2日目
ふふふ。
このお茶、匂いもいいし、後味もスッキリです。
コロニーの庁舎の応接室で出されるお茶、どこもおいしいと聞いていますが、ここも相当よい茶葉を使っているのでしょう。
しかもこのソファーの座り心地。最高じゃないですか? 座りながら寝られそう。
え、緊張感がなさすぎ?
宇宙巡見使は、賄賂をたくさんもらって、極上のホテルでくつろいで、コロニーの応接室でおいしいお茶を飲ませてもらって、書類を流し読みして適当にサインして、視察という名の観光を楽しんで、そして帰って「問題ありませんでした」と報告するだけの簡単なお仕事――。採用される前も後も、僕はそう聞いていましたよ?
だからこそ、僕も宇宙巡見使になろうと、一生懸命勉強して採用試験にパスして、夢を叶えたのですが。
……え? そんな意識では絶対ダメ?
厳しいなあ。
でも、昨日飲み屋街で聞いた話、ちょっと意外でしたね。
第1コロニーと第2コロニーはもう長いこと紛争状態……というか、ずっと第1コロニーが第2コロニーを虐めていて、小規模ながら武力衝突に近いようなことも起きているとか。
僕、全然知りませんでしたよ。
だって、予習した前任の宇宙巡見使さんの報告書には『問題なし』って書かれていましたもの。
……って、アレですか。
そのときの宇宙巡見使さんも、お茶飲んで書類を流し読みしてサインして帰っただけなので、気づいていなかっただけかもしれませんね。
あるいは、気づいていても、第1コロニーから多額の賄賂をもらって『問題なし』にしていたか。
お。ノック音。
会ってくださるのは、第1コロニーの総務局長・課長・担当者の御三方の予定です。
お金いくらくれるかなぁ……。
え、いい加減にしろ?
ごめんなさい。受け取りません、終わるまでは。
終わってからも受け取るな? スミマセン。
◇
さぁて、挨拶は終わりました。
もう少ししたらさっきの総務局の担当者さんが戻ってきますので、それまで一緒においしいお茶を飲んで待ちましょう……って、あなたはメタルボディなので飲めないですね。すみません。
今日と明日は、担当者さんの案内でコロニーの重要施設を見せてもらうことになっています。
あさっては、作業用のお部屋を貸してもらえるそうなので、コロニーの運用に関する書類をザっと見させてもらって、サイン。
そのあと、コロニー視察という名のバカンスが7日間と、予備日という名のバカンスが2日間ありますので、適当に街を観光して楽しみましょう。
それで第1コロニーの巡見は終了です。
ん? 施設はしっかり見とけ? 各施設の担当の説明もちゃんと聞け? 書類は時間をかけてしっかり読み込め? 疑問点があったらちゃんと突っ込め? 観光気分で街を見るんじゃなくて、きちんと視察しろ?
マジですか? そんなことをして大丈夫です?
当たり前? それが仕事だろ?
まあ、本来はそうなのでしょうけど。誰もやっていないと僕は聞いて……
……あ、ハイ。ちゃんとやります。
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