29.美少女、積極的過ぎ!!

「暑い暑い……」


 いつも通り家に帰り、いつも通り弟に夕食を作って食べさせてから部屋に戻った美穂は、火照る頬を両手であおるような仕草をした。拓也とダンス大会を無事終えたのは良かったが、どうしてもそのダンスの感触が体から離れない。



(木下君、凄かった……)


 美穂は力強くキレのあるダンスを披露した拓也を思い出す。


(一体どれだけ練習したんだろう……?)



 最初こそダンス経験のある美穂がリードして踊っていたが、今日のダンスに限って言えば完全にこのダンス本来の『男性リードの型』となっていた。それぐらい拓也の動きはキレがあり無駄がなく、そして力強かった。


(何だか夢みたいだったな……)


 美穂はそんなダンスを思い出すと自然と頬が赤くなる。そしてその姿を鏡で見て思う。



(え、うそ、私って……)


 美穂は真っ赤になった両手を顔に当てて鏡に映る自分の姿をじっと見つめた。






「おっはー、木下君!」


「あ、おはよう。涼風さん」


 美穂は拓也に元気に挨拶すると、いつも通りに隣の席に座る。毎朝の挨拶ももう拓也にとってはいつもの行事となっていた。美穂は椅子に座るとすぐにスマホを取り出し何やら打ち始める。



(ん、メッセージ?)


 すぐに拓也のスマホにメッセージが届く。


(涼風さん? 何だろう……)


 拓也は隣に座る美穂をチラリと見てから『デスコ』に送られたメッセージを確認。そしてそれを読んで暫く固まる。



『……マジで?』


『マジで』


 拓也の問い掛けにも平然と打ち返す美穂。



『……学年末テスト、再試験って、やばいんじゃないの?』


『ヤバい』


 あっけらかんとする美穂を拓也は横目で見つめた。

 先の年度祭ねんどさいの前に行われた学年末テスト。成績が悪い者には再試験があり、合格しなければ留年の可能性がある。もし留年となれば『ワンセカ』どころではない。



『留年したらまずいよね』

『まずい。団長、助けて』


『助ける?』


『そう、明日団長の部屋行くから勉強教えて』

『は? まじで?』

『マジで』


 こうして土曜日に拓也の部屋での勉強会が決まった。






「お邪魔しまーす!」


 土曜の朝、美穂は約束通り拓也のマンションへとやって来た。

 外はまだ寒いためか短いが厚めのコートを着込んでいる。だが何故か下はミニスカート。そしてコートの中のベージュのニットは胸元が大きく開いたタイプで、否が応でも視線がそこに向く。美穂がコートを脱ぎなら言う。



「ごめんねー、木下君。勉強まで見て貰って」


「あ、ああ、うん……」


 拓也は自分の視線を注意されたのかと思って一瞬焦ったが、そうでないと分かり安心して答えた。美穂が言う。



「もうすぐ本選でしょ? 勉強終わったらまた作戦練ろうね」


「うん」


 そう言うと美穂は拓也の部屋へと向かう。

 それを見ながら拓也は改めて思う。



(学年一の美少女と、こんな事になるなんて……)


 ちょっと前の自分からは想像もできない状況に、嬉しいような戸惑うような不思議な感覚になった。




「うー、分からん……」


 美穂は数学の公式を眺めながら眉間に皺を寄せて唸った。


「だから、ここはさっき教えたこれが……」


 美穂の真っ白い胸の谷間への視線がバレないように拓也が説明をする。

 中学まで父親の方針で家庭教師をつけられていた拓也。そのお陰で数学などの基礎はしっかりできていたので、高校に行っても勉強でそれほど苦労することはなかった。

 逆に勢いだけでこれまで過ごして来た美穂にとっては、この勢いとノリが通用しない数学という教科が最も苦手であった。



「数学はきちんと答えが出る教科だから、あいまいな回答でも大丈夫なことがある国語なんかよりずっといいよ」


 そう言った拓也を信じられないような顔で見つめる美穂。そして言う。


「きちんと答えが出ないから困っているんだよ。あー、無理」


 美穂はそう言ってごろんと床に寝転がる。拓也はそれを見て苦笑して言う。



「これ終わらないと『ワンセカ』の話できないぞ」


「うっ、そ、そうね……」


 美穂はまた起き上がって教科書を睨み始める。しかしすぐに上目遣いで拓也を見つめる。拓也は気付いた。このは何かあると。



「ねえ、団長」


「な、なに?」


 美穂が手を顔に当て肘をついて拓也に言う。



「団長、さっきからどこ見てるのかな~?」


(ぐはっ!)


 拓也は始まってからずっとチラチラと見ていた美穂の胸元から目を逸らす。小さな机に座るふたり。どうしても大きく開いた美穂の胸元に目が行ってしまう。



「きょ、教科書だよ」


 美穂が小悪魔的な笑みを浮かべて言う。



「へえ~、そうなんだ。団長はあんまり興味ないのかな~?」


 そう言って少し胸を前に突き出す美穂。拓也は顔を赤くして答える。



「そ、そんなことは、ない、けど……」


 ほとんど聞こえない程の小さな声。恥ずかしがる拓也に美穂が言う。



「もっと見たい? 団長命令だったら、……いいよ」


 そう言って美穂は胸を少し持ち上げるような仕草をする。これ以上されたら自分が抑えられなくなる拓也が慌てて答える。



「いや、い、いい!! べ、勉強を……」


「うふふっ、団長命令なら……、私、従っちゃうよ」


 そう言いながらも自分も段々体が熱くなる美穂。真っ赤な顔をする拓也を見て更に顔まで熱くなってくる。



「あ、ちょっとお手洗い……」


 美穂はそう小さく言うと立ち上がり、部屋を出る。そしてトイレに行って鏡に映った自分の顔を見て思う。



「顔、真っ赤だよ。暑い暑い……」


 そして予想以上に露出した胸元を見て思った。



(ちょっと攻め過ぎたかな……、なんか今更ながら恥ずかしくなってきた……)


 美穂は自分の姿を見て恥ずかしくなる一方で、それに対する拓也の反応を思い出しひとり小さく笑った。

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