第十八章 ドワーフの洞窟の探検

一言で言えば、ドワーフ族は技術力に特化した種族だった。


見たこともない機械が洞窟のあちこちに転がっていた。


元々平地だったこの地に、土や石を集めて固めて巨大な掘削機で洞窟を作ったそうだ。


洞窟を迷路のようにたくさんの分かれ道を作って、そこを街道とし、商業区や居住区などしっかりと分けられていた。


壁にはこれまた見たことない、勝手に光るクリスマスのようなものが掛けられており、灯りを灯している。


「勇者、こっちダ。」


カタコトの喋り方をしているのは、ドワーフ族の案内人だ。


トラガスと名乗っていた。


「広くて迷子になりそうなのだ。」


ダリアが感心して言う。


ほんと。ダリアの言う通りだ。広すぎて迷子になりそうだ。


目印とかそういうものもないから余計に分かりにくい。


「外敵からノ攻撃を防ぐためニ、迷路ノようニしていル。」


律儀にトラガスが教えてくれた。


「そういえば、何の問答もなく案内してくれてありがとうございます。」


洞窟の入り口に着いたらトラガスが待っていた。


そしてすぐに族長に会わせるからついてこいと言われたのだ。


「気にするナ。長耳モ仲間になったノダロ?それなら我々モ盟を結ぶ必要ガある。」


長耳?あぁ。エルフのことか。


長い道を右へ左へくねくねと歩く。


正直道は覚えられない。


「やっぱりなのだ!ダリアは前にここに来たことがあるのだ。パパと遊びに来た!」


辺りをキョロキョロ見回していたダリアが突然ビックリ発言をした。


なんですと?やっぱり異種族は魔族を好いているのか。


人族が嫌われている理由って何なんだろ?


でもエルフの族長に質問はするなみたいなこと言われたしな。


自分の目で確かめろってことか?


「思い出されたましたカ、ダリア様。あなた様たちと再び共ニ歩むことガ出来て嬉しいト、我が族長モ申しておりまス。」


トラガスが深々とお辞儀をした。


「もう100年以上も前のことだからすっかり忘れてたのだ。」


はい?ダリアって何歳なの?子供はめっちゃガキなのにワイより年上なの?


思わずダリアの体を下から上へと嘗め回すように見てしまった。


「なんかタローの視線がエッチなのだ。」


胸と股を両手で隠すして片足をくの字に折り曲げているが、やっぱりそういう目では見れないな。


「なっ!何なのだタローは!さっきから失礼な空気がダリアに伝わってくるのだ!」


んえぇ…


そんなこと言われてもなぁ、本当のことだし。


「お取込みのところ申し訳ナイ、勇者ヨ。我がドワーフ族族長ダ。話は聞いていル。我らドワーフ族は勇者とダリア様の力になることヲ約束スル。」


ドワーフ族の中では巨体なんだろうと思わせる体格の族長が、軽く頭を下げた。


ワイとダリアもお礼を言って頭を下げた。


「これヲ。」


トラガスがゴツいベルトを渡してきた。


見た目からして重そうだし、絶対に装着したくないんだが…


受け取るとびっくり。全然重くない!


「すげっ。軽い。」


思わず呟いてしまった。


「ワレワレドワーフ族は、他の種族よりも体格に劣ル。それを補うためニ技術力が進歩していル。使い方は長耳のミサンガと同じダ。見返りハおいしい肉がイイ。」


族長が言う。


いつも強面なイメージのドワーフだが、表情が穏やかになった気がする。


それにしても、ミサンガと使い方が一緒ということは、ベルトに向かって呼びかけるわけか。なんかシュールな絵面になりそうだ。


「あれ?そういえばエルフのところでは俺の血を使ったんですけど、これはそんなことしなくていいんですか?」


儀式だとかなんとか言ってワイの血を滲込ませたのが、このミサンガだったはず。


「ワレワレの技術力でハ、そんな無駄なことハしなくても平気なようニなっていル。」


技術力万歳!カルドンが見たら欲しがりそうなベルトを装着したワイは、この洞窟をもう少し見て回りたくなった。


こういう機械に囲まれた空間って、男心をくすぐる気がする。


「ダリアには何がいいのかさっぱりなのだ。」


「ダリアはまだ子供だな。いいか?例えばあそこから水が落ちてきてるだろ?あの水を動力にして巨大な歯車が回る。その歯車が他の歯車を回して色んな機械が動いている。設置させる歯車を変えることで、動かす機械も変えられるんだぞ?」


