3.全力否定しますっ!!
必ず討ち取れると思った拓也の攻撃。
しかしミスなどの不運が重なりレイドボスの体力を削り切れなかった。そして思わず出た声。
「「うそぉ、事故った!?」」
そのセリフは何故か隣の陽キャグループで食事をしていた美穂と同時に発せられた。
顔を上げ見つめ合う拓也と美穂。拓也の脳裏に、『美穂=ミホン』の式が浮かぶ。拓也の顔を見つめていた美穂が声を出す。
「ねえ、木下君って、まさか……」
美穂の問いかけに一緒に居た陽キャ達の視線が拓也に集まる。拓也は緊張で手が震え、汗を流しながらかすれた声で答えた。
「い、いや、違う。そんなんじゃない……」
ちょっと場の空気の変わったことに気付いた陽キャが言う。
「え、なに、なに? 美穂がやってたゲームって、木下も一緒にやってんの?」
それを聞いた拓也の顔が真っ赤になる。美穂が言う。
「ねえ、木下君ってさあ……」
拓也は直ぐにスマホを切り、返事をする。
「違う、そんなんじゃない。やってない!」
顔を赤くして汗を流しながら否定する拓也。そして思う。
(絶対に、絶対に同じゲームやってることがバレないようにしなければ!! こんな陽キャと一緒だと分かったら、目立つ、目立つ。平穏な学校生活が、静かな生活が、崩壊する!!!)
「ねえ、木下君ってさあ、『タク』って知ってる?」
拓也は全身の血の気が引いた。
美穂の発した言葉が鋭い刃のようになって拓也の胸に突き刺さる。しかしその言葉によって長い間支え、支えられてきた副団長のミホンが隣にいる陽キャであることが確定した。
拓也は目の前が真っ白になって頭が正常に働かない。
拓也の方を見て言葉を掛けた美穂に、彼女の前に座っていた
「美穂、そんなのに構わなくていいよ。声かけられて真っ赤になってるじゃん」
凛花は美穂に負けず劣らずの美少女で、美穂とは対照的なクールビューティ。黒い長髪に真っ白な肌。凛とした目は知性の高さを感じる。親友でもある凛華の言葉に美穂が答える。
「えー、だって、超重要だよ。もしかして木下君が……」
「違う……」
拓也の発した声は既に勢いが無くなっている。完全に声色だけで動揺が見て取れる。美穂が言う。
「でも、さっき『事故った』って言ってたでしょ? それってレイドの……」
拓也は動揺がバレないように前を向いて言う。
「兄が、兄が車で事故ったって連絡があって……」
拓也は居るはずもない兄を出して誤魔化した。美穂が言う。
「へえ、木下君ってお兄さんいるんだ。何て名前なの?」
「な、なんでもない!」
拓也は少し強めに言うと、その場にいるのが辛くなり立ち上がって教室を出て行く。呆気にとられる美穂たち陽キャグループ。凛花が言う。
「何あれ? ダッサ」
美穂はそのまま拓也が出て行った教室のドアの方を見つめた。
(緊急事態、緊急事態!! うちの
拓也は意味もなく校内を歩き続け先程起きた信じられない出来事を思い出す。
(ミホンにはたくさん助けられたけど、涼風美穂にははっきり言って関わりたくない。あんな陽キャ達に絡まれたら……)
拓也はことある毎に絡み合う陽キャ達を想像して身震いした。
(もうバレているかもしれないけど、絶対に認めない! 認めたら俺の負け。平穏な学校生活がその瞬間に終わる!!)
そう思いつつも『ワンセカ』のことを考えると頭が痛くなる。自分自身が頑張るのは別として、副団長ミホンの活躍もギルドにとっては重要な要素。今思えばミホンの明るさは、涼風美穂の陽キャから来ていたのだと納得する。
(長く支えてくれたミホン。ゲーム内では彼女を失うことは考えらない。ならば答えはひとつ!!)
拓也は廊下の窓から広がる町の景色を見ながら思った。
(絶対に俺が
拓也はひとり拳を握って窓からの景色を見つめた。
「やっほー、木下君」
午後の授業の開始直前に教室に戻った拓也に美穂が笑顔で言った。
拓也は美穂の顔を見ずにやや斜め前を向いて、引きつった顔で少し頷いて応える。しかし頭の中は隣に座る美少女美穂のことで頭が一杯になっていた。
(目を付けられた。陽キャに目を付けられた!! まずい、まずい、まずい!! 完全に疑われている!!!)
拓也は今更ながら『拓也だからタク』とした安易なネーミングを後悔した。拓也は椅子に座り少しだけ美穂の足元を見た。
(うっ!!)
目に映るのは美少女美穂の長く白い足。
決して細過ぎず、もちろん太くもない健康的な足。まだ寒い時期だと言うのにまぶしい生足である。拓也は慌てて教壇に現れた教師に視線を移した。
「うふふっ」
人から見られることに慣れている美穂は、拓也からの視線を感じ少しだけ笑った。
「はい、ではこれでHRは終わり。みな、気を付けて帰るように」
担任の言葉を聞いてぞろぞろと立ち上がる生徒達。拓也も急ぎ支度をして教室を出る。美穂はそれを帰り支度しながら見つめた。
(ふう、良かった。あれから絡まれなかった)
拓也は一安心し、ひとり急いで自宅マンションへと向かう。
誰もいない部屋に明かりが灯され、暖房のスイッチが入る。味気ない夕食をとりながら拓也は『ワンセカ』を起動。すぐにチャットルームにあった言葉に目が行った。
『団長~、初日、乙!! 明日からも頑張ろうね!!』
副団長のミホンの書き込みがあった。
拓也はどきどきしながら返事を打つ。
『お疲れ様、みんな。明日もよろしく!』
団長の書き込みに一部の団員がスタンプで応える。ミホンからも同じようにスタンプが送られた。
「良かった。ゲームは無事にやれそうだ」
拓也はスマホを置くとひとりつぶやいた。
はっきりと否定したのが良かったのだろう。ゲームがこれまで通りできればそれでいい。拓也は安心しながらシャワーに向かった。
しかし拓也はまだ理解していなかった。
この安心が美穂によって直ぐに終わりを迎えること、そして翌日から彼女の陽攻撃が本格的に開始されることなど。
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