　ん？

　え、もう朝？　あ、本当だ。

　寝坊するな？

　……すみません。起こしてくださってありがとうございます。

　今日から街の視察ですね。すぐに支度します。

　いやあ、しかし、体が重いです。頭も少しクラクラします。

　こんなに疲れたのは採用試験の勉強をしたとき以来かもしれません。トホホ。

　え、なぜそんなに疲れているのかって？

　あなたがそれを言います？

　コロニーの重力は地球に合わせてあるはずですし、時差ボケも宇宙船がうまく調整してくれるので無いはずですから、この疲労は全部、書類を精読したことによるものですよ？

　何度あなたに「もう切り上げてサインしちゃいません？」って言っても、ダメって言われるし。「街の巡視に使える日数が減りますけど大丈夫です？」って言っても、予備日があるはずだから問題ないだろうと一蹴されるし……まあそれは本当ですけれども。

　まさかあれだけ真剣に書類を読むことになるとは。参りました。一日で終わらせるはずが、書類の読み込みと質疑で結局三日間も費やしてしまったではありませんか。

　僕、担当者のかたに「こんなにきちんと書類を見た宇宙巡見使さんは初めてです」と珍獣扱いされていましたよ？

　もうこれ、「真面目に書類を読まれてしまった」という苦情が国連本部に行く可能性すらある気がしてしまいます。

　え？　意外に根性あるなって？

　まあ……宇宙巡見使の採用試験を受けるときは、それこそ死ぬ気で勉強しましたし。頭の体力はまあまああるほうなのかも？

　というか、初めてあなたに褒められましたね。

　さて、準備完了です。

　では、視察という名のバカンスに……

　……あ、ハイハイ、わかってますって。そういう心構えではダメなんですよね？

　真面目に視察しますって。トホホ。

　では行きましょう。

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