第十章 脅威のミニブルードラゴン
「青い竜とはどういうことだ?」
カルドンが背中越しに声をかけてくる。
アヤメとローゼルがこちらを見たようで、息をのんだ声が聞こえる。
「こいつは…<ミニブルードラゴン>だ…」
カルドンも絶句する。
<ブルードラゴン>ではないが、それに相当する脅威度を誇るらしい。
「<ブルードラゴン>と比べてどれ程強いのかは知らんが、今の我々で倒せるモンスターじゃないだろう。」
とカルドンが説明してくれたが、この脅威をどう排除したらいいのだ?
「あら、小さなドラゴン?」
ヒゴタイを助けたチーゼルがやって来た。
ちらりと後ろを見ると蜘蛛はまだ倒されていない。とりあえず救出だけしたというところか。
「前にレモンバーム海岸で<ミニレッドドラゴン>と戦ったことがあるわ。かなり厄介だったわよ。正に火を操る魔物そのもの。強力なパーティー数名で挑んでやっと倒せたレベル。青は確か…」
チーゼルが考えるとカルドンがそれに応えた。
「水だ。」
「そうそう。水を操るわ。」
どゆこと?色によって違う能力ってこと?
「悪いけど、太郎とカルドン援護してちょうだい。アヤメはグラジオラスとヒゴタイを守ってて。ローゼル、バックアップをお願い。」
チーゼルが短く指示を出す。
ワイは戦いなんて出来ないけど?
カルドンと顔を見合わせる。
カルドンも後方から口を出すだけで滅多に戦わない。
「囮くらいにはなれるだろ。」
そう言ってカルドンも走り出した。
<ミニブルードラゴン>はワイら3人に意識を集中したようだ。
とりあえず、グラジオラスとアヤメからは意識を外すことに成功した。
「まずは蜘蛛と同じ位置に誘導するわ。このまま挟み撃ちだと不利よ。」
チーゼルの指示通り、じりじりと移動しながら<ミニブルードラゴン>を<ラベンダー蜘蛛>の近くにまで誘導する。
「む。ドラゴンか?」
ダリアがそれに気付いた。
「まだ蜘蛛も倒せてないわよ?」
スカーレットがダリアの隣で慌てたように言う。
「でもこいつら私たちを逃がすつもりはなさそうよ?」
チーゼルが歯噛みする。
もちろんアイテムを使えば逃げれる。
だが、ワイらの目的はここら一帯のモンスターを減らして楽に進むこと。
姿を隠すアイテムなどは、戦いにおいては有効だが、仲間も見えなくなるため、移動には不便だった。
「ドラゴンを足止めしてちょうだい!とりあえず、蜘蛛だけでも倒しておくわよ!」
チーゼルが走りながら言い、ヒゴタイが<サンドウォール>で<ブルードラゴン>に目くらましをかける。
更にワイとカルドンで無駄かもしれないけれど、ロープで縛ってみた。
ロープの端と端をダリアの怪力で地面に杭を打って固定した。
「これで多少は時間が稼げるはずだ。」
カルドンが向こうで蜘蛛と戦っているチーゼルに言う。
ありがとね~。という返事が聞こえてきた。
「さて。俺たちはこのドラゴンを警戒しつつチーゼル達を援護するか。」
「ダリアは蜘蛛を倒してくるのだ!」
カルドンが言った後すぐにダリアは走り出してしまった。
蜘蛛はかなり厄介だった。
大きなハサミは硬く、ほとんどの攻撃を寄せ付けない。
顎の牙と尻尾の毒には警戒しなければならない上に、糸という飛び道具まである。
実際、何回もスカーレットやチーゼルが糸に捕まっている。
「ふむ。糸自体には攻撃性はないのか。他の攻撃を食らうくらいなら糸に捕まった方がマシということか。」
カルドンが冷静に分析する。
なるほどね。そういう戦い方もあるのか。
「ウチが援護するよ。」
ローゼルが蜘蛛に向かって弓矢を放つ。
「僕は念のためもう一度<サンドウォール>をかけておくね。」
ヒゴタイがもう一度魔法をかけた。
<ミニブルードラゴン>が身動きを取れなくなっていることをしっかりと確認してから、ワイたちは蜘蛛へと意識を集中した。
●
「ゼウス様。私の息のかかった者を2名動かしました。じきに勇者に接触すると思われます。そのまま村へ誘導しつつ魔族討伐を促してよろしいでしょうか?」
<色欲のジントニック>が訊ねると<最高神ゼウス>は1つ頷いた。
