長タクへのお祝いの言葉で埋め尽くされる。副団長ミホンが書き込む。



『ずっと待ってたよ、団長。お帰りなさい。そして、ありがとう!!』


 その後も歓喜の言葉が続いて行く。拓也は少し目に涙を溜めながら書き込んだ。



『本当にごめんなさい、みんな。我儘とは分かっているんだけど、また一緒に戦ってもいいかな?』


『デスコ』には団長タクの復帰を喜ぶ声で溢れる。

 拓也はスマホの『ワンセカ』を立ち上げると、感謝の気持ちを持って『ピカピカ団』への入団申請ボタンを押した。






「おかえり、お父さん!」


 美穂は自宅に帰って来た父親を笑顔で迎えた。


「みんな待ってるよ、早く着替えて!」


「あ、ああ……」



 いつもと違い明るい娘の姿に一瞬戸惑う美穂の父親。服を着替え、ダイニングに行くとそこには少し難しい顔をした美穂の母と、同じく不安そうな顔の弟がテーブルの前に座っている。


 美穂は拓也の部屋で作ったのと同じ鍋をコンロから降ろしてテーブルへと運ぶ。



「鍋よ。美味しんだから」


 そう言って美穂はひとりひとりに鍋をよそい配る。まだ硬い表情の美穂の両親。弟も不安そうな顔で姉を見つめる。美穂が自分自身に言う。


(大丈夫だよ、私)




「いただきます!」


 食事の用意が揃ったところで美穂が大きな声で言った。

 難しい顔をしていた美穂の両親だが、目の前に置かれた美味しそうな鍋をゆっくりと口に入れると言った。



「美味しい……」


 鍋を食べ思わず言葉が出た。美穂が言う。


「でしょ? 友達からも大好評だったんだよ!」


 そう言いながら隣に座る幼い弟の食べる手伝いをする。美穂の母親が言う。



「本当に美味しいわ。これからご飯はずっと美穂に作って貰おうかしら」


「もう私、ずっと作ってるじゃん」


 美穂が少し笑いながら言う。



「そうね、そうだったわね」


 母親も思わず苦笑する。両親と姉が笑って会話する姿を見た弟もそれまでの緊張した顔が緩む。



「お父さん、どお? 美味しいでしょ?」


「あ、ああ……」


 父親は少し気まずそうに、それでも何度も頷きながら美穂の問いに答えた。美穂が弟に尋ねる。



「美味しい?」


「うん」


 美穂は久し振りに見せる弟の嬉しそうな顔を見ながら、必死に涙が出るのを堪えた。






 拓也はいつも通り購買でパンを買うと、躊躇うことなくそのまま屋上へと向かった。

 青い空。最近少しずつ暖かくなってきており階段を上がると時々暑く感じることもある。


 ギギッ、ギギギッ……


 屋上の少し錆びたドアを開ける。

 そこから入って来る冷たい風。それは少し熱くなっている拓也の体と頭を冷やすのにちょうど良かった。拓也はひとりで座っている陽キャの方へと歩き出す。




「……隣、座ってもいい?」


 拓也は昼食を食べている美穂の前に立って言った。少し顔を上げて拓也を見つめる美穂。そして言う。



「美女の隣は高いんだぞ」


「ううっ……」


 思わぬ言葉に戸惑う拓也。美穂は笑って言う。



「それは団長命令かな?」


 拓也は頷いて言った。


「え? あ、ああ、団長命令」


「そう、なら仕方ない。いいわ」


 美穂はそう笑いながら拓也が座る場所を空ける。




「ごめん……」


 拓也は美穂の隣に座ってから深呼吸して言った。


「ごめん? 場所を空けて貰ったら『ありがとう』じゃないの?」


 拓也は美穂を見つめる。その顔は少し笑っている。



「そうだよな。うん、ありがとう」


「どういたしまして」


 ふたりはお互いの顔を見て笑う。拓也が尋ねる。



「また一緒に『ワンセカ』やりたい」


「やってるじゃん」


 拓也が頷いて言う。


「そう、そうだけど。また俺の部屋でやりたい」


「それも団長命令?」



 拓也は空を見て答える。


「ううん。命令」


「なにそれ? うふふっ」


 美穂が笑う。そして言う。



「いいよ、聞いてあげる。あとね、木下君」


「なに?」


 美穂は拓也の顔を覗き込むようにして言う。



「『俺の部屋で』はちょっとやめようね。びっくりしちゃうよ」


「え? あっ! ああ、ごめん!!」


 真っ赤になって謝る拓也を美穂は笑いながら見つめた。

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