第二章 傾奇少年と二つの逝徒會
第二十一話 或る少年の異端的な肖像
百年後の
――音楽家・
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その少年は幼い頃、天使の様に純朴で朗らかな美少年だったという。幼稚園では
転機が訪れたのは、小学生の頃。父親の原因不明の自殺である。
彼の文化的素養へ惜しみなく投資し、育んでくれた愛すべき父親。その喪失は、彼の中に何らかの黒い影を落とした。初七日が終わるまで彼は塞ぎ込んで学校も休み、その後も四十九日が終わる迄は沈んだ表情を浮かべていた。
だが、その後はすっかりと人が変わってしまった。何を思ったのか、以前とは別人物の様に弾けた異常行動が目立つようになったのだ。
髪を脱色するなど小学生の頃から序の口で、校舎の壁を
だが芸術の才能に関しては一層開花した。特に音楽発表会で自作の吹奏楽曲をクラスの出し物として演奏させた事、その際に披露したピアノの腕前は母校で今でも語り草となっている。
そんな彼は中学卒業の際、その音楽的才能を買われて
「全く、彼には困ったもんですよ。」
彼が二年生へ進級しようという頃、即ち
「あんなルールをルールと思わんような悪餓鬼、さっさと退学にすればいいんだ。」
「しかし、彼の言う様に彼は厳密に言うと服装規定は破っていないんですなあ……。」
「屁理屈でしょう、あんなの‼」
同僚の数学教師・
「あんな男に大きな顔をされては、我が
「いやあ、それがですね。逆に彼は
「お嬢様はあの男の事をよく知っていた筈でしょうに、何故推薦入学など許したんだ……。」
面倒な事に、彼は既に動画サイトを通じた音楽活動によってインターネット上では有名人なのだ。そんな彼が
「認めんぞ……
「しかしですね、
「全く、忌々しい‼」
「
「
普段、この手の話には関わろうとしない数学教師・
「現状、彼を処分する根拠が何も無いのは事実なのです。確かに小学校の頃は今より酷かったとは聞きますが、それは過去の話。彼は今、成長し非常に狡猾になっている。」
「し、しかし……。」
「どうせあんな生徒、
「一人一人の生徒の個性、多様性を長い目で見て育めば良いではないですか。」
それは
そんな彼を停学処分にせざるを得なくなったのは、一年後の彼が三年に進級した四月の事だった。
☾☾☾
『今日からは色々大変な事になるわよ。覚悟しておきなさい。』
例の如く、窓には
「『
『そうね。それもあるし、面倒な奴と関わる事になるでしょう?』
「
『そりゃ、
「え? あの人って有名人なんですか?」
『十七歳にして既に世界的な名声を手にしているわね。
関係の無い所で言及された
「でもそんな有名人なら僕も知っていると思いますが……。」
『有名と言ってもインターネット上だからね。確か、顔は明かしていなかった筈だし本人の素顔を知らないのは無理ないわ。』
「素顔と言っても化粧でゴッテゴテでしたけどね……。」
と、
「
『知りたい?』
「ええ、まあ……。ここまで引っ張られると名前くらいは……。」
窓に映った
『全く、あの男は……。』
「え?」
『窓の外、後ろを見て御覧なさい。』
「何だ⁉ あの人、走って追いかけて……!」
『多分、久々の登校な上に慣れないバス通学だから勝手がわからず発車時刻に間に合わなかったのね……。』
「いや、それにしても……!」
「何だ? ありゃ?」
「見間違えかしら?」
「バス何キロ出してんだ? 馬並みの足の速さじゃねえか……。」
猛然と追い掛けるその表情は真顔だが必死さは見せておらず、化粧も全く乱れていない。
これだけでも十分超常的なのだが、驚くべきことにそこから更にスカートを
「おいおい、何したんだ⁉」
「いなくなった……いや、跳んだのか⁉」
「まさか、嘘でしょ⁉」
次の瞬間、バスの屋根から何か人の大きさと重量の物が落ちて当たったような衝撃音が鳴り響いた。誰もが、先程の怪人がバスの屋根に飛び乗ったのだと察した。
「し、信じられない人だな……。」
しかし、ここでふと
「あの、
『どうしたの?』
「いや、
「記憶違いがあったら御免なさい。確か
『ええ、男よ。』
「でも、格好は昨日も今日も女子の制服ですよね?」
『我が
「じ、じゃああの人、そういう内面的に女性って人なんですか?」
『いいえ、男よ。』
「じ、じゃあ何で女子用の制服を?」
『解らないわ。あの男は昔から突拍子も無い事ばかりするのよ……。』
言葉から察するに、
「で、結局何者なんです? あの人……。」
ここまで、尚もスケバン風の格好をした彼の名前は明かされていない。
「若干十二歳にして自作曲のピアノ演奏と歌唱が動画サイトで世界的流行を起こし、その類稀なる才能に目を付けた
「
『そう、その男よ。彼の名は
その時、
『今、あの人から連絡が入った。』
『あの人って、ヒトミ先輩?』
『何だ、知っていたのか。御察しの通り昨日会った
『乗ったって、屋根の上だぞ?』
『らしいな。発車していたから追い掛けて飛び乗ったと言っていた。本人は間に合ったつもりらしいぞ。』
どうも
『どうしよう……?』
『気付かない振りをしてさっさと教室に来い。絡まれたら面倒な事になる。』
確かに、と
しかし、
「月曜から頭が痛くなるなあ……。」
『全くね。今出来ることは、気に入られない様に塩対応を続けなさい、というくらいね。』
「それで、大丈夫なんですかね?」
『分からないわ。何を考えているか解らない男だもの。諦めて興味を無くすかもしれないし、意地でも関りを持とうと余計に絡んで来るかも知れないし、怒らせて暴れるかもしれないし……。』
「向こうの出方次第じゃ詰みじゃないですか……。」
「ゲッ……! 噂をすれば
逃げ場所を失った
『御愁傷様。』
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