20.ふたりの美少女の想い
「風間さん!」
拓也の幼なじみの風間玲子は、学校からの帰り後ろから呼ぶ声に気付いて振り向いた。
春が近いとはいえまだ日が暮れるのは早い。暗く染まりつつある空に冷たい風が吹く。
「新田君?」
玲子はクラスメートの
「どうしたの?」
新田は玲子の前まで来るとはあはあと息をしてから言った。
「卒業式の準備のことで……」
新田と玲子は同じクラスでクラス委員を務めている。在校生代表として式の準備、卒業生に送る言葉などを考えるのが仕事だ。
新田は振り向いた玲子のポニーテールからのぞく色っぽいうなじを見てごくりと唾を飲む。玲子が言う。
「それはこの間、先生を交えて話し終えたでしょ? どうしてこんなところでまた話をするの?」
新田が走って来て少し乱れた髪を整えながら答える。
「いや、あそこで決めたのって一種の美辞麗句のようなものでしょ。それよりも僕や風間さんの本当の心からの言葉を一緒に考えたいと思ってね。遠慮しなくていいよ、僕はこれから時間あるから」
玲子は首を横に振って言う。
「もうすべて決まったことよ。これ以上あなたと話をすることなんてないわ。じゃあ」
玲子はそう言って前を向いて歩き始める。新田が後を追うように慌てて歩き出す。
「風間さん、遠慮しなくていいよ! 僕ともっと話がしたいんでしょ? もしかして照れてるのかな。そんなこと気にしなくていいよ。僕は君と話す時間ぐらい……」
「要らないって言ったでしょ!!」
「ひぃ!?」
突然振り向いて大きな声で怒鳴った玲子に新田が驚き固まる。
「付いて来ないで!!」
玲子はそう言うとひとり歩いて行った。
(何なの、あの男! ホント気持ち悪い!!)
玲子はひとり早足で歩きながらスマホを取り出す。そして
(……もしかして、私もこんなふうに思われてるのかな)
玲子は拓也とその見知らぬ仲の良い女を思いながらスマホの画面を見つめた。
(何で、何であいつは素直にならないんだよ! 僕に惚れてるくせに!!)
新田嵐は家に帰ると手際良く学校の予習復習を終え、スマホの『ワンダフルな世界で君と』を立ち上げてからPCの電源を入れた。
『アッシさん、お疲れ様! 本選に向けた戦略はどうしよう? 続けて軍師をやって貰おうと思うけど、何か絶対に勝つ作戦はあるかな?』
(本当、人使いの荒い団長だ……)
嵐は『竜神団』の団長ジリュウからのメッセージを見てひとり思った。
ここ最近の『ギルド大戦争』予選の指揮でくたくたになっていた嵐。クラスメートの風間玲子とも上手く行かず、やや荒れた感じの返信をした。
『お疲れ様です、団長。ちょっと疲れたんで、しばらく休憩します』
その後に他の団員からの『軍師アッシ』を
「美穂~、早く早くっ!!」
クラスメートの峰岸凛花は、美穂に手を振って名前を呼んだ。
「すぐ行くよ~!!」
美穂も友達に手を振りながら走って行く。久しぶりに誘われたカラオケ。凛花など美穂の友達数名が集まって学校帰りにカラオケへと向かう。
「久しぶりだね、カラオケ。龍二君、なんか顔疲れてるっ!」
そう言われた足立龍二は顔をパンパンと叩いて答える。
「ちょっと、色々忙しくって。でもひと段落ついたからもう大丈夫だよ!」
明るいイケメンの笑顔が皆に降り注がれる。
「よし、じゃあ頑張って歌っちゃおうかな!」
龍二はそう言うとマイクを持ち、皆の前へ出て歌い始める。
「わあ……」
素人ながらも皆の脳に響くような心地良い歌声。イケメンで金持ち、性格も明るく歌も上手い龍二は、直ぐに一緒に来た女性達の熱い視線を集める。振付も交えた龍二の歌に皆が盛り上がる。
ただ、ひとりだけそんな龍二に全く興味を持たない女の子がいた。
「美穂ぉ、どうしたの〜? 歌わないの?」
カラオケに来てからずっと黙って歌おうとしない美穂に女友達が言った。直ぐに美穂が答える。
「うん、歌うよ。ごめんごめん!」
一緒にいた凛華は、最近美穂の顔つきが変わっている事に気づいていた。
美穂の順番が来る。マイクを持って歌い始める。皆の拍手。ただ歌っていても美穂の頭には、涙を必死に堪えながら泣く拓也の顔がずっと浮かんでいた。
「美穂、上手〜っ!!」
歌い終えた美穂が拍手の中、マイクを置く。
(あれ? まただ……)
美穂は自分の目頭が熱くなっている事に気づいた。それを誤魔化すように笑顔を振りまく美穂。
(美穂……)
それでもただひとり、凛華だけは彼女の異変に気付いていた。
(初めての指揮にしては上出来じゃないか……)
拓也は夕方家に帰り、暫定で表示されている『ピカピカ団』の7位と言う順位を見て思った。前回までの戦いでは予選ですら早々に敗退が決まっていた『ピカピカ団』。十分すぎる結果に本来なら満足してしなきゃいけないはずだった。
しかし拓也は不意に流れた涙、そして目を真っ赤にして自分を励ましてくれた美穂を思い出す。
(勝ちたい。もう負けたくない!!)
拓也が心から強くそう思った時、机に置いていたスマホからメッセージの着信の音が鳴った。
拓也はそのメッセージを見て体が固まった。
――団長ぉ、私、悔しいよ……
美穂が悔し涙を目に溜めながら打っている姿が思い浮かぶ。拓也も熱くなる目元を必死に堪えながら、もう二度と負けないと心に強く誓った。
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