23.君が手を引いてくれた。

「オフ会を開こう! そこでみんなのガチャを団長に引いて貰えば個々のレベルアップができる!!」


 唐突に出た『オフ会案』。

 手を叩いて喜ぶ美穂たちに対して、陰キャの拓也は『オフ会』と言う名前だけで吐きそうになっていた。



「無理無理! 考えただけでも気が滅入る……」


 拓也が青い顔をして言う。


「大丈夫だよ、団長はただ座ってガチャ引いてくれれば良いんだから!」


 参加するだけ、ただ居るだけで太陽の様に周りを照らし、有意義な時間を過ごせる陽キャの美穂には絶対に自分の気持ちなど理解できないだろうと拓也は思った。



「でもこれが一番現実的に強化できる方法だと思うけど。みんなとの信頼関係も深まるだろうし」


 良明が拓也に言う。


「だ、だけど……」


 良明の言うことは理解できる。

 ただ皆の前で何を話せば分からないし、それに自分のこの神引きだっていつまで続くか分からない。そもそもこの奇跡的な神引きを前提としている時点でもうおかしい。拓也が言う。



「あ、あのさあ、思うんだけどこんな引きがいつまで続くか……」


 そう話しかけたふたりが手を叩いて頷く。



「……そう、じゃあ場所は団長のマンションだね。それだけ広いなら


「そうなの、団長って他に家族とかもいないから気兼ねしなくていいし、の」



(お、おい! 一体何が『都合がいい』んだよ!! 勝手に話を進めるな!!)


 拓也が言う。


「ちょ、ちょっと待ってよ。そんなに勝手に話を……」


「私、団長に貸しがあったよねえ〜、も」


「ううっ……」


 そう言った美穂の言葉に拓也が黙り込む。美穂が言う。



「ここでひとつ、返してもらおうかなあ。ね?」


 笑顔で拓也をじっと見つめて美穂が言う。彼女から発せられる無言の圧。陰キャの拓也にはそれを防ぐ術など持ち合わせていなかった。


(やっぱり敵わない、陽キャには……)


 拓也は沈黙の白旗を立てて降参した。






「は、初めまして。団長のタクです……、その、イケメンじゃ無くてごめんなさい……」


 最後は消え入りそうな小さな声となって拓也が挨拶をした。

 数日後の土曜の夜、拓也のマンションで初めての『ピカピカ団』オフ会が開かれた。急な呼びかけにも関わらずヨッシーや美穂を入れて7名もの団員が参加してくれた。


 拓也や美穂からオフ会の提案があった時、団員からは、


『イケメンの団長に会える!!』

副団長ミホンさん、楽しみ〜』


 など『ピカピカ団』のデスコは大盛り上がりを見せた。




「何よ、その挨拶〜?」


 美穂は拓也の挨拶を聞いて笑いながら言う。下を向いて恥ずかしそうにする拓也に女性団員のマキマキが言う。



「えー、団員、それ本気で言ってるんですか〜?」


(えっ?)


 マキマキが拓也を下から覗き込むように言う。拓也と同じぐらいの年齢だろうか肩までに切り揃えられた髪が可愛い女の子、美穂とはまた違った美少女である。



「団長、無自覚系なのかな〜?」


(無自覚……?)


 マキマキの意味の分からない言葉に拓也が顔を上げて首を傾げる。それを見ていた美穂がちょっとむっとした顔で言う。



「はい、じゃあ改めて会の説明をしまーす!!」


 副団長ミホンの言葉を聞き皆が彼女に注目する。



「まずは私もそうだけど未成年者もいるのでお酒は禁止。前に伝えた通りみんなに持って来て貰ったジュースとお菓子で楽しみましょう。あとプライベートに関する質問をするのはダメ。『ワンセカ』の話をしましょう! 呼び方はお渡ししたプレイヤー名で呼んでくださいね!」


 そう言って美穂は自分や皆の首肩掛けられた『ミホン』と書かれたプレートを見せる。皆が美穂の美しさに見惚れる。美穂が言う。



「最初は団長から今度の『ギルド大戦争』の戦略について簡単にお話して貰います。そして最後は、みんなも驚くようなイベントを用意していますよ!! お楽しみに、じゃあ、団長。よろしくっ!!」



(う、うわ……、みんながこっち見てる……)


 事前に打ち合わせていたとはいえ、やはりいざ皆の前に来て話をするとなると想像以上の緊張が拓也を襲う。



「えっと、その……」


 緊張で顔を青くする拓也を見て、美穂が助け舟を出す。



「じゃあまず、今度実装される新キャラ解説、団長、お願いできますか?」


(新キャラ……)


 拓也は『ギルド大戦争』直前に追加される新キャラのことを思い出した。性能は既に公式から発表されているのだが、直前の実装、そして強いのか弱いの微妙な性能に賛意が分れていたキャラ達だった。

