30.神軍師の大失態!?

『いよいよだね』


『いよいよだ』


 拓也は副団長のミホンから送られてきたメッセージにそう答えた。

 無事に学年末試験を終えた美穂と拓也。結果はどうあれひとまずこれで『ギルド大戦争』に集中できる。

 そしていよいよ今日より、長く苦しい予選を勝ち抜き選ばれた8つのギルドによる頂上決戦が始まる。


 決戦の朝、団長タクは団員みんなにメッセージを送る。



『いよいよ今日から本選が始まります。これまで通り指揮は自分がとります! 頼りない団長だけどみんなの力を貸して欲しい! 頂点目指して頑張ろう!!』


『了解!! 団長!!』

『今回も神采配、頼みます!!』

『団長、痺れるわ~!!』


 拓也が打ち込む。



『今日は【鳳凰の陣】で行きます。パテの指示はこれから出しますので、お待ちを』


(鳳凰の陣……)



 その名前を見た団員達に緊張が走る。

【鳳凰の陣】とは、本選で一回だけ使える特殊陣形。攻撃防御とも他の陣形より格段に上がる切り札的陣形である。それを初戦で使うと言うことは、相手はかなりの強敵だと言う事を意味する。団員のエイジンが尋ねる。



『鳳凰の陣と言うことは、やっぱ相手は相当やばいってことでしょうか?』


 拓也が答える。


『強いです。まともに戦ったら勝てるかどうか五分です。裏の優勝候補ですから、確実に勝ちに行きます』


 拓也の中の勝負勘がそう告げていた。初戦から全力で行け、と。


『了解です! みんな、頑張ろう!!』


『ピカピカ団』のデスコは久しぶりに盛り上がりを見せた。






『アッシさん、陣形はどうする? パテは? そろそろ決めて欲しい』


 軍師である新田嵐は団長ジリュウからのメッセージを見てイライラを募らせていた。本選当日の朝、優勝候補である『竜神団』の軍師アッシにかかるプレッシャーは相当なものであった。


『始まるまでにはみんなに指示出します』


 嵐はそう『デスコ』に打ち込むとスマホの画面をじっと見つめる。現在見えている相手の戦力を分析し、陣形や団員のパテを考え指示を出す。軍師は体力、気力、集中力が必要な仕事である。



(くそ、バカ団長め! 自分じゃ何も決められないくせに、人ばかり頼りやがる!! 軍師がどれだけ大変なのか本当に分かっていない!!)


 嵐はいつも人任せで何もしようとしない団長ジリュウのことを思い怒りが沸いて来る。そのせいかいつもはすんなり決まる作戦がちっとも決まらない。



「あー、くそっ! もういい、学校行きながら考える!!」


 嵐はそう言うと一旦『ワンセカ』の事は忘れて、学校の支度を始めた。





「おっはー、木下君!」


「あ、おはよ」


 朝登校して来た美穂が拓也に挨拶する。『ギルド大戦争』の本選開始はお昼。拓也はそれまでに全員にパテ指定の指示を出さなければならない。



「おはよう、美穂」


 拓也の隣に座る美穂に足立龍二が声を掛けた。美穂の頭に拓也にした嫌がらせの光景が思い浮かぶ。


「おはよ」


 そっけない返事。

 あれから龍二はほとんど陽キャグループの輪に加わることはなくなっていた。学年一の美少女、そしてクラスカーストでもトップの座に就く美穂からの無言の圧を龍二はもちろん、周囲も何となく察していた。


「あ、あのさ……」


 何かを言おうとした龍二だったが、美穂はすぐにスマホを取り出し眺め始める。



「……」


 それを察した龍二が無言のまま立ち去る。

 その様子を横目で見ていた拓也は、何があったか知らないが寂しい龍二の背中を見て、決して隣の「陽キャ」を怒らせてはならないと秘かに思った。



『早く指示を出してくれ! みんな忙しいんだ! 急いでくれ!!』


 龍二ジリュウはやり場のない怒りを『ワンセカ』の竜神団の団員へと向ける。自分がひとりで作り上げた自分の団だと思っている龍二。しかし最近の彼の発言が少しずつ団員達の心を蝕むようになっていることには気付いていなかった。






 お昼。『ギルド大戦争』本選が開始される。

 拓也は既にすべての団員にパテと配置の指示を出してある。隣に座る美穂が弁当を食べながら拓也の顔を見る。

 頷くふたり。『ギルド大戦争』優勝への戦いが始まった。



(初戦で本当に【鳳凰の陣】を使って来るとは……)


 切り札的陣形を初戦に選択していた相手は、てっきりフェイクだと思い裏を読んだ対策をしていた。

 しかしそのまま変更されずに始まる戦い。相手は最初から拓也の策略にはまっていた。開始早々拓也の指示が飛ぶ。



『ヨッシーさんは12番』

『シンさんは9番』

『エイジンさんは6番、お願いします!』


 敵陣形、パテを確認した拓也には既に勝利への道が見えていた。

 そして指示通り動いた団員が次々と敵を討って行く。



(凄い……、木下君)


 隣にいる美穂が改めて神軍師による神采配を見つめる。

 まったく隙のない攻撃。的確な指示。団員達はすべて信頼して拓也の指示に従った。



 放課後、皆が帰って美穂とふたりきりになった教室。スマホの画面を見つめる拓也。その拓也がマキマキに出した指示に彼女が反応する。



『団長~、その相手強すぎだよ! でももし私が勝ったらデートしてくれますか?』


『おいおい、マキマキさん! 何言ってるの???』

『告白? 愛のお誘い? 団長、モテモテじゃん!!』


 マキマキの書き込みを見た団員達が冷やかしのメッセージを書き込む。



『分かった。だから全力で頼む!』


『ひゃー! 団長、男っ!!』

『団長、逆ナンされてて草』


 拓也はあまりしっかりと考えずに返答する。

 隣に座っていた美穂が拓也に言う。



「ちょ、ちょっとぉ、木下君! なに約束してるの!?」


 不満そうな顔で美穂が言う。拓也が答える。


「ん? なんのこと?」


 驚いた顔で美穂を見つめる拓也。美穂が言う。



「何って、マキマキさんとデートするってこと?」


「デート? え、あっ、しまった!!!」


 作戦に集中し、それ以外はほとんど会話の内容を考えずに返事をした拓也。改めて自分がした約束のことを思い焦り始める。腕を組んだ美穂が拓也に言う。


「本当に仕方ないんだから。分かったわ。私も一緒に行ってあげるから!」


「は?」


 美穂が怒った顔で言う。


「なに『は?』って? マキマキさんとふたりっきりでしたかったの??」


「い、いや、そう言う意味じゃ……、あ!」


 スマホの画面ではマキマキが見事に敵を討ち取る様子が映っていた。



『やったー! 勝った!! 団長、約束宜しくね!!』


 マキマキの遠慮ないコメントが続く。美穂の顔が怒りで赤くなっていく。拓也はなぜか美穂に嫌われた龍二のことを思い出して体が震えた。


 結局、初戦は『ピカピカ団』の大勝利で終えることができた。デスコの中で喜ぶ団員達。

 しかし団員達は神采配をした団長が、副団長ミホンを怒らせるという大失態をして顔を真っ青にしているなど夢にも思っていなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る