「キティの情報共有も後ほど行います。カリモーチョが扇動を担当してくれるそうなので、その後すぐにキティによる情報共有を行いましょう。これで勇者はここに来るはずです。上手く行けば魔族の敵となってくれるはずです。」
その言葉を聞いたジントニックはその場を後にした。
「ジントニック。君の息のかかった者が動き出したと聞いたよ。勇者と接触する前に私の力で勇者に情報を与えるから。」
<真理のキティ>が<色欲のジントニック>に言う。
「えぇ。シャンディガフの人形に記憶を与えて勇者と接触するようにしたわ。カリモーチョはどこかしら?」
「そのシャンディーガフのところだよ。人形を使って扇動するんだって。人形はあくまでも人形だから情報がないと動かないのに。」
やれやれとキティが首を振る。
「そのために私の力が必要なんじゃないかしら?」
ジントニックが少し考えながら言う。
それを聞いたキティもハッとした顔をした。
「そういうことか。カリモーチョめ。えげつないことを考える…」
キティの言葉を聞きながらジントニックは、<傲慢とシャンディガフ>のところへ向かった。
シャンディガフは洞窟の中にいた。
「来た来た。ジントニック、あんたを探しに行こうとしてたんだ。ジントニックとシャンディガフが勇者にちょっかいを出すと聞いてさ、ボクのナイスな扇動方法を思いついたのさ。」
「ちょっかいではない。ただの接触だ。」
ニヤニヤするカリモーチョにシャンディガフが間違いを正した。
「うんまぁ。どっちでもいいんだけどさ。シャンディガフ、あんたの<コピー>の力で村の人間のコピーを作って欲しいんだ。それをジントニックの<記憶改ざん>の力で情報を与えて人形から人間に変えて欲しいんだ。こうして村人として勇者に接触させるんだろう?」
ヘラヘラしているが、さすがは神の軍勢。
シャンディガフとジントニックのやったことを的確に当てた。
「俺が作れるのはあくまでもコピー。生命体をコピーすることはできないからな。だがそこにジントニックの力で記憶を注入すれば、これまでこうして生きていたという間違った情報を与えることで、生命体でないはずのコピーが動き出す。」
「でもね。それ凄く大変なのよ?心臓や脳とか様々な体の器官にそれぞれ役割としての記憶を与えないといけないから。」
やれやれとジントニックが言う。
「でも、ジントニック。あんたなら可能だろ?それぞれの臓器などの器官を持ったコピー人形を作ることも、シャンディガフ、あんたなら可能なはずだ。そしてボクの力でその人形を<変身>させる。」
ニヤリとカリモーチョがほくそ笑む。
シャンディガフは、そういうことか。とカリモーチョの考えを読む。
一方のジントニックは、やはりね。と心の中で確信した。
「人間はボク達神の供物でしかない!なのにボク達神に逆らおうとしているとオペレーターが言ってた。供物は供物らしくさせなきゃね。」
カリモーチョは、不敵な笑みを浮かべた。
●
<ラベンダー蜘蛛>は巨大の割に動きが速かった。
カシャカシャと両手のハサミを鳴らしているのは、威嚇行為だろう。
さっきからダリアとチーゼルの打撃が決まっている。
少なからずダメージがあり、怒りを露にしているということか。
「ダメね。皮が硬すぎて剣が通らないわ。」
スカーレットがワイの隣に来て呟く。
「私の剣でも無理です。」
アヤメも隣に来て言う。
「どれ。」
アヤメの言葉を聞いたスカーレットが魔法を発動する。
「さすがです。魔法剣士さん。」
スカーレットの魔法を見てアヤメが褒める。
スカーレットは、<風の刃>という魔法で蜘蛛のハサミを切断していた。
「うむ。俺がグラジオラスに次に覚えて欲しい魔法があれだ。」
後ろでカルドンがグラジオラスに言っている。
「でもこの魔法ね。燃費悪いのよ。」
スカーレットが疲れた声で言っている。かなり精神力だか魔力だかを使うということか。
「上出来よー!」
チーゼルが蜘蛛の横から飛び出してパンチを浴びせる。
蜘蛛の巨体が揺らぐ。
「アヤメ!手を貸すのだ。」
ダリアが走り出し、アヤメもはい。と返事をして駆け出した。
転ばせるつもりか!
