第十八話 蠢く闇
Wer mit Ungeheuern kämpft, mag zusehn, dass er nicht dabei zum Ungeheuer wird. (怪物と戦う時は自らも怪物とならぬよう心せよ。)
Und wenn du lange in einen Abgrund blickst, blickt der Abgrund auch in dich hinein. (深淵を覗く時、深淵もまた
――フリードリヒ・ヴィルヘルム・ニーチェ『善悪の彼岸』より
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これは、覚醒剤の禁断症状が見せる幻覚なのだろうか。いや、確かに自分は
「おやおや、目を醒ましてしまいましたか、
聞き覚えのある声が闇の中から話し掛けてきた。姿は一切見えないが、
「し、
声の主が同僚の数学教師・
「てめえよくも
当然、
そんな彼の怨嗟の声に応える様に、暗闇の中で
「誤解しないでください、
「それは……あいつらに
「やれやれ、この期に及んでまだ
「まあ、今はもうどうでも良いですけれどね。向こうの『
「向こうの……セイトカイ……?」
「
厄介事を押し付けた、という意味では
ぼんやりと、
「まあ、
冥途の土産。――その言葉に
弓型に口角を上げていた
「だ、だからか……‼」
痛みと恐怖に震えながら、
「お前が
「まあ、そういう事になりますね。
「な、何故だ……? 何故
「その理由は至ってシンプルなものですよ。
「
「たった……たったそれだけでこんな……?」
「嫌なら、初めから覚醒剤に
そうだ、その通りだ。――
彼を悪の道へと誘ったあの少女の、その声、その仕草、そして何よりその容貌の何と甘美であった事か。それは己の全てを委ねても良いと思えてしまう程、悪魔的な魅力を備えていた。彼女の為なら破滅すら
「あ、悪魔……‼」
「う、うぎゃああああああっっ‼」
体中の穴という穴からありと
「闇に沈み、その命を捧げなさい……。
凄まじい苦悶の中にある
「ばで、れえとろ、さあたな! ばで、れえとろ、さあたな‼ ばで、れえとろ、さあたな! ばで、れえとろ、さあたな‼」
紫の
「では、さようなら、
紫の
彼を除き、唯
☾☾☾
そして、目の前を何気ない景色が過ぎ去っていくのも。
「今日は出ないんですか、
一日大事を取った昨日を除く、月火水の三日間、帰りの窓にはいつも
「
「沈黙は肯定、と取られても仕方が無いですよ、
三度の呼び掛けに根負けし観念したのか、
『
桜色の唇から漏れた
「それをお答えする前に、まず
「
『
「じゃあそれで良いですよ。
確かに
『そう……。』
素っ気ない返事をする彼女の横顔が西日に透けて
『まあ、何にせよ御苦労だったわね。
「あの結末で、ですか?」
『
向こうの
今は
「やっぱり、
『確定でしょうね。
そう、
「そろそろ話してくれませんか?」
「あの夜、
『そうね……。』
『前者の質問は
「全部は駄目ですか?」
『今はまだ、その方が良いわ。余りに急ぎ過ぎると、
「
『当然でしょう。今の
「字を書かせた時みたいに
『出来なくはないけれど
『何よ、にやついちゃって。気持ち悪いわね……。』
「済みません。でも、出来れば自分を好いている男の感情の機微としては当然だと思っていただき流して欲しかったですね。」
『流せないわよ。
「今まで窺ってたんですか?」
自分の顔色を窺ってあの態度なら、彼女の理不尽な身勝手さもまた紛れも無く本物だと、
『
「そりゃもう、存じ上げておりますが……。」
『だからこの状況が本当に癪なんだけれど、もっと腹が立つのは肝心な
「覚えていない……?」
「どういうことですか?」
『そのままの意味よ。何が起きたかという質問に答えると、記憶にないとしか言えない。記憶というものが意識だけに依存するものではないという事を現在進行形で思い知っているわ。』
勝手に巻き込んでおいてその因果を把握していない落ち度まで
「解りました。じゃあ、帰ったら話せる事だけ話してくださいね。」
『悪いわね……。』
また、
バスは一週間を終えた生徒たちを乗せ、碁盤上の街並を南下していく。
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