14.美少女に拉致された!?
(どうしてこうなった……)
翌日の放課後、各クラス代表のダンスペアが体育館に集まる。
『
(き、緊張する……、というか陰キャが居ていい場所じゃない……)
各クラスから集まった男女のペアはやはり美男美女が多く、もうそこに立っているだけで絵になる奴らばかりであった。
その中でも学年一の美少女である美穂はこの場所においてもひときわ目立っている。ただ、その目立つ理由のひとつが隣に立つ拓也だったと言うことに彼女自身気付いていない。
美少女と暗い男。幸い身長だけは釣り合っていたが、余りに似合わないペアに皆の視線が注がれた。
「ええっとぉ、どれにしようかな~?」
そんなことに全く気にもしない美穂は、体育館の机の上に置かれたタブレットでダンス部の動画を楽しそうに見ている。
美穂の後ろに立っていた拓也は、タブレットを見ようと前屈みになった美穂の後ろ足、そして見えそうで見えない下着に気付き顔を赤くする。
「木下君」
「ひゃい!!」
美穂の足に見惚れていた拓也に、途中からその視線に気づいた美穂が声をかける。動揺する拓也。美穂が言う。
「木下君〜、何見てたのかな〜?」
(し、しまった。完全にバレてる!? ど、どうする!!??)
焦りまくる拓也に美穂が近付いて小声で言う。
「もしかして、見たかったのかな~、私の?」
「い、いや、違う! そんなんじゃ……」
美穂は小悪魔的な笑みを浮かべて拓也の耳元で囁く。
「団長命令なら、ちょっとだけならいいよ」
(ぐはっ!!!)
完全に拓也を手玉に取る美穂。拓也の頭は美穂の言葉で完全にショートを起こした。目の前の状況と掛けられた言葉の処理が追いつかない。
真っ赤になって固まる拓也の肩を、美穂は笑いながら叩いて言った。
「あはははっ、木下君っ、冗談よ!! うくくくくっ……、あ、そうそう、ダンス、これなんてどうかな?」
「はい……」
最早完全に美穂の支配下に置かれた拓也は、呼ばれたまま成す術なく美穂の言葉に従う。美穂はまだちょっと笑いながら、手にしたタブレットを拓也に見せる。そこにはゆっくりだが華麗に踊るダンス部員の動画が流れていた。
「い、いいと思う……」
「そうだね、じゃあ、これにしようか!!」
美穂はそう言うと年度祭実行委員にダンスの使用申請を行いに向かった。
(いや、ちょっと待て、拓也。冷静に考えろ!! 何が『いいと思う』だよ。全然良くないじゃないか。いいか、ちゃんと考えろ! ダンスだぞ、ダンス。全生徒の前で踊るダンス。ああ、本当にどうしてこうなった……)
拓也は美穂の背中を見ながら心臓が、全身が何か万力のような物でじわじわと締め付けられるような圧迫感を感じた。
「何で、あいつが美穂と……」
そんな様子を同じクラスの足立龍二が陰から見つめる。
(俺が、俺が美穂と踊るはずだったのに、くそっ!!!)
龍二は陰キャで根暗の拓也を見つめてこぶしを強く握りしめた。
(無事、何とか無事に残りの期間が終わって欲しい……)
拓也はひとりマンションに帰りながら、春休みまでの残された期間を平穏に過ごせるよう心から祈った。
「拓也」
「え?」
マンションに近付く拓也にポニーテールの少女が声を掛けた。
「玲子?」
風間玲子。拓也の幼なじみでここ数年は拓也から避けるようにしていた美少女。随分長い間会っていなかったのだが、先に偶然出会い再び会話を交わす様になっていた。
玲子は陽華高とは違った制服を着て拓也の目の前に立つ。紺色のブレザーの上にベージュの羽織が可愛い。拓也を見つめながら言った。
「ちょっと付き合って欲しいの」
「は?」
玲子はそう言うと驚く拓也の手を掴んでつかつかと歩き出す。
「お、おい、どうしたんだよ!!」
状況が理解できない拓也が玲子に言う。玲子は前を向いたまま答える。
「いいから、ちょっとだけ」
拓也は何を言っても無理だと思い、大人しく付いて行くことにした。
「で、一体どうしたんだよ?」
玲子に連れて来られたのは近所にあるファミレス。四人掛けの席に玲子と向かい合って座る。幼馴染み、昔はよく一緒に遊んだ仲だが、こうして美少女に成長した玲子と向かい合って座ると言うのは陰キャ心に悪い。適当に飲み物を注文した玲子が拓也に言った。
「昔ね、拓也のお母さんに、私、拓也を守って欲しいって頼まれてたんだ」
拓也の母親は既に離婚しており一緒にはいない。
しかも玲子の話はまだ物心つく前の幼い頃の話。今とは違いお転婆で、それでいて八方美人的な子だった玲子が母親とそんな話をしたのだろう、拓也はすぐに思った。
「だ、だからどうしたってんだよ。いまさらそんなガキの頃の話……」
拓也はなぜ玲子がそんな話をするのか全く理解できなかった。
「私はずっと覚えてたんだよ……」
(うぐっ……)
玲子は拓也を見つめて小さく言う。その奇麗で引き込まれそうな瞳を見て拓也に動揺が走る。基本陰キャ。幼馴染みとは言え美少女に見つめられて落ち着いていられる訳がない。玲子が言う。
「拓也、最近さあ、なんか変な女の人に付きまとわれていない……?」
「変な女?」
間違いなく非モテキャラの自分が女に付きまとわれるはずが、そこまで考えた時ある女の顔が浮かんだ。
(涼風美穂……)
付きまとわれているのかは別として、最近拓也の生活に大きなウェイトを占めるようになった女の子。ただ玲子と美穂の間に面識はない。気のせいだろうか、そう思っていると玲子が更に言った。
「拓也、聞いていい? ……私、何か拓也を怒らせたのかな? 私のこと……、避けてる?」
「は?」
拓也は既に『変な女』の話から話題が変わっていることに気付いた。感情的になっているのか、玲子に落ち着きがない。
(玲子を、避けている……)
それについては拓也自身、玲子に対して負い目があると感じていた。どんどん美少女になって行く玲子を勝手に、一種の嫉妬を感じ、自分とは釣り合わないと自ら距離を取った過去。
まだここ数年の話。悪いとは思いつつも、未だ拓也にはその気持ちは残っている。
「いや、そんなことはないよ。お前は何も悪くない……」
そう言うのが精一杯であった。
嘘はつきたくない。かと言って自分の恥ずかしい気持ちをさらけ出す勇気もない。
「そう、ならいいわ……」
ティン
玲子がそう言った時、テーブルの上に置いた拓也のスマホがメッセージ着信の音が鳴った。自然とスマホに目が行くふたり。そしてそこに表示された文を見て唖然とした。
『ミホン:やっほー、団長! 今どこ? 何してるの?』
「わっ!!」
慌ててスマホをしまう拓也。
「ミホン? 団長?」
別に玲子と付き合っている訳ではない。しかし何か悪い事でもしたかのようにスマホを隠す行動に、玲子の目が光った。
「ねえ、拓也。誰なの『ミホン』って? お友達? 話してくれるまで帰さないから」
そう言って玲子はテーブルの上にあった拓也の手を強く握った。
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