第十九章 小人の帝国

<ドワーフの洞窟>での滞在期間に、ワイはドワーフたちから小さなロボットを貰った。


ワイの意志で動くロボットで、男心をくすぐる。


やや小さ目なのが残念だが、それでも文句ない出来だ。


「そんなの貰って嬉しいのか?」


ダリアは怪訝そうな顔をしているが、嬉しいに決まっている。


さて、そんなワイとダリアは洞窟を抜けて<小人の帝国>の入り口までやって来た。


帝国は国をぐるりと一周背の高い壁で囲っていた。


小人族という種族柄なのか、敵に対する防衛が完璧な印象だ。


「凄いな。」


思わずワイは呟いてしまった。


ポカンと口を開けたまま隣でダリアも頷いた。


「お待たせしました勇者様。」


堅牢そうな門が開き、中から小人族の男性が顔を出した。


ワイ達の半分ほどしかない身長なのに、ワイ達の身長の倍程の高さの壁と門を作っているのだから驚きだ。


「この壁は私共の苦労の結晶なんです。どうしても他の種族よりも力で劣る私共は、一致団結して協力する性分なんです。」


ワイとダリアが感心したのにプティットゥが微笑む。


門をくぐると、街は活気で溢れていた。


ワイの背丈の半分程度の小人たちが、大きな声でお客を呼び込んでいた。


「力のない私共ですが、他の種族と違い知恵があります。その結果、街をここまで発展させることができました。帝王にお会いになるのですよね?案内いたします。」


小人の帝王は、いい人だった。


ワイらの話しを聞いてくれて、すんなりと仲間になってくれると言ってくれた。


<小人の短剣>を使うことで、小人族を呼び出せる。


エルフ族の見返りは木の実、ドワーフ族は肉だった。


小人族は今のところ、見返りの話がない。


「あの。見返りは?」


ワイの方から切り出した方がいいのか?と思って帝王に聞いてみた。


「私共小人族は、耳長さんやずんぐりむっくりさんのように何かの見返りを求めることはしません。どうぞ好きなだけお呼びくださいませ。」


すげーいい種族じゃん!


この帝国には、温泉があるらしいので、ワイとダリアは暫く滞在させてもらうことにした。



――りんご市。


ダリアが復旧作業を手伝ってくれたこともあり、街はかなり復旧していた。


市民のことを考えるならば街の復興が急務だ。


しかしこの街は今、それどころではない状況になっていた。


「ギルド長!こっちよ。」


オネェ受付が声をかけているのは、街のギルド長。


「全く厄介なことになったものだ。」


ギルド長がぶつくさ文句を言う。


街に、<神の村>からの使者がやって来たのだ。


「このタイミングで<神の村>からの使者ってことは…」


オネェ受付が言い、ギルド長が頷いた。


「間違いない。勇者関係のことだろう。」


実はりんご市には、何度か<神の使い>を名乗る<神の村>からの使者がやって来ていた。


勇者に関する伝説を各地に広めるのが表面上の名目。


その実は、人族全体に対しての動きの統一化が目的。


前回の魔族の全滅もその1つだった。


とはいえ、人族だっていやいや従っているわけではない。


要は利があるから従っているわけで、その利は実情を知っている全人族の願い、神殺しに繋がる。


りんご市のギルド長とオネェ受付は実情を知っている。


つまり、人族が偶然に神を創り出してしまい、その神によって人族は奴隷へと成り下がっていること。


そのために、人族は神を殺すことを密かな願いとしていることだ。


「人族こそこの地の支配者になるべき。という考えは理解できる。俺もそう思う。だが今はタイミングが悪い。」


ギルド長が言うように今はタイミングが最悪だった。


<神の使い>がりんご市に来る数分前に、<神の軍勢>が直々に街にやって来たところだった。


「家畜程度にしか見ていない私たちに何の用なのかしら?」


フン。とオネェ受付が鼻を鳴らす。


<神の軍勢>は基本、<神の村>の上層部たちとしか会わない。


それで十分だし、それ以上に人族に興味がないからだろう。


その神の言葉を伝えるための、<神の使い>なわけだし、今までも神の命令を人族はきちんと聞いていた。


「分からんが、これがいい予兆なわけがない。俺は神と会う。お前は使いを任せる。<神の軍勢>が来ていることをしっかりと伝えておけ。」


急ぎ足で2人は別々の部屋に向かって行った。



――神界。


「ゼウス様。なぜスクリュードライバーを人間のところへ向かわせたのですか?」


ジントニックが跪きながら訊ねる。


「私が彼を向かわせたことが不満ですか?今モスコミュールとジンバックとソルティドッグによる大掛かりな呪いが発動しようとしています。無論、この呪いが発動したら人族は滅びるでしょう。しかし私は人族を滅ぼしたくはないんですよ。分かりますか?」