ワイは目の前の古典的だが魅力的なからくりを指差して、興奮気味に説明した。


「さすがハ勇者。ワレワレの技術力を分かってイル。」


族長が喜び、トラガスが色んな所を案内してくれると言ってくれた。


ワイには想像もつかないような技術がたくさんあった。


水に入れるだけで電気が溜まる機械、ボタン1つでマイナスから高温にまでなる機械、更には…


「もし戦争が起きた時には、ワレワレはこの機械を使うつもりダ。」


と紹介されたのは、男子の憧れ!巨大ロボットだった。


「もちろん、空も飛べル。」


素晴らしい!


「なぁなぁタロー。機械なんか見て何が面白いのだ?」


「ダリアよ。男のロマンが分からんのか?この巨大ロボットに乗って動かしてみたいとか、色々あるボタンやレバーを引いてみたいとか思うのが男というものだ。」


得意気な顔をして言ってみた。


ダリアは興味なさそうに、ふーん。と返事をしていたが、仕方あるまい。


男と女の違いってやつだ。


「3日くれれバ、勇者専用のロボットヲ作れるゾ。」


マジ?ぜひ!


ワイは何だかドワーフ族と仲良くなれる気がする。


「ダリアのパパも確か、ドワーフ族のロボットに夢中になっていたのだ。」


「そうでス。魔王城全てがワレワレが作ったロボットになっていまス。」


トラガスが深々と頭を下げた。


「本当かよ!ダリア!ぜひ魔王城に住もう!」


興奮したワイはダリアの両手を握る。


「タロー!ダリアは嬉しいのだ。」


感動したダリアが抱き着いてくる。


ワイも嬉しいよ。


機械の城だぞ?きっとビームとか撃てるんだろうな。


敵が攻めてきたらロボットに変身するんだろうな。


ワクワクしながらワイは3日間を洞窟で過ごした。



太郎が町を出てからかなりの日にちが経っている。


カルドン達にはまだ結論が出ていなかった。


疑問に思っているのは、人族が神殺しをしたい理由が不明な点、神が人族に危害を与える点の2つだった。


「仮に神がいるとして、魔族と敵対しているのであればその魔族を滅ぼしたいという気持ちは理解できる。」


カルドンが言うと全員が頷いた。


「だが、俺たち人族に危害を加える意味が分からん。俺たち人族も滅ぼしたいという気持ちならば、そもそも勇者に魔族討伐の指示を出したりはしないだろう?」


カルドンがみんなを見渡す。


その言葉を受けてローゼルが続ける。


「んで、仮に<神の軍勢>と名乗った奴らが魔族だった場合。同族である魔族討伐を依頼する意味が分かんない。」


「そして僕たち人族が、神殺しをしたい理由が不明…」


とヒゴタイが続けた。


「分からないことが多すぎですな。」


ギルド長が言う。


「逆に分かっていることって何なのでしょうか?」


グラジオラスが皆に問う。


「そうだな。まずこの地に最初に誕生したのは魔族だということ。そして人族が魔族を追いやって栄華を極めた。勇者という存在が魔族を滅ぼすと言い伝えられていること。同時に勇者という存在が神殺しをしてくれるといことだけだ。」


カルドンは自分で分かっていることだけを挙げながらも、意味が分からないと付け加える。


「これってさ、勇者が魔族も神も殺すってことでしょ?」


ふと何かに気づいたローゼルが言う。


「んで、神は勇者に魔族を殺させたい。ウチら人族は神を殺させたい。勇者って存在は、神も魔族も殺せる存在だから、ウチら人族的には神を殺してほしいってことなんじゃない?で、神はそのことに気づいたから、ウチら人間に攻撃を仕掛けてるとか。」


「確かに辻褄が合っているな。となると俺ら人族にとって魔族は敵ではないということになるな。」


これにはギルド長も驚いた。


「もしもですよ?もしもそれが本当のことだとしたら、我々は物凄いことをやるということになりますよ?存在するかどうかすら分からない神を殺すなんて、絶対に何にも起きないはずがありません。必ず酬いを受けることになりますよ?」


