2.隣の陽キャが……、嘘でしょ!?

(あ、また出た)



 拓也はスマホの画面に表示された、


『超激レアSSR!!!』


 と言う表示を見て思った。

 何気なく回したガチャ。もう何体目か分からない激レアSSRキャラの出現が画面に映し出されている。



(ほんと、運だけは良いよなあ……)


 拓也はガチャの引きに関してはいわゆる『神引き』と呼ばれるものを連発していた。


 とにかくガチャ運が良く、回せば高確率でレアキャラが引けた。そのお陰で無課金ながら重課金プレイヤー並みのパテが組め、ほとんどのイベントで『ランカー』と呼ばれるトッププレイヤー達と肩を並べることができた。

 お金のない高校生の拓也にとってこの不思議な運の良さは非常に有難かった。



「よし、勝った」


 また定期的に開催される『ワンダフルな世界で君と』、通称『ワンセカ』の対人イベント。プレイヤー同士が戦って順位を争う人気イベントなのだが、拓也はここでも無課金ながら上位50位に名を連ねる常連であった。



『団長、おめでと!』

『安定の強さ、さすがです!!』


 ゲーム内チャットでは次々と順位を上げていく団長タクに称賛コメントが書きこまれる。上位50というラインがゲーム内なら誰でも閲覧できる順位となる。

 チャットに感謝のコメントを書いた後、拓也が思う。



(ただ、俺ひとりが強くても……)


 個人戦のイベントはそれで良かった。

 でも拓也には大きな目標があった。それは、



 ――『ギルド大戦争』での優勝



『ギルド大戦争』

 それはギルド同士が対戦し、頂点を決めるイベント。予選から始まり、本選に残ったは8つのギルドで決勝を行い頂点を決める。

 無論、中堅ギルドである『ピカピカ団』はいつも予選で敗退。原因は明白であった。



(個々の力が弱い。それに全体を指揮する軍師制ではない)


 軍師、それは団体戦において各プレイヤーに細かな行動指示を出す司令塔。

『ギルド大戦争』は時間に縛られるイベントである。軍師制にすると効率良く勝てるが、行動に指示を貰わねばならず、リアルの生活に影響する事もあって嫌がるプレイヤーも多い。ただ上を目指すギルドには『軍師』は必須となる。



ピカピカ団ここで頂点を目指すならばいずれは軍師制を取らなければならない。でも……)


 拓也はピカピカ団の団員の名前を見る。

 ゲーム内のプレイヤー名だからもちろん本名ではない。様々なニックネームのようなものだ。拓也の心臓の鼓動が少し乱れる。



(彼らはゲームのNPCキャラじゃない。それぞれがちゃんとしたであり、それぞれの人格を持っている……)


 陰キャで人とコミュニケーションを取るのが苦手な拓也には彼らと連絡し合い、リアルの生活を考慮しつつ指示を出すなど、考えただけで胸の辺りがむかむかして来る。



『いつか絶対に優勝したい!! でも、人とコミュを取るのは……』


 これが拓也がゲームを始めた頃からの悩みであった。




「ふう」


 拓也は一通りゲームを終えるとベッドの横に積まれた図書館で借りて来た『世界の戦略』という分厚い本を開いた。古代中国から中世ヨーロッパ、日本の戦国時代に世界大戦の戦略、戦術などについて書かれている。


『ギルド大戦争』は各団のメンバーと陣を築いて戦う。陣形やキャラの相性なども大きく戦局を変えるので常に勉強が必要である。

 拓也はいつか来るであろうその日に備えてあらゆる関連する資料を集め、そしてSNSなどで現在、過去のギルドの戦いを研究していた。





「焼きそばパンと卵パンと、ミルクオレね。ええっと代金は……」


 学校の購買部のおばちゃんが拓也が差し出したパンを見て言う。

 昼休み、拓也は昼食を買いに購買部に来ていた。人気の焼きそばパンは直ぐに売り切れるので早めの行動が大事だ。

 無事に目当ての昼食を買うことができた拓也は、いつもひとりで静かに食べられるお気に入りの場所に向かった。



(うわ、誰かいる……)


 いつもは誰もいない校舎の片隅に、今日は何故か上級生数名が座って話し込んでいる。



(どうしようかな、もう直ぐイベントが始まっちゃう)


 今日の昼から『ギルド大戦争』とは別のイベントが始まる。遅れたくない拓也は仕方無しに教室へ戻る。自分の席の隣には陽キャ美少女の美穂と、同系統のクラスメート数名が一緒に昼食を食べている。



(ま、まぶしい!! 陽キャオーラが全開だ、くっ!!)


 拓也には彼女らの周りに『陽キャしか入れないオーラ』が張られていることに気付く。しかし時間は待ってくれない。拓也はオーラに触れぬよう体を反らせながら自席に着いた。



(よし、間に合った……)


 今日から始まるのはギルドでレイドボスを倒すイベント。高得点を得るには効率よく討伐して行く必要がある。拓也は焼きそばパンを齧りながら昨晩考えておいた最適パテを呼び出し、出撃に備える。



「でさぁ、でさぁ、彼がね……」

「うそぉ、マジで!? キャハハハッ!!」


 隣の陽キャグループから聞こえる意味の無い甲高い声。乾いた笑い。

 拓也は『ワンセカ』に集中。先に出撃した副団長のの苦戦を見て即時出撃を決断。重要な勝負どころでいつも拓也は躊躇いなく現れ、団員を助ける。


 拓也はミルクオレを一気に飲むと気合を入れ出撃ボタンを押した。



「でさぁ、……って美穂ぉ、またそのゲームやってんの?」


 陽キャのひとりがさっきからずっと黙ってスマホをいじっている美穂に言う。スマホを見ていた美穂が顔を上げ答える。


「うん、ずっとやってるよ。面白くて」


「そうだよね、ずっとやってるよね」



「ゲームも面白いけど、グループがあってね、そこの団長がすっごく頼りになる人で、寡黙なんだけど優しくて……」


「なにそれ? 誰、知り合い?」


 美穂の友達がからかい気味に言う。美穂が答える。


「えー、知らない人だよ。知らないけど、どんな人なのかな? ちょっと興味ある。こういうのって想像するだけでめっちゃドキドキするよね!」


「分かんないよー、ゲームとかやらないし。って言うか、その人って男? 珍しいよね、美穂が男の話するなんて」


「そんなことないよ、私だって……、あっ! ちょい、ごめん!!」



 そう言うと画面を見つめながら美穂が言う。



「今日から新イベでね。ごめん、ちょっと集中っ!!」


 美穂の言葉を聞き、他の陽キャ達がまた意味のない話を始める。そんな周りの声など全く聞こえない拓也が副団長ミホンを助け、レイドボスにとどめの攻撃を繰り出す。



(行けえええ!! これで一体目、撃破っ!!!)


 拓也自慢のパテが全力で攻撃する。

 しかし運命の歯車が、ここで少しだけ思わぬ方向へとずれた。




(げっ!?)



 拓也の最適パテが攻撃のミスもあり、ボスの体力を削りきれなかったのだ。拓也が思わず声を出す。



「「うそぉ!! 事故った!?」」



(えっ!?)


 拓也が発したそのセリフ。その言葉と全く同じセリフが彼のからも上がった。

 思わず顔を上げ横を見る拓也。その目線の先には同じ様に驚いた顔でこちらを見つめる美穂の顔がある。



(涼風美穂みほ美穂ミホ、ミホ、ミホン……、ま、まさか、うそだろ……)


 拓也は処理しきれない目の前の状況に頭と体が固まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る