「太郎。君に魔法は使えないかもしれないけど、剣も扱えないかもしれないけど、こういう戦い方だってできるのよ?これ持って。」
スカーレットがワイにワイなりの戦い方を教えてくれる。
ワイはナイフを握ってダリアとアヤメが蜘蛛の足を狙って攻撃している様を見ていた。
「いい?敵が倒れる位置を予想して先回りしておく。狙うべき場所は頭部よ。どんなモンスターでも頭は弱点のはずだから。」
つまり、倒れる位置を予測し、更に倒れた時に頭があるであろう場所へ先回りをしておくということか。
「そして大事なのは常に警戒すること。いつでも動けるように膝を軽く曲げて重心を落とす。かかとを軽く上げてつま先で立つイメージよ。」
なるほど。戦場ではコンマ何秒かが生死の境目。これが戦いに明け暮れたスカーレットとチーゼルの知識。
非力で魔法が使えないワイでも戦闘の役に立てる方法。
「倒れるわよ。」
ダリアのチーゼルの怪力パンチに加えて、アヤメが足元を切る。
蜘蛛がワイの方に倒れてくる。
ワイが予測した位置からはズレていたけれど、蜘蛛は見事に倒れた。
膝を曲げて重心を下げ、かかとを浮かせた状態だったワイは、普段より素早く蜘蛛の頭部付近へと到達する。
――サクッ。
大根とかに包丁を刺すのと同じような感覚が腕に伝わる。
「得体の知れない敵の場合は攻撃したら一旦退くか、立て続けに攻撃して留めを刺すかどっちかよ!」
そう言ってスカーレットがワイの横から剣を真っ直ぐに突き刺している。
蜘蛛はまだ生きていた。顎の牙でワイとスカーレットを攻撃してこようとする。
ワイは避けようとして転んでしりもちを着いてしまった。
「わわわ…」
声にならない声が口を衝いて出てくる。
「上出来よーん。」
チーゼルが蜘蛛の腹の上に乗り、ローゼルの矢を槍のように構えて突き刺した。
何とか蜘蛛を倒した。
何も出来なかった…やっぱりワイはこのパーティーの足手まといなんだろうか?
「太郎のナイフがなければ倒せなかったかもしれないわ。」
チーゼルが褒めてくれた。それに、と続ける。
「問題のモンスターが残ってるわ。」
<ミニブルードラゴン>だ。
ちょうどヒゴタイの砂の壁からその体を現した。
ロープは切られているようだ。
「あいつを足止めしたのも太郎よ。しっかりと役に立っていることを自覚なさい。」
チーゼルには敵わない。慰められながら激励されてしまう。
「グゴォー!」
<ミニブルードラゴン>が吠えた。
「耳を塞いで!」
スカーレットが注意したが遅かった。
ドラゴンの咆哮には体を硬直させる効果がある。
物語の鉄則だったのに。
ビリビリと咆哮が体を走るような感覚を感じる。
体が動かない。
「全身に頭でしっかりと命じて!動け!と。命じながら神経を集中して。」
チーゼルがみんなに言う。チーゼルとスカーレットは流石だ。咆哮を防いでいた。
ワイは、右手の親指に意識を集中させた。
『動け!』
頭の中で命じてみた。
命じながら親指に神経を集中して必死に動かそうとする。
ワイの視線はドラゴンから離せない。
「咆哮は訓練でどうこうなるものじゃないわ。咄嗟に耳を塞ぐしか対応方法がないの。」
スカーレットがみんなの体に触れて、新しい刺激を与えているのが目の端に映る。
ドラゴンはチーゼルを視線で追っていた。
――ピクリ。
動いた!集中することで咆哮の硬直から脱出できた。
しかし時間にして数十秒から1分。戦闘中においては命取りになる時間だ。
「太郎は自分で解けたのね。よかったわ。」
ポンと肩に手を置かれた。
その手をそっと握る。
「!」
驚いたスカーレットが手を引っ込める。
ワイ自身も驚く。何で自分はこんな行動を取ったのか、自分で自分が分からない。
体が硬直していた短い時間に、あれこれと考えが整理できたからか?さっき戦闘で役に立って自信がついたからか?
