11.美少女ストーカー!?
『団長、起きてる?』
マンションに帰って寛いでいた拓也のスマホに、『デスコ』の新着メッセージが表示された。
あれから美穂とすぐにデスコで『ピカピカ団』のアカウントを作成し、ふたりで試験運用を始めた。
そして彼女の強い希望で役職、現時点では団長の拓也と副団長の美穂のみが入れる【役職部屋】を作成。戦略などを打ち合わせる部屋で一般団員は見ることができない場所である。
『起きてるよ、何か?』
デスコに書き込みながら我ながら硬い返事だと思う拓也。美穂がメッセージを打ち込む。
『言い忘れていたけど、本格的に上を目指すなら強い人必要だよね?』
『確かに』
『私の知り合いに強い傭兵やってる人がいるんだけど、誘ってみようか?』
『傭兵』とは決まったギルドに所属せずにイベントごとに色々な場所を渡り歩く人を指す。無論様々なギルドにお邪魔する訳だから弱い者や初心者では務まらない。ある程度の強さが求められる。
『そんな知り合いいるんだ。リアルの人?』
拓也は『デスコ』だと不思議と違和感なく美穂と会話できることに自分ながら驚く。美穂が答える。
『そうだよ。サッカー部の
(サッカー部、轟良明……)
拓也はその校内でも有名な陽キャイケメンの顔を思い出す。美穂同様、全くゲームなどには縁のなさそうなキャラだ。拓也が尋ねる。
『轟良明って、あの轟?』
『どの轟だよ~? 轟君は【ヨッシー】って名前でプレイしてるよ! 今度誘っとくね』
『ヨッシー? まさか、あのヨッシーなの?』
『だから、どのヨッシーなのよ!』
拓也は信じられなかった。
ヨッシーと言えばSNSでもかなりの有名人。気さくな性格だけでなく、毎回個人成績でも上位に入るガチプレイヤー。拓也自身も個人イベントで何度も対戦したことがある猛者だ。
『ありがとう、頼むよ』
拓也は美穂と話をしてから、どんどん自分が予想もしなかった方向へと進んでいくのを感じた。
「うるさい!! 俺に関わるなっ!!!」
「関わってなんかいないでしょ!! いい加減にして!!!」
美穂はお腹が減ったので自室から出て台所に向かう。明りの点いた居間から聞こえる両親の怒声。
美穂の両親は仲が悪い。高校に入りバイトも始めて少しずつ親の手を借りなくなった美穂だが、小学生の弟の事だけは心配であった。
美穂は食べかけのパンを持って自室の戻る途中に弟の部屋をそっと覗く。
(寝てるね……)
少し歳の離れた弟。ベッドでぐっすり眠っている。
弟がいなければこんな家など出て行きたいと思った事は何度もあったが、可愛い弟のことを考えるとそんなこともできない。美穂は明日の弟の朝食は何を作ろうか考えながら部屋に戻った。
「ねえ、団長っ!」
教室の一番後ろの席。朝登校してきた拓也に先に座っていた美穂が声を掛けた。
拓也はすぐに横目で美穂を睨む。その意味に気付いた美穂がすぐに呼び直す。
「木下君っ」
「な、何だよ」
「ギルド大戦争だけどさあ……」
そこまで聞いた拓也はすぐにスマホを取り出し何やら打ち始める。するとすぐに美穂のスマホから着信の音が鳴り美穂がそれを取り出す。
『学校でワンセカの話は禁止だって約束だろ?』
拓也からのメッセージを呼んだ美穂が打ち返す。
『分かってるけど、隣に座ってるし。後ろだから誰にも分からないよ~』
『分かるって! 前にも言ったけど、目立ちたくないんだよ』
美穂は首を傾げて拓也をちらりと見てからスマホを打つ。
『後ろだから目立たないって、大丈夫だよ。団長っ!!』
拓也は美穂自身が後ろにいれば全く目立っていない存在だと本気で思っていることに改めて驚かされた。学年一の美少女。どこで何をしようとすぐ話題になる。
やはり基本陽キャ。自分とは思考回路が全く別なのだと思い知らされる。
『とにかく、
『はーい、了解です。団長』
