第七十八話 摩訶鉢特摩
Gib deine Hand, du schön und zart Gebild! (手を取りなさい、見目麗しき乙女よ。)
Bin Freund und komme nicht zu strafen. (私は味方であり、其方を脅かす者ではない。)
Sei gutes Muts! Ich bin nicht wild, (恐れないで、私は獣ではない。)
sollst sanft in meinen Armen schlafen! (腕の中、其方に安らかなる眠りを与える者也。)
――フランツ・ペーター・シューベルト、歌曲『死と乙女』 (詩:マティアス・クラウディウス)より。
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全ての望みは絶たれた。
「どうして……こんな事を……。」
最早抗う術の無い
「
「ええ、
「
困惑、怒り、悲しみ、そんな複雑な思いの丈をぶつけた
「
「ううぅっ……‼」
「うくくっ……アハハハハハハハ‼
「え……?」
弾けた様に腹を抱えて大爆笑する
「でも
「どういう……事ですか……?」
恐る恐る尋ねる
「あれね、
「え……?」
「まあ、色々と間に挟んで、
余程ネタ晴らしをしたくて仕方が無かったのだろう、
「本当に、あの時
「な、何で……?」
震える
「何で
意味が解らなかった。先程尋ねた疑問とは異質な困惑である。優しい筈だ、と思っていた
「
「は……?」
「初めてだったわ。あんなに
「どういう……事ですか……?」
「
胸に心臓の鼓動を感じ、
「まさか、
「この
「
「それじゃあ
「この瞬間を待っていたのよ。全ては
腰を抜かし、力無崩れ落ちようとする
「っ……‼」
長い舌が口内に侵入し、舌に絡み付いてくる。
滑らかな舌触りに味覚を蹂
紛れも無い想い人の唇によって迫られて結び、紛れも無い想い人の仇によって奪われて果たした、初めての
「ぷはっ……!」
唇が離れ、物惜し気な舌から互いを結ぶ糸が引いている。生温かい吐息が重なり、真冬の様に白く濁る。
「もう、止め……。」
涙ながらの拒絶を無視して、再びの
「ぷはっ、はぁーっ、はぁーっ……!」
「さて、次は
「手始めに、
「や、
身の毛の
「どうかもうこれ以上酷い事しないでください‼ 後生ですから許してください‼
殺された、想い人を。想い人への記憶さえも
「駄目よ。それでは駄目。」
「酷い事を
「ううううううっ! ふぐうううううっっ‼」
恐怖と、悲しみと、惨めさに涙が止まらない。何を言わされるのか、
「
「そう言う
「そうします‼ そうしますから‼」
狂ったように叫び続けたせいか、
永遠の様な沈黙の時間が流れる。
「では、こうしましょうか……。」
「もう、彼等は必要無い……。」
「うぅ……。」
「ぐっ……。」
今目を覚ました二人の
「な、待て! 何を‼」
「在庫処分よ。」
「ぐええええっ‼ 止めろ‼ 止めてくれ‼ た、助けて‼ うげ‼」
訴えも虚しく、
「ひ、ひいいいいいっ‼」
唯々冷酷に、何の感慨も無く、彼女は二人の配下を殺処分してしまったのだ。
「
「せ、誠意……?」
まだ何かあるのか、と
「
「ほ、本当に……?」
それは正しく悪魔の囁きだったが、散々心を弄られ続けた
「考えても見なさい、こんなに美味しい話は無いわよ?
破滅の宣告と共に、
「それと、
「え? 皆の前?」
「言い忘れていたけれど、今日の構内放送は全てこの
辛うじて守っていた最後の一線も容赦無く崩そうとしてくる。しかも、屈服は既に周知されている。
「あの
「それ程の純情で生かされた命、無駄にする事はないわ。それに、あの
もう、
望まぬ裏切りに
「
「ん?」
「
最後の屈服の言葉を口にしようとした、その時だった。
「
何やら
『そこまでよ。』
懐かしい声が聞こえた。先程迄
「
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