31.女子高生ふたりとおうちデート!?
「お邪魔しまーす、団長!! って、うわっ!!」
土曜の朝、拓也は自宅マンションにやって来たマキマキを玄関で迎えた。
先の戦いで彼女が勝ったらデートをすると安易に約束し、今日の『ワンセカ本選デート at 団長部屋』となった次第である。マキマキが髪を切った拓也を見て言う。
「団長ぉ、髪切ったんですかぁ!?」
「え、ああ、まあ……」
拓也は無造作に頭を掻く。
「お似合いですぅ!!」
「あ、ありがとう」
マキマキはやはり素材の良さは間違いなかったと思った。ニコニコしながら靴を脱ぐ。
そんな彼女は暖かそうな厚いニットの下には花柄のシャツを着ており、そしてショートパンツからは真っ白い太腿が露出している。
拓也は一瞬どきっとしたがすぐに部屋に入れた。
「げっ」
そして先に拓也の部屋にいた
「ミホンさん、どうしてここに!?」
マキマキよりは短いが、やはり太腿が露出したミニスカートを履いた美穂が立ち上がりマキマキに言う。
「どうしてって、今日は最終戦の前の大事な戦い。副団長として団長と一緒に戦うのは当たり前でしょ?」
「な、なんでよ! ねえ、団長、デートってふたりっきりじゃなかったの??」
不満そうな顔をするマキマキ。口籠る拓也を見て美穂が言う。
「いつ、ふたりっきりって約束したの? いいじゃん、三人で『おうちデート』でね」
「はぁ……」
がっくりするマキマキに美穂が近寄り方を叩く。
「さあ、寒いしコーヒーでも淹れよっか。座って」
「……はい」
マキマキは諦めたのか、素直に美穂の言葉に従いテーブルの前に座る。拓也は美穂が来ると言った時には驚いたが、とりあえずその選択は間違っていないと思った。
「……でねでね、マジうざいんだよ、その男子」
「分かる分かるぅ、どこにでもいるよね。そういうの!」
最初こそ微妙な雰囲気が流れていたふたりの女子高生だが、拓也の部屋に座りコーヒーを飲みながらお菓子を食べ始めるとまるで旧知の友人かのようにお喋りを始めた。
(基本、涼風さんは誰とでも仲良くなれる陽キャ。マキマキさんは分からないけど、対人スキルは高そう。ならば当然こうなるか……)
きゃははと笑いながらお互いの学校のことで盛り上がるふたり。拓也はそんなふたりを横に、今日対戦する相手ギルドを見つめる。
『ギルド大戦争』本選も明日が最終戦。拓也が指揮する『ピカピカ団』は今のところ神采配と団員のレベルアップのお陰で辛うじて全勝。あと二勝で念願の優勝が決まる。
(うーん、強いな……、まったく隙が無い。個々のレベルも相当高い。まともにやっても勝てないな……)
拓也はこれまでは奇跡的に勝てていたが、今日は一段と厳しい戦いになることを覚悟した。
(ふああぁ、眠い……)
拓也は寝不足の目をこする。マキマキが拓也に言う。
「で、団長はどう思う?」
拓也が答える。
「ん、何が?」
「何って、そのバスケ部のやつのことですよ!」
「バスケ、部……? 何のこと?」
「えー、聞いてなかったんですか? うそぉ!」
『くだらない話はよそでやってくれ』と拓也は心から思った。美穂が言う。
「あれ、もうお昼に近いじゃん! 今日の戦いは!?」
拓也は欠伸をしながら答える。
「みんなへの指示はもう出してある。ふたりもちゃんとパテと装備を確認して」
「あ、うん!」
拓也の言葉を聞き、美穂とマキマキがスマホを見る。
「え、【背水の陣】……」
ふたりは選択されている陣形を見て驚いた。
強力な攻撃力を誇る陣形だが、陣形効果が短い。短期決戦で終わらせなければどんどん不利になる陣形である。拓也が言う。
「うん、敵は強い。色々考えたけどこの陣形で一気に叩く」
ふたりは拓也が采配には強い自信を持っているのを感じた。
「分かったわ、信じてますから。団長!!」
「あ、ああ……」
拓也はマキマキに真正面から言われて思わず照れる。
そして同時にマキマキのショートパンツ、そして美穂のミニスカートから見えるふたりの真っ白な太腿が目に入り顔を赤くする。その視線に気付いたマキマキが言う。