「ありがと。」
頬を染めながらスカーレットが小声で言う。
そのままドラゴンに向かって行ってしまった。
「そういうことは、戦いの後にするものだ。」
カルドンに言われてしまった。見られていたか。
「ま。他の者は気づいていないようだがな。」
ニヤリと悪戯っぽくカルドンが笑った。
「こんな時になんだが太郎。グラジオラスのことどう思っている?」
どうって。好きかどうかってこと?
声は可愛いけど見た目はねぇ。
スポーツ少女っぽいのもワイの好みではないんだよなぁ。
ワイが黙っているとカルドンが続けた。
「俺が告白しても君は怒らないか?」
怒らない怒らない。
そうか。とワイの表情を見て短く応えたカルドンは、グラジオラスの隣に歩いて行った。
ワイは再び目の前のドラゴンに意識を集中した。
●
咆哮したドラゴンは、巨大な翼を広げて飛翔した。
「気を付けて!空中から攻撃を仕掛けてくるわよ!」
チーゼルが注意する。
気を付けろと言われてもなぁ。
ある程度飛翔したドラゴンは、ワイらを見下すように見て水の塊を吐いてきた。
「これが青い竜のブレス攻撃か。」
カルドンが避けながら呟く。
やっぱドラゴンにはブレス攻撃があるんだ。
青は水を操るとか言ってたし、水の塊を吐いて攻撃してくるってことか。
複数の水の塊が地面に振って来る。
地面に当たった瞬間、大きな穴が空いた。
「水の塊ってレベルじゃないぞ…」
カルドンが絶句する。
とにかく一発でも当たれば即死だ。
幸いにも、落ちてくる水の塊は複数とはいえ少量だし、飛んでいる高さが高いから、落ちてくる場所のおよその検討はつく。
つまり、避けやすいのだ。
しかしドラゴンもドラゴンで、ワイらを黙って見ているわけではない。
上空より滑空してきて鋭い牙で噛みついてくる。
その速さは、<スピード>の魔法をかけられたローゼルよりも断然早い。
ギリギリ反応できてかわせる感じだ。
「あの滑空攻撃の時に狙って攻撃を当てないと倒せないわね。」
チーゼルが、軽くひっかけられた肩に手を当てながら言う。
滑空攻撃をする時以外、ドラゴンは空から水のブレス攻撃をしてくる。その時はこちらの攻撃は当たらない。
魔法なら別だが距離的に大した威力にならないとのことだ。
何かないかと無意識に背負い袋の中を漁ると、いいものがあった。
「チーゼル。これ使えないかな?」
ワイはチーゼルに<閃光花火>を見せた。
滑空攻撃してきたところをこれで目くらましし、地上に墜とせないだろうか?とワイは訊いた。
「いけるかもしれないわね。ついでに<煙玉>も使いましょ。あいつが上空にいる時には<煙玉>、滑空攻撃してきたら閃光で視界を塞いでみましょ。」
よかった。何だかんだで、アイテムがあれば何となくなるってスカーレットの言葉は案外本当なのかもしれない。
<火打石>で火を起こして、木の枝に火を灯す。
ドラゴンはと見上げると、空をまだ飛んでいる。
<煙玉>に火を点けてドラゴンの下で破裂させる。
煙がモクモクとドラゴンの方へ上がっていく。
よし!
ドラゴンは、煙から出るが、煙は広範囲に渡って登っていた。
「閃光もやっちゃって!」
チーゼルが言うので、そのまま<閃光花火>も破裂させた。
眩い光が迸る。
パーティーは恐らくみんな目をつむったはず。
目を閉じても強烈な光が瞼の裏に映る。
これだけ強烈な光なんだから、ドラゴンは堪らないだろう。
チラリと薄目を開けてみた。光は止んでいた。
キョロキョロとドラゴンを探すと地面に落ちていた。
閃光に目がくらんだのだろう。
「はぁ!」
すかさずダリアがパンチを食らわせる。更にアヤメとスカーレットが剣で斬りつける。
ガキン!