微笑みながらゼウスが訊き返す。


「人族が、私達にとって都合よく動いてくれるコマだからですか?」


「えぇ。その通りです。私達の中には人族も魔族も全て滅ぼしてしまいたいという考えの持ち主もいます。もちろんその考えも1つの意見です。ですが、コマが使えるならばわざわざ殺すこともないでしょう。」


「そのためにスクリュードライバーが向かったというわけですか?」


ジントニックの問に、ゼウスはにこりと笑って答えた。


『…人族が私達に危害を加えず、今まで通り私達の言うことを聞くなら、今回のことを見過ごすおつもりなのね…』


ジントニックの考えを見抜いたように、最高神ゼウスは、その通りです。と言った。


ジントニックの背中に冷や汗が垂れ落ちる。


「人族は、私達を裏切って自分たちだけの世界を作ろうとしています。それでもお許しになるのでしょうか?」


心の中を見透かされたジントニックが、一番聞きたかったことを聞いた。


「そうですね。私にとって脅威なのは人族ではなく魔族です。人族は私たちの前に何にも出来なくなります。」


ジントニックはそこでハッとした。


「そのための呪いというわけですか?」


にこりと微笑まれた。


「歯向かえず、飼い殺しにされる表情はどんなものなのか、楽しみですね。」


言い方は穏やかだが、その微笑みは邪悪そのものだった。


ジントニックは冷や汗が止まらなかった。



――魔王城。


『ダリアは戻って来なかった…これが神の奴らに知られれば、ワシが奴らの要求を拒んだことになる…ダリアの命の保証はもう無いということか…カスミソウ…すまぬ。娘を守れないかもしれん…』


一人玉座で座りながらブッドレアは、かつて愛した人間、ダリアの母親でもあるカスミソウとの出会いを思い出していた。


平和な日々だった。


この世界に魔族が誕生したのは何千年以上も前の話だ。


エルフやドワーフ、小人に猫人や犬人、機械族などの別の種族がやって来ても平和な世界は変わらなかった。


遅れてやって来た人族は、魔族らの想像も及ばないような知能で、次々に魔族を虐殺していった。


魔法でもない見たこともないアイテムなどを使用して、住処をどんどん追われていく、魔族と異種族たち。


ブッドレアは全ての人族を恨んだ。


人族は何やら訳の分からないことを行って、神なる存在まで誕生させてしまった。


神は野に下った魔族をモンスターと称して、人族に討伐を命じた。


そして、<神の軍勢>との激しい戦いが繰り広げられた。


野に下った魔族達もブッドレアの味方として、戦争に参加した。


神と戦った配下達は全滅したが、<神の軍勢>も相当の痛手を被った。


ブッドレアは魔王城に隔離され、他の魔族もやって来なくなり、移行ずっと孤独となった。


いつしか、魔王ブッドレアの噂が独り歩きするようになった。


――コンコン。


久しく聞かない音がした。


<神の軍勢>との戦争から何百年以上も経っている。


――コンコン。


ドアをノックする音だと気づくのに、暫し時間がかかった。


だからだろうか?