 拓也の目つきが変わる。そしてずっと考察していた新キャラについての話を始めた。




「……なるほど。これまでにあまりいなかった相手の能力によって能力が変わるので、未知数だが化ける可能性が大有りと言う訳か」


 拓也は実装される新キャラ一体一体について自分なりの解説を行った。自信に満ちた話、表情。そこには既に数分前の緊張に潰されそうだった拓也はいなかった。そして『ギルド大戦争』本選についての戦略について語り始める。



「少し前に実装された『一点突破の陣』、とても攻撃力が高くて予選でも使っていたギルドが多かったけど、実は前から使えないと言われた別の陣が有効で……」


 拓也は休憩することなく自分が持っている知識、考察、今後の展開について熱く語った。今日集まったのは紛れもない『ワンセカ好きのメンバー』、皆がその話を夢中になって聞く。

 美穂も皆を取り込むような魅力を発する拓也を見て何度も頷く。



「団長、さすがです!」

「神軍師なんて思っていたけど、本当はすべて考えて指示をくれていたんですね」


 ランカーも混じる団員達からも驚きと感謝の言葉が次々と出る。

 皆が打ち解け始め、場も盛り上がって来たのを見計らって副団長ミホンが皆に言う。



「さて、では今日集まって貰った本当の目的を話すね。実は……」


 美穂は拓也のについて皆に言った。



「うそ、そんなに凄いの?」

「それ、本当ですか??」


 半信半疑の団員達。当然である、どれだけしっかりと戦略を練った神軍師でも、ガチャは別。特定のプレイヤーだけガチャ運が上がるなんてことはないし、ましてやそれがひとりの人間に立て続けに起きるなどまずあり得ない。



「じゃあ、ちょっとスマホ借りるね」


 そう言ってひとりの団員のスマホを借り、ガチャの画面にして拓也に渡す。そしてガチャを回して出た『激レアSSR!!」という表示を見て皆が驚いた。


「嘘、マジで!?」



 そこからは拓也の独壇場であった。

 次々と団員のガチャを引き、レアキャラを引き当てる。さすがに数が多かったのでノーマルキャラもたくさん出たが、それでも新キャラを含めた多数のSSRを引き団員達は戦力の底上げをする事ができた。



「団長、すごい!!!」

「まじ、すげー!!! 何なのこの神引き!?」

「神? いや、ホント、神様じゃん!!」


 興奮する団員達。

 拓也はもしかして引けないかもしれないと言う不安を抱えながらのぞんだオフ会だったが、無事自分の責務を果たせてほっと胸をなでおろした。ヨッシーこと良明が言う。



「団長達と話をして最も必要だったのが個々のレベルアップ。と言ってもガチャ運だけは何ともならないからどうしようって悩んでいて、それでなら『神引きの団長に引かせればいい』という結論になったんです」


「なるほど、それでオフ会を開催したんですね」


 会社員だろうか、少し年上の男性団員のシンが言う。



「そうです。でも団長の神引きは内緒でお願いします」


 ヨッシーが皆にそう言って頭を下げた。


「了解、まあ、これは内緒ですよね!」


 皆が笑いに包まれる。

 拓也も苦笑いをしてその輪に加わったが、ひとり高校生ぐらいの男の団員「みーたん」が暗い顔をして下を向いていた。先にそれに気付いた美穂が声を掛ける。



「みーたんさん、どうかしましたか?」


 暗い顔をして下を向くみーたん。

 拓也はそれを見てすぐに直感した。



 ――あ、俺と同じだ。


 そして彼から出て来る次の言葉もおおよそ想像できた。みーたんが言う。



「怖いんです……」


「怖い?」


 美穂が聞き返す。みーたんが小さな声で言った。



「皆さん、すごく強くて、キャラもパテもいっぱい組めて、負けなくて、でも、僕は中学生で課金もできないし、強くなくて……、皆さんの足を引っ張るんじゃないかって……」


(同じだ、周りの評価や目ばかりが気になってしまって自分に自信が持てない。分かる、その気持ちはすごく良く分かる。でも、でも彼は違う、なぜって……)



「みーたんさん、みーたんさんは強い人ですよ」


「え?」


 思いがけぬ団長の言葉に驚くみーたん。拓也が言う。



「怖いのは自分も一緒。でも、その怖さをそうやってちゃんと打ち明けられるミーさんさんは強いなって思う。逃げないでちゃんと向き合っている。だから自信を持ってください。負けたっていい、足を引っ張ったっていい。団長おれがフォローします。一緒に楽しみましょう!! 楽しんだもの勝ち!!」


「団長……」


 みーたんの顔が自然と笑顔になる。



(木下君……)


 美穂は教室にいる時とは別人のような拓也を見てなぜだか目頭が熱くなって来た。

 皆が団長に話し掛ける。そんな声に答えながら拓也が思う。



(俺もずっと自分を否定するような人間だった。何をやってもダメ、何もできない。それでいいと思っていた。だけど……)


 拓也が美穂を見つめる。



 ――君が俺の手を引いてくれたんだ


 拓也は笑顔で話をする美穂の顔を見つめた。

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