「あれ? 団長、どこ見てるのかな~?」
「い、いや、何も見ていない」
「そうかな~?」
そうってマキマキは座ったまま、真っ白な足を見せつける様に拓也の方へと伸ばす。
(うっ、これは、いかん……)
寝不足の上、本選も後半に入り極度の疲れと戦っていた拓也には、戦い以外のことがちゃんと考えられなくなり頭がぼうっとしてくる。
「こら、何してるの!」
美穂がマキマキの足を軽く叩く。
「えー、だって足疲れたもん」
マキマキがちょっと膨れた顔で答える。美穂が言う。
「いいから、団長そう言うの弱いから。さ、お昼作ろ。手伝って、マキマキ」
「う、うん、分かったよ」
そう言うとふたりは並んで台所へと歩いて行った。
「うどんじゃん、凄っ!!」
拓也は美穂とマキマキが持ってきたうどんを見て思わず声を出した。お盆の上には揚げと卵、そしてねぎがかかった美味しそうなうどんがある。
「ただのうどんよ。さ、早く食べよ」
美穂はそう言って三つのどんぶりをテーブルの上に置く。マキマキが言う。
「副団長凄いんだよ。料理の手際すっごく良くて、まるで主婦みたいなんだよ! もしかして人妻?」
「馬鹿なこと言っていないで早く食べるよ、本選始まっちゃう」
「はーい」
そう言ってマキマキと拓也はうどんを食べ始める。
「うまい……」
たかがうどん、しかし手作りのうどんは拓也が食べている店のうどんとは全く異次元の美味しさであった。
「本当にうまいよ、このうどん……」
思わず目頭が熱くなる。美味しいものと言うのは人をこれほど感動させるのかと拓也は思った。
ドン!
「うぐっ!」
そんな拓也の背中を美穂が叩いて言う。
「うどんでそんな顔していないで、さあ、本選始めるよ!!」
「ああ、うん」
拓也はうどんを食べ終えると、間もなく始まる本選に向けてスマホを見つめる。
「さあ、頑張ろうね。みんな!」
「うん!」
美穂の声にマキマキが答える。
『ヨッシーさん、14番』
『hishiさん、3番』
『シンさん、10番お願いします!』
開始とともに人が変わったかのようにスマホに集中し、的確に素早く指示を出す拓也。マキマキは初めて見る団長が指示を出す姿を見て思わず黙り込む。美穂が言う。
「凄いでしょ、うちの団長」
美穂はなぜだが自慢気に言っていることを可笑しく思った。
「う、ん……、初めて見たけど、凄い気迫、ほんと神だわ」
驚くマキマキに拓也が言う。
「マキマキさんは9番行けそう?」
「あ、はい! 大丈夫です!」
そう言うとマキマキは自分のパテの攻撃ボタンを押した。
「勝った……」
その日の午後7時過ぎ、【背水の陣】の効果が出た拓也達『ピカピカ団』はいつもより早めの勝利を確定させた。拓也はそのまま床に倒れるように寝転ぶ。もはや心身共に限界であった。美穂とマキマキが言う。
「凄いよ、団長!! 勝っちゃった、本当に勝っちゃったよ!!」
「お疲れー、団長っ!!」
ふたりは手を叩いて今日の勝利を喜ぶ。そして言う。
「あとは明日の最終戦、事実上の決勝。これに勝てばついに、優勝っ!!!」
「ひゃー、凄い!!」
『デスコ』の中でも今日の勝利を祝う団員達の声で溢れる。
(全然デートっぽくなかったけど、ま、いっか)
マキマキはそう思い時計を見て言う。
「私、そろそろ帰るね、楽しかったよ。団長!」
マキマキが立ち上がる。美穂も腕時計を見て言う。
「あ、私もそろそろ帰らなきゃ。団長、また明日ね!」
「ああ……」
横になったままの拓也が力なく答える。
やがて帰るふたり。今日の指示は既にすべての団員に出してある。ひとりになり気が抜けた拓也は、知らぬうちにうとうとと意識が遠くなった。
午前1時過ぎ。
眠る拓也の隣にあったスマホにメッセージの着信が表示される。気付かない拓也。送ったのは美穂であった。
『団長!! 大変だよ、決勝の相手、また竜神団だよ!!』
拓也は泥沼に落ちたかのように深い眠りについていた。
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