第13話
ざあ、と木の葉の音がする。
森の中の木を飛ぶように駆けながら、男はくつくつと笑みを零した。
思い返すのは、なんとも風変わりなご令嬢と、番犬の姿だ。
男の名はカガチ。
濃い灰色の髪は無造作に括られ、深い黄金色の瞳は常に気だるげに細められている。
その肌は象牙色で、透けるような白色の肌を持つものが多い聖ルナティア王国では目立つ風貌をしていた。
黒を基調とした異国情緒漂う服装といい、この学園ではとことん浮いている。
「いやぁ、あれにならまた膝を着いてもいいかもなぁ。お前もそう思うだろう?翠」
「──お戯れを」
一際背の高い木の上。
学園を見渡せるそこへ重力を感じさせないような動きで留まるカガチは、ふと背後に声をかけた。
そこにいたのは、柔らかな薄緑の髪と鮮やかな碧色の瞳を持つ1人の少年。
歳の頃は恐らく、あの令嬢とさほど変わらないのではないだろうか。まだ幼さの残る、少年──名をスイという。
まるで植物かのように静かな少年は、けれどその瞳だけは煌々と輝いている。
……ああ、綺麗な眼だ。
カガチは、スイの瞳が好きだった。
──己とは違う、綺麗な瞳。
「俺が膝を着くのは、あなただけです」
「……そぉかい」
あまりにも真っ直ぐで力強いその煌めきは、時折カガチにとっては眩しすぎた。
緩く目を細め、その黄金色を眼下の学園へと戻す。
金持ちのボンボンなんざ、全員同じだと思っていた。
少なくとも、カガチの生きた人生の中で接した奴らは、全員そうだった。
金に物を言わせ、格下の階級のものは人間とすら思わない。何をしても良いと思っている。
──そういうお嬢ちゃんなら、やりやすかったんだけどな。
「さあ、仕事の時間だ」
目を閉じる。
淡い、柔らかな木漏れ日の記憶は、昏い闇に塗り潰された。
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