金属と金属がぶつかる嫌な音が鳴り響く。
「物凄く硬いのだ。」
ダリアが拳をさする。
私の大剣も刃こぼれしてしまいました。
アヤメが言うとスカーレットも、こっちもだ。と呟いた。
どうやら<ミニブルードラゴン>は、攻撃力よりも防御力に優れたモンスターのようだ。
「<火付石>を使って!これかなり疲れるんだけど…ぬぅん!」
ドスの利いた声で雄たけびのような声をあげたチーゼルが思いっきりパンチした。
殴られたドラゴンを中心に衝撃波のような物が飛び、砂が円形に外に飛んだかと思えば時間停止でもしかたのように円状になって砂が止まった。
その後、砂の塊となってドラゴンに降り注いだ。
技の名前が<破砂>だと後から知った。
更に、砂の塊の本当の目的はドラゴンへのダメージではなかったことまで分かった。
砂の塊にドラゴンが埋もれる一方で、地面の土が蔓のような形となりドラゴンを捕獲した。
「<捕縛土>だと?かなり魔力を持っていかれるぞ。」
カルドンが驚く。
消費魔力が半端ないのだそうだ。
だがその分効果は絶大だった。
馬鹿力の<ミニブルードラゴン>が身動き取れずに捕まった。
そこに、火を纏った剣でスカーレットとアヤメが切りかかり、火を纏った弓矢をローゼルが射って攻撃する。
<ミニブルードラゴン>は水を司るが、火が効かないわけではない。
それはあくまでもゲームや創作の世界での話。
普通に切れなくても、火を纏えば火傷もするし皮が焼き切れることだってある。
身動きの取れなくなったドラゴンを怒りを露にした。
大きく口を開く。
あれは正しくさっきと同じ咆哮の予備動作!
さっと耳を塞ぐ。
「グゴォー!」
塞いだ手と耳の隙間から咆哮が体に侵入してくる。
体の硬直は?よし!ない。大丈夫だ。
侵入してきた咆哮が少なかったからなのかは分からんが、ドラゴンの咆哮を防いだ。
チラリと周りを見ると、他のメンバーも咆哮を防いでいた。
そのままスカーレットがドラゴンに火を纏った剣を突き刺す。
ゴムが焼けたような嫌な匂いが鼻をつく。
ドラゴンが嫌がる。
「よし!効いてる!」
スカーレットがガッツポーズをする。
ドラゴンは身動きが取れないが、水のブレスと咆哮はできる。
チーゼルは時折地面に手を着いて魔法が解けないように、断続的に<捕縛土>をかけていた。
「さすがに精神力が尽きそうだわ…」
魔力や体力は<精神薬>で回復できるが、いわゆる気力とは精神力などはアイテムでは回復はできない。
「火は効いているがかなり硬いのだ。」
ダリアの手からは血が出ていた。
ドラゴンの動きを止めたはいいが、どうしても決定打がなかった。
攻めあぐねていると、ドラゴンの目が光ったような気がした。
野生の勘とでも言おうか、嫌な予感がした。
「今、ドラゴンの目が光った気がした!何か来るかも!」
「何?一旦引いた方がいいか?」
カルドンがチーゼルに訊く。
「距離を取りましょ。」
チーゼルが頷く。
その瞬間、上空から大量の水の塊が降ってきた。
雨を降らせた?
「避けて!」
スカーレットが叫ぶが遅かった。いや、避けられる速さではなかった。範囲も広範囲だった。
注意を促したスカーレットですら、避けれなかった。
ボギッ。
太い木の枝が折れた。
あれに当たるのは危険だ。
「頭を守れ!」
カルドンが言うがそれどころではなかった。周囲は水の塊の雨で埋め尽くされた。
ワイは両手両足がダメージを受けた。ピクリとも動かないところを見ると、骨が折れたのかもしれない。
他のメンバーも倒れたきりピクリとも動かない。
<ミニブルードラゴン>はワイらが想像していた以上に強力なモンスターだったようだ。
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