震えながらギルド長が言う。


「憶測だが、俺たち人族は手助けをするだけなんだろう。報いは勇者に受けさせるという寸法なんじゃないか?」


「だとしたら、僕たちは魔族を倒してもらおうとしていた以上に、太郎ちゃんを裏切っていることになっちゃうよ…」


カルドンの言葉にヒゴタイが悲しそうに言う。


「そう。そしてチーゼルはこのことを知っていた。俺に太郎のことを頼んできたからな。」


そう言ってカルドンはチーゼルとのやり取りを話した。



月のない夜――


すもも村でカルドンはチーゼルに呼び出された。


「こんな時間にどうした?」


「悪いわねぇ。あなたには話しておこうと思ってね。私たち人族の願いについて。」


そう前置きをして、チーゼルはカルドンに人族の願いについて語って聞かせた。


その内容は、人族の願いは勇者を使って神殺しをしてもらうというものだった。


「よくわからんな。神とは?」


「それはそのうち分かることよ。それよりも大事なのはこれから。私とスカーレットは勇者に近づいて神殺しをさせるという依頼をこの村で受けていたの。で、色々調べている内に、神の村へ行けばそのターゲットである神がいると分かったわ。」


そう言ってチーゼルは、ふぅ。と一息ついた。


「本当はね。勇者に肩入れするなんてするつもりなかったんだけどね。あなたも知ってる通り勇者ってほらいい人じゃない?私わね、勇者に神殺しなんてして欲しくないのよ。もちろん、伝承の通りの魔族を滅ぼすなんてこともして欲しくないわ。」


このまま面白おかしく生きて欲しい。と最後に付け加えた。


「なるほど。さすがに本人には言えないってことか。」


カルドンも頷いた。


「その通りよ。死ぬつもりはないけれど、こういう仕事をしている以上何があるかなんて分からないからね。とりあえずあなたに共有したの。私に何かがあったら太郎のことよろしく頼むわね。」


ふわーあ。とあくびをしてチーゼルは部屋に戻って行った。


『…太郎に魔族を滅ぼしてもらうことが俺たちの目的だった。だが、あの純粋な目を見ていると、そういった定めを押し付けるのが申し訳なくなってくるな。その上神殺しか…』


カルドンは、やれやれと首を左右に振る。


「どこまでも波乱万丈な人生を送るのだな…太郎よ…君のために俺が出来ることはなんだろうか…」


月のない夜空をカルドンが見上げて呟く。



――神界。


神が住む世界。


何人も立ち入ることができない領域。


最高神ゼウスは1人、ほくそ笑む。


自分の計画が順調に進んでいることが分かっているからだ。


「モスコミュール。あなたの力で人族を全員呪いなさい。ジンバックの力を使うといいでしょう。」


<怨恨>のモスコミュールは、ゼウスに言われて<食欲>のジンバックの元へ向かった。


「いよいよ僕たち<本能>チームが動き出す時が来たってわけだ。」


ニコニコしながらジンバックがモスコミュールに言う。


「念のために、ソルティドッグの儀式をしてから力を使おうと思う。」


そう、モスコミュールが言い、<雌伏>のソルティドッグの元へ向かう。


「なるほどね。いいわよ。同じ<本能>チームとして、アタシ達が他のチームよりも上であることを分からせましょ。」


話を聞いてソルティドッグも了承した。


「まずは、ソルティドッグの儀式の力で呪いのかかりやすさを上昇させる。僕の効果範囲を広める力で呪いを人族全域にする。そして、モスコミュール、君の呪いの力で人族を呪う。これでいいんだね?」


ジンバックが両手を頭の後ろで組みながらモスコミュールを見る。


モスコミュールは頷いて集中し始めた。


<呪い>の力を使う準備をしている。


「どんな呪いを使うつもりなのかしら?」


ソルティドッグが儀式の準備をしながらジンバックに質問したが、その内容はジンバックも知らされていない。


肩をすくめて返事をした。


「神殺しの呪いをかけろとゼウス様より言われた。少しでも逆らう意思を見せたら、全人族を殺す呪いをかけよと。」


集中しながらもモスコミュールが言う。


「それを聞いたらアタシもしっかりと儀式を行わないとね。」


ソルティドッグが言い、ジンバックも僕も。とウキウキ張り切り始めた。


人族を呪う呪いが発動するまで、時間がなかった。


背筋がゾクゾクするような不気味な風が、色んな町に吹いた。

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