「開けてくれませんか?ここにいるんでしょ?引きこもりでめんどくさがりの魔王!」


『引きこもりでめんどくさがりの魔王?ワシのことか?確かにめんどくさがりだが。』


「ここ!ここに献上品の食べ物を置いておくので、家畜を逃がしたりもうしないでくださいね!」


大声でわけのわからないことを言われた。


女は次の日もやって来てドアをノックしながら大声で叫んできた。


「こら魔王!献上品を受け取らなかったからって家畜を逃がしたりしないでちょうだい!私たちにとっては命みたいなものなんだから!」


『献上品?家畜を逃がす?何のことだ?』


次の日もその次の日も女はやって来て、献上品の食べ物を持ってきた。


そして、また家畜が逃げ出したと文句を言っていた。


しかしある日突然、ぱったりと女がやって来なくなった。


今まで孤独だったブッドレアにとって、女の声は孤独感を紛らわしてくれるものだった。


一度孤独から解放されると、再び孤独になるのが苦痛になった。


気になってソワソワしたブッドレアは、思いがけず城から外へ出ようとした。


足元に、何日分もの食べ物が置いてあった。


手紙が入っているものもあり、家畜を逃がさないでね!と書かれていた。


「ワシら魔族は食べ物を食わなくても生きていける種族が多い。」


そう呟きながら、果物を一口かじった。


何やら手作りの物もあった。


昔は配下のメイドや執事が、食事を用意してくれていたことをブッドレアは思い出した。


とうの昔に忘れていた感情が心の底から湧き上がってきた。


枯れたと思っていた涙が自然に零れ落ちる。


「覚悟ぉー!」


背後から聞き覚えのある声がする。


ガキン。


あの女が剣で攻撃してきたのだ。


しかし、通常の攻撃では魔王にダメージは与えられない。


剣は折れ、魔王には傷の1つもついていなかった。


「命を無駄にするな。お主たちではワシは殺せん。」


『これだから人族は嫌いだ。ワシら魔族を見かければすぐに殺そうとしてくる。』


くるりと背中を向けて城へ入ろうとすると、女が話しかけてきた。


「…でよ。」


「ん?」


よく聞き取れなかったブッドレアは思わず聞き返した。


「何で家畜を逃がすのよ…私たち一家は貧乏で、食べる物がなくて、もう生きていくお金もないのよ!あんたが家畜を逃がしたりなんかするからこうなるのよ!」


折れた剣で何度も叩いてくる。


「勘違いしているようだが、ワシは家畜を逃がしたりなんかしていない。この城から出ていない。」


信じて貰えるとは思っていない。思っていなかったのに、信じられない言葉が女から出た。


「そんなの…分かってるわよ…でも分かっててもこの気持ちをどこかにぶつけなきゃ私は私でいられそうにもないのよ!」


ガンガンと剣をぶつけてくる。


その剣を手で掴んでブッドレアが言う。


「お主ら人族がワシら魔族にしてきたことはもっと酷かっただろう?それが、自分の八つ当たり程度で他人を攻撃もするとは、どんなにつけあがった種族なことか!」


ブッドレアの鬼の形相に女は縮み上がる。


ブッドレアとしては、ちょっと怖がらせる程度だった。このまま自分の住む場所に帰ってくれればいいと思っていた。


家畜が逃げたせいで、食べていけない。そうだとしてもここにいれば人族全体から煙たがられる存在となることは確実だ。


「だがお主には恩がある。ワシには要らなかったが、食事を届けてくれた。その礼をやろう。」


そう言ってブッドレアは人族のお金をポイと地面に落とした。


時折やってくる、人族を返り討ちにした時のやつだ。


「手作りのパイ。あれはうまかったぞ。あれをワシに毎日届けてくれるならば、その対価をワシが払ってやってもいい。」


しかし女はお金を拾わなかった。


「もう遅いのよ…」


そう呟く。


「私の家族はとっくにみんな死んじゃってるから。モンスターに襲われたの。だからってあなた達魔族を攻めているわけじゃないわ。私の家族はモンスターを倒せばお金が手に入るって言われて返り討ちに遭っただけだから。」


『そうか。こやつもたった1人で孤独で生きていたのか』


「でもね。もう限界なんだよね。1人でいることもさ、必死に生きることも。だから魔王であるあなたに攻撃を仕掛けて返り討ちに遭って死のうって思ってたんだけど、あなたさっき私の手料理食べて泣いてたから…ちょっとびっくりしちゃった。」


「ん?ということは、この食事の献上品は全てワシを城からおびき出すためのエサということか?」


「そゆこと。」


にひひ。と女が悪戯っぽく微笑んだ。


「でもね。あなたの涙を見てたらなんか本音が言いたくなっちゃってさ。家畜を逃がしたのはあなたじゃないって分かってたけど、なんか八つ当たりしちゃったんだよね。ごめんね。」