美穂は少し不満げな表情をしてスマホをしまう。そして直ぐにちょっと笑みを浮かべなら柄拓也に声を掛けた。
「おっは、木下君! 今日の朝は何を食べた?」
ゲームの話はしていない。
拓也は笑顔絵で話し掛ける美穂を見て、どうやっても絶対彼女には敵わないと心から思った。
(ふう、ここはやはり落ち着くな……)
拓也は購買部でお気に入りの焼きそばパンを買って、人があまり来ない校舎の片隅へと行った。建物の影になっておりひと目につき辛い。他者との交流を嫌う拓也にとって学校で数少ない落ち着ける場所であった。
ブルブルブル……
パンを齧り始めた拓也のスマホが着信を伝えるため震える。スマホを取り出すと美穂からであった。
『団長ー、どこにいるの? お昼、一緒に食べようよ!』
拓也はスマホを持ちながら手が震えた。
『ワンセカ』の作戦を練る為と言う理由で、ふたりだけの連絡手段を持ったのだがこれはまさか間違いだったのではないかと思い始めた。あれだけ目立つ陽キャの美穂に四六時中絡まれたら陰キャは精神的に持たない。
『また今度』
とは言え、彼女は『ピカピカ団』副団長ミホン。邪険に扱う訳には行かない。美穂の返事が届く。
『了解っ♡』
ハートのマークなど送られたことがない拓也は、その返事を見て体が固まった。嬉しい気持ちと、それ以上にどう対処していいのか分からない思いが拓也を占めた。
『ねえ、団長。今日の帰り、団長の部屋行ってもいい?』
午後の授業の休憩中、拓也は美穂から送られてきた目を疑うようなメッセージを見て再び体が固まった。
(お、俺の部屋に来る? 何を考えているんだ!?)
『どうして?』
『ギルド大戦争の作戦、しっかり練ろうよ。こんなデスコのやり取りだけじゃちっとも進まないよ~』
確かにそれはその通りだった。
学校でゲームの話を禁止している以上、やり取りはこのスマホだけになる。リアルで、しかもこんなに近くにいる利点が全く生かされない。
『でも、いいの? 男の部屋に……』
メッセージを見た美穂が顔を上げて隣にいる拓也を見る。
『大丈夫よ。よく行ってるし』
拓也は自分が非常につまらない質問をしたと今更ながら気付いた。陽キャの行動を自分の思考範疇で考えてはいけない。知り合いの家に行く、そこに男とか女とか彼女には関係なかった。
「ねえ、美穂。今日、何かずっとスマホいじってるじゃん。何してるの?」
美穂と一緒にいた陽キャグループの女が言う。前に座っている峰岸凛花も言う。
「えー、ついに美穂に男できたのかな?」
「そんなんじゃないよ! ちょっとだけ、ごめんね!」
まさか隣に座っている陰キャとやり取りしているとは誰も思わない。
(男……)
拓也は耳に聞こえて来たそのフレーズがなぜか耳に残り何度も頭の中で繰り返された。
『今日バイトもないし、いいでしょ? それとも何か用事あったりした?』
拓也は美穂のメッセージで我に返った。
『いや、特に用事はないけど』
煮え切らない拓也に美穂が書き込む。
『副団長命令! 今日、一緒に帰ろうね』
女の子と一緒に帰る。
その甘美で憧れのフレーズに拓也は自然と美穂を見て頷いて応えた。
(目立つ……)
電車で隣同士に座った拓也と美穂。電車の乗客からの視線を浴び、改めて美少女と陰キャが釣り合わないことを自覚する。拓也は汗をかき、下を向いて早く駅について欲しいと願った。
(あれって、え、まさか、拓也……?)
美穂と並んで自分のマンションに入る拓也。
それを偶然同じマンションに住んでいる幼馴染みの風間玲子が見かける。
(綺麗な人、誰かしら、一体……)
玲子はなぜ自分が物陰に隠れてしまったのか、なぜこんなにもどきどきしているのか理解するのに少し時間が掛かった。
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