田原総一朗888歳

帰還

　とうとう国連本部に戻ってきてしまいました。

　出発前、この廊下で、あなたに話しかけられたのですよね。

　一カ月くらいしかたっていませんが、ずいぶん前のような気がしてしまいます。

　この部屋が、メタルボディの返却場所なのですね？

　ではここでお別れですね。

　え？　君は心を入れ替えるのが早くて指導が一回で済んだ？

　また褒められた。ありがとうございます。

　あ、もしかして。心構えを出発前の感じに戻したら、次の巡見も一緒に行ってくださるとか？

　え、いつまでも独り立ちできない宇宙巡見使はクビだ？

　ですよね。あはは。

　そうだ。最後に教えてもらってもよいでしょうか。

　国連のアドバイザーAIは、いずれも昔の著名人の頭脳がベースになっていると聞いています。あなたは誰がもとになったAIなのでしょう？

　ソウイチロウ・タハラ？

　どれどれ。ちょっと手元の端末で、と……。

　お、出てきた。

　地球の日本で活躍されていたジャーナリストさん、ですか。1934年4月15日生まれ……いやあ、かなり昔ですねえ。

　え？　今日で888歳？

　あ、本当だ。今日は4月15日ですものね。

　お誕生日おめでとうございます！

　へえ。

　形骸化してきた巡見の制度をきちんと機能させることが、今年からのあなたのテーマということですか。それが世界平和の維持に効果的だと。

　その生年月日ですと、最後の『世界大戦』も生で見られていますものね。

　昔は国を憂い、地球を憂い、そして今はAIになられて宇宙を憂う。いつまでも、この世界のことを考え続けておられるのですね。

　すごいですね。AIならばニュース記事・論文・ネットの情報を取り込むだけでも頭脳をアップデートしていけるはずなのに、こうやってメタルボディを使って現場に行って、生の声を聞いて、生の人間と言い合いをして……というのはちょっと余計ですか。すみません。

　でも失礼な言い方ですが、本当に頭が下がります。

　え、今は人生の付録？　失うものは何もないからやりたいことをやっているだけ？

　ふふふふ。そうですか。

　一緒に巡見ができたことを、光栄に思います。

　これからは大切な仕事をやらせていただいているという自覚を持って、立派な宇宙巡見使になることをお約束します。それがあなたへの誕生日プレゼント――ということでどうでしょう？

　え、生意気？

　あはは。すみません。

　－ 完 －