舌をちょろっと出して、悪戯っぽくウインクしながら女が謝った。


「お主…ワシは魔族の王だぞ?そのワシに向かってごめんねとはなんだ。」


「いいじゃない。ねぇそうだ。ちょっとお城の中見せてよ。私どうせもう行くところないし、ここに住んでもいいかな?」


そんなことを言いながら女――カスミソウは魔王城に住みついた。


魔王ブッドレアが唯一心を開いた人族だった。


孤独を感じていた同士の2人が、心の底から語り合い、ひかれあうのに時間も理由も要らなかった。


やがて、2人の間に子供ができた。


名前はダリアと名付けた。


人間と魔族のハーフとして生きるダリアには、人間としても魔族としてもどちらとしても生きられるように教育しようとしていた。


そんな矢先だった。


年に1度、カスミソウは生まれ故郷に墓参りに帰郷していた。


どこからか情報が漏れたのだろう。


カスミソウが魔王と夫婦になっていると。


カスミソウは血だらけになって帰って来た。


魔族に恨みを持つ者、魔王を倒したいと思っている者にとっては、カスミソウは敵でしかなかったのだ。


「あなた…ごめんなさいね…人族の悪意に私は気が付けなかったわ。ダリアのことをお願いしますね。できることなら…人族を恨まないで…」


ダリアはまだ幼い。この記憶はない。


カスミソウはブッドレアの手の中で息を引き取った。


城の一部にカスミソウを埋葬し、ブッドレアは毎日カスミソウのことを思っていた。


ダリアがいる日々は大変だったが、孤独だったあの頃とはまた違っていた。


日々充実しており、ブッドレアにとってはダリアこそが全てだった。


日に日に成長するダリアは、どんどんカスミソウに似てきた。


「お休み中悪いね。」


ひょうひょうとした声がして、物思いからブッドレアは冷めた。


カリモーチョだ。


「交渉は決裂だ。あんたの娘は生かさないしあんたも生かさない。ここで死んでもらう。」


「お主らがワシら魔族を、ワシの大事な娘の命を奪うというのならば、ワシも命をかけて戦わねばなるまい!」


大きな斧を振り下ろした。


城に轟音が鳴り響いた。



カポーン。


いかにもな音が心地いい。


異世界に来て温泉に入れるなんて思わなかった。


しかも小人族はなぜかワイらが温泉に入ると言ったら出ていって貸切状態。


勇者特権かな?


「タロータロー。背中流して欲しいのだ。」


は?何でダリアがいるんだよ!


「結婚すると言ったら一緒の風呂場に案内されたのだ。」


ぺったんこツルツルの裸をこちらに見せながら、笑顔で言われても。


「何を恥ずかしがっているのだ?ダリアの裸なら前に見たではないか。」


「そうだけど、そういうものなの。」


と言っておく。


女性経験がないとかバレたら恥ずかしいしね。


「そういえばタローは、胸が大きい女が好みだったな。ダリアももう少し胸が大きければタローに好かれたか?」


キョトンと聞いてくるダリアにはぁ?と言ってしまった。


「何言ってるんだ?好きになるのに胸の大きさは関係ないだろ?」


「でもタローは、胸が大きい人のことをチラチラ見ているではないか!」


う。なぜそれを知っている。


「それはな、男の本能みたいなもんだ。」


誤魔化してみた。


「本能か!それならしょうがないのだ。」


わかったのかよ。


「それはそうと、本当に一緒に入るのか?」


もう洗い場で髪の毛を洗っているダリアに聞くのも変だが一応は確認してみる。


「結婚したら一緒に入るのではないのか?チーゼルはそう言っていたぞ。」


どういう理屈だよ。うちの親は一緒に入ってねぇし、そんなの想像したくもないよ!


「ダリアのパパとママも一緒に入っていたらしいのだ。」


「そういえば、ダリアって生まれてから何百年も経ってるんだよな?母親の顔とかって覚えてるの?」


ふとした疑問だった。


母親が人族であるとは聞いていた。


だから当然もうこの世にはいないわけだけど。


「んー。ダリアが小さい頃に死んじゃったらしいからダリアは顔をよく知らないのだ。でもパパが言うには、ダリアにそっくりだったらしい。」


てことは、普通に可愛い顔してたんだな。


どういういきさつで2人が知り合って結婚したのかは知らないけど、そうか。ダリアを産んだことがきっかけで死んじゃったのかな?


人族が魔族を産むわけだから、きっと普段とは違っただろうし。


「でもな。ダリアも子供を産んでみたいのだ!タローとの子供!どうだ?」


ザボーンと浴槽に飛び込んで来た。


顔が近いよ。


「飛び込むんじゃないよ。」


そう注意した。


どうだと言われてもワイには実感が沸かない。


自分が子供を育てる?まだ子供の自分が?


「考えておくよ。」


ずるいな。


逃げるようにそう答えた。


それなのにダリアは笑顔で、嬉しいのだ!と言ってくれた。


「もう出るのだー!」


早くね?もう?今入ったばっかだよね?


