第二章 森の中の日常

ギルド受付のおっさんからの依頼を受けたワイらへなちょこでヘンテコなパーティーは、すいかシティを後にして隣町へ向かっているわけだが、ここでちょっとした事件が起きた。


「食糧がない。」


カルドンが呟いた。


おかしい。街を出る時には3日分の食糧を確保したはず。そのためにみんな極貧の節約生活までしたんだから。


落としたのか?はたまた盗まれたのか?


キョロキョロ辺りを見回すと、明らかに挙動がおかしい2人がいた。


「ダリア。ローゼル。食糧がないんだが知らないか?」


「ダリアは知らないのだ。」


ワイの問いかけに目をそらして答えるダリア。黒だな。


ローゼルはどうだ?


「食糧ってなに?それおいしいの?」


明らかにキョドってるし、言い訳にもならない言い訳してるし。


「あのなぁ。」


ワイが怒ろうとすると、カルドンが止めた。さすがは最年長。


「仲間割れをしても始まらん。幸いここは森の中だ。食べれるものはたくさんあるはずだ。各自食べ物を確保する組と水を確保する組に分かれて、1時間後にこの場に合流しよう。」


カルドンの提案で、ワイとダリアとローゼルが食糧担当に、カルドンとグラジオラスが水担当になった。


ワイよりもカルドンの方がリーダーに向いてそうなのになんでワイがリーダーなの?


以前に聞いた時は、ワイが勇者だからと言われた。


この世界の勇者って何なの?謎だよ。


「なぁなぁ。ローゼルは何でそんなに背中が曲がってるのだ?」


ダリアは猫背を知らないのか?


「何でってウチは猫背なだけだよ。あんただって何でそんなペチャパイなの?って聞かれても困るだろ?それと一緒だよ。」


「ダリアはこれから成長するのだ!」


どーでもいい会話してんなー。意外と仲良くなってるんじゃない?この2人。


でもダリアの言いたいことも分かる。ローゼルはこれでもかってくらい猫背だからな。


髪型とも相まっていかにも陰キャです。って感じなのに、話し方がなぁー。


そういえば、このパーティーってダリアは別として、みんな見た目とのギャップ激しいな。


グラジオラスは、スポーツ少女で運動神経抜群そうに見えるのに、かなりおとなしいし運動神経は無い。ワイと同レベルかそれ以下の運動神経の持ち主だ。


声は可愛いのに見た目はそこそこと色々残念。


しかも、恐ろしい程魔力が少ないから戦闘でも役立たず。


カルドンは、イケメンにイケボに高身長といいところ取りをした外見。20代半ばくらいの爽やか青年って感じ。


でも中身は中二病全開!考えてもみてくれ。明らかに会社に通っているであろうお兄さんが、中二病全開なのだ。恐ろしい以外の何者でもない。


戦闘力も0。シーフのくせに自分の能力を成長させる気はないらしく、グラジオラスに魔法を覚えさせるのと、訳の分からない詠唱を考えることに人生を費やしている感じ。


そしてローゼル。陰キャな見た目とは違ってまさかのギャル!ちょっと甲高い声で喋るけど容姿は微妙。強いて言えば胸がでかい!


アーチャーらしく、身軽で運動神経だけ見ればダリアに次ぐ実力者。


でもノーコンすぎて攻撃が全く当たらないから結局使えない。


ワイは、特に紹介することがないくらい平凡そのもの。陰キャ男子高校生で才能はない。勇者なのに何をしたらいいのかも分からないし、剣とか扱える自信もない。


虫くらいなら殺せるだろうけど、動物となると無理!グロいし無理。ちなみにゴキちゃんとかクモとかキモいのは虫でも無理。シューってやるスプレーを遠くから放射するくらいしか無理。


「なーなータロー。この蛇は食べれるか?」


蛇も無理!あのニョロニョロが無理!何より虫みたいだもん!


「おいおいおい。やめとけよ。そんな気持ち悪いの持つなよ。」


どうやらローゼルも蛇が苦手のようだ。


「ローゼルは大げさだなー。すごく可愛いのだ。」


可愛いくねーよ!蛇をブンブン振り回すのやめなさい!


そのまま蛇を袋にしまってるし。もういいや。気にしたら負けだ。


それにしても、野草とかの知識ないからどれが食べれるやつかとか分かんないなー。


「これは食える。これは毒がある。ここに罠張れば兎くらいなら捕れそうだな。」


なんかローゼルがテキパキ行動してる!


あれか?サバイバルの知識豊富ってやつか?



ローゼルの知識のおかげで、豊富に食料をゲットした。


カルドンたちも戻って来たし、とりあえず野草を煮込むことにした。


「フッフッフ。出番だぞ!我が弟子グラジオラスよ。」


はいお約束ー。


カルドンが顔の前に手を広げて中二病全開ポーズを取っている。


グラジオラスも、はい!マスター!とか返事してるし。ノリノリだな!


「万象全てを焼き尽くす獄炎!悠久の時を経て解き放たん!万物全て灰となれ!」


ここでグラジオラスに合図を送る。


集めた木の枝に小さな火が宿る。


「ファイア!」


なぜかカルドンが叫んでいる。


グラジオラスはぐったりしてるし。ほんと魔力ないな。


野草を煮ている間に、ふとした疑問をワイは投げかけてみた。


「そういえば、グラジオラスの魔力って増えないの?」


「どうなんでしょ?マスター分かりますか?」


「フッフッフ。伝承によると、人の