22.オフ会開催だと!?

(ほ、本当に来ちゃった……)


 拓也は美穂に誘われたスイーツの店にやって来てひとり思った。

 明るい店内に流行の曲が軽快に流れる。客層は時間帯のせいもあるが同じ高校生が多い。ただ違うのはみな垢抜けた男女ばかりで、拓也からすれば明らかに『自分とは違う人種達』であった。



「ここねえ、すっごく美味しんだよ!」


 そんな拓也の気持ちも関係なしに美穂が嬉しそうに言う。美穂はメニューにあるイチゴのパフェを指差して言った。


「私、このパフェ。木下君は?」


 拓也はメニューブックを指差している美穂の奇麗な指に見惚れる。


「え? あ、ああ、じゃあこれ……」


 その隣にあるチョコのパフェを指差す。美穂は「了解!」と言うとすぐに店員を呼んで手際よく注文する。拓也はあまりにも場違いな自分を意識しながら美穂に尋ねる。



「涼風さんは、よく来るの? ここ……?」


 メニューを片付けながら美穂が答える。


「ううん、この間たまたまバイトの人達と一緒に来てさ。美味しかったんでまた来たいと思っていたんだよ」



(バイト、そう言えば読モをやっているって言ってたな……)


 拓也は美穂が読者モデルのバイトをしていたと言う話を思い出す。美穂がスマホを取り出し、その時撮ったと言う写真を見せてくれた。


「うっ……」


 そこには店内で笑顔で写る美穂の姿があった。



(美男美女ばっか……、全く住む世界の違う人達……)


 スマホの中には同じ読者モデルをやっていると言う美穂の友達が一緒に写っていた。モデルだけあってさすがに美男美女ばかり。見た目だけでも陰キャの拓也には近付くことすらできない人達であった。



「好きな子がいてね、こういうお店探すの。たまに行くんだ、あ、来た!」


 美穂がそう言うと店員が大きなパフェを持ってやって来た。


「いただきますっ!!」


 そう言って美穂が長いスプーンでパフェを美味しそうに食べ始める。拓也も同じようにチョコレートのパフェを食べる。冷たかった。後は何も感じない。



(これが俺か……)


 拓也は店内のガラスに映る自分の姿を見る。

 制服はまだいいとして、不揃いな長い髪に暗い表情。対する美穂は読モの中にいても輝きを放ち続けるような特別な人間。



(俺なんかと居て彼女は楽しいのかな……?)


 拓也はぱっとしない外見の自分を見つめつつ、美味しそうにパフェを食べる美穂をちらりと見た。






「よろしく、団長!」


「あ、ああ、よろしく、さん……」


 翌日のお昼、拓也と美穂は同じ学校の仲間であるヨッシーこととどろき良明よしあきと、一緒に屋上で昼ご飯を食べていた。

 ゲーム内では何度も指示を出した拓也。同じ学校でありながらサッカー部で活躍する多忙の良明。ちゃんと会話するのは初めてである。美穂が頬を膨らませて言う。



「あー、木下君。良明のこと『ヨッシー』って呼んだ! 学校ではゲームの名前はダメじゃないかったの!?」


 美穂が腕を組んで怒りながら拓也に言う。拓也が慌てて答える。



「い、いや、いいんだよ。ここは誰もいないし……」


 我ながら苦しい弁解だと思う。しかし今日は『ギルド大戦争』の作戦を練るために集まったのであり、ここで『ワンセカ』の話をしないのもおかしな話だ。


「ふーん、じゃあ、誰もいなければいいんだね、団長って呼んでも?」


「う、うん……」


 やはり陽キャには敵わないなと拓也が思った。良明が言う。



「え、なに? みんなの前では『ワンセカ』の話は禁止なの? そうなんだ、まあそれなら従うよ。あと、ヨッシーでいいよ。団長」


「わ、分かった。ヨ、ヨッシー……」


 顔を歪ませて名前を呼ぶ拓也。そんな一生懸命な拓也に気付き美穂がクスクス笑う。良明が言う。



「じゃあ、食べながら始めようか。についての作戦を」


「うん」


 美穂は弁当を広げながら頷いた。




「……なるほど。団長の戦略は良く分かったよ。すごく研究していることも分かった。神軍師、とか言われていたけどそんなんじゃなくて全て計算した上での指揮だったんだね」


 良明は拓也の『ワンセカ』持論を聞いた後にそう言った。

 予選で圧倒的な指揮を見せた拓也にようやく合点が行ったようだ。美穂は良明が頷くをのを見てなぜだか嬉しくなり笑顔になる。良明が言う。



「となると、後は全体的な底上げ、具体的には個々のレベルアップが必須って訳か」


 その言葉に頷くふたり。

 軍師と『デスコ』による意思の共有。ここまでは問題ないけど、やはり最後は団員のそれぞれの力、団の地力による。拓也が思う。



(とは言え、団員に『みんな強くなれ!』とは言えないしな……)


 ガチャにしろ攻略にしろ、皆がそれぞれ自分のペースで楽しむのがゲーム。変な強制はできないし、したくもない。少し考え始めた拓也を見て美穂が弁当の箸を止めて言う。



「そうそう、あとね、良明。団長凄いんだよ、ガチャの引き!」


「ガチャ?」


 良明が美穂の顔を見る。美穂が言う。



「うん、団長が凄いのは神軍師じゃなくて、本当は神引き。見てて」


 美穂はそう言ってスマホを取り出し『ワンセカ』を立ち上げガチャの画面を出す。そして拓也の指を掴んでガチャを回した。



『超激レアSSR!!!』


「ひゃー、出た!! 凄いでしょ!!」


 ガチャの画面を見せられた良明がぽかんとした表情を浮かべる。美穂が言う。



「団長の引き、本当に凄いんだから!! ゴールドフィンガーだよ!!」


(ゴ、ゴールドフィンガー!?)


 拓也は美穂の口から出た何だか古臭い表現に苦笑した。良明が言う。



「本当なの、団長? じゃあこれで……」


 良明は半信半疑でスマホを取り出しガチャの画面を開いて拓也に渡す。少し戸惑う拓也だったがガチャを回してから良明に返した。



「うそ……、マジで!?」


 そこにはやはり最新のSSRキャラが引かれていた。良明が言う。



「す、すっげええ!!! えっ? 毎回こんな引きなの??」


 驚く良明に拓也が頷く。美穂が言う。


「だからね、団長ってこんなに強いのに無課金なんだよ」


「マジかよ……、てっきり重課金かと思ってた……」


「でしょ? 私も最初はそう思ってたよ」


 盛り上がる美穂と良明。拓也は改めて自分のガチャの引きが凄いことなんだと理解した。良明が言う。



「他人のガチャまで神引き出来るとは……、あ、団長っ!!」


 何か閃いたのか良明が拓也に向かって言う。


「個々のレベルを上げるいい方法を思いついた!!」


「え? なになに?」


 美穂が興味深そうに言う。良明が話し始める。



「オフ会を開こう。あまり時間ないけど本選が始まる前に」


「オフ会?」


 美穂が首を傾げて言う。



「うん、オフ会を開いてみんなのスマホで団長にガチャを引いて貰おう。そうすれば無理なく個々のレベル上げができる!!」


「おおーーーっ!! それはナイスアイデア!!」


 美穂が両手を上げて喜びを表す。



(オ、オフ会!? マジで? 無理無理!! 考えただけでも胃が痛くなる……)


 喜ぶふたりとは対照的に、人が苦手な拓也はその『オフ会』という言葉を聞いただけで倒れそうになった。

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