たたたー。と走りながら脱衣所に向かって行った。


暫くしてからワイも浴槽を出る。


着替えると、ちょっとびっくりする出来事があった。


ワイとダリアにしか懐かないティムが、小人族を背中に乗せている!


「え?俺も乗せて貰ったことないのに!」


思わず口に出してしまった。


「タロー!ティムはな。小人族が気に入ったみたいなのだ。」


たたた。とダリアが駆け寄って来る。


「なぁティム。俺のことも背中に乗せてくれよー。」


そう頼むと、背中に乗っていた小人族が降りてアドバイスをくれた。


「勇者様。乗るという考えがダメなのです。一緒に空を飛ぶようなイメージだとドラゴンは背中に乗せてくれますよ。」


言ってることが分からんな。どっちも変わらなくないか?


しかしダリアには理解できたようだ。


「なるほどなのだ!他力本願じゃなくて、自分も頑張るからね!という意思表示が必要なのだ!」


ヒョイとティムの背中に乗るダリア。


ティムは嬉しそうに空高く舞い上がった。


「スゲーな。」


ワイの心の底からの言葉を、隣で一緒に見上げていた小人族が聞いて頷いた。


「ダリア様は、やはりブッドレア様の娘ですね。勇者様が魔族の力になってくれるというのでしたら…」


ん?なんかこの小人族頬を赤く染めてるぞ。


急にワイの手を握って来た。


サッとその手を離された。


え?なにこれ?


「私共小人族は潔癖な種族で、基本同族としか肌を触れ合いません。ですが、勇者様になら私の肌を触れても構いません。ですから、旅のお供をさせてくださいませんか?」


頬を染めながら言う。


「もちろんダリア様との関係を邪魔するような無粋な真似はしません。ただ、少しの間だけ勇者様のお傍にいたいのです。」


何をどう気に入られたのか。


この小人族の女性、タイニーはワイとダリアと一緒に冒険がしたいと言ってきた。


ワイとしては問題ない。が、常にワイの懐に入るという行動はどうなんだ?


「一度触れられれば何度触れられても同じです。」


とタイニーは言うが、小さくても女性。ワイとしてはソワソワしてしまう。


「タロータロー!すっごく高く飛べたのだ。」


ダリアが笑顔でこっちに走ってくる。


ま、この笑顔が見れたのも、タイニーがティムの背中に乗れるアドバイスをくれたんだし。いっか。


「あ!タロー!何なのだその女は!」


目ざとくダリアがタイニーを見つける。


「ダリア様。これから私も旅のお供をさせていただきます。私は勇者様の懐で敵のスキをついて攻撃いたしますので、よろしくお願いします。」


タイニーが礼儀正しく言うが、ダリアは聞く耳を持たない。


「許さないのだ!そこから出るのだ!絶対にダメなのだ!タローに触れていいのはダリアだけなのだ!」


「ふふふ。いくらダリア様と言えど、そこまで横暴なことは認められませんわ。」


「そうか。それならば仕方ないのだ。ダリアの力でこの帝国を滅ぼすのだ。」


ダリアが肩をワナワナと震わせている。


ぎょっとして他の小人族がワイに止めるように言ってきた。


「お願いします勇者様。ダリア様を止めてください。」


えぇ。そんなこと言われても。


そもそもタイニーがダリアの言うこと聞けば良かったんじゃ?


そう思ってタイニーを見ると、そっぽ向かれてしまった。


これ、確信犯ってやつ?


「ダリア!ちょっと待て。ここを滅ぼすのはやめよう。な?」


「何でなのだ?タローはダリアと結婚するんじゃなかったのか?これは立派な浮気なのだ!」


パチィーン。


頬をビンタされた。


力強すぎ。


ワイは吹っ飛ばされた。


「タローのバカ!」


そう叫んだあとダリアは、大好きなのだ!と言って舌をチロっと出してウインクしてきた。


女ってよく分かんないな。


まぁでもしょうがないか。


勇者に転生したワイはどうやら魔王の娘に好かれて、でもワイの方がもっと魔王の娘のことを好いているようだしな。


この笑顔があれば今はいいかもな。


ティムがぐるると鳴いて、ワイに頬ずりしてきた。


鱗に覆われたその触感は、気持ちよくないがそっと撫でてやる。


今はこの日常を大切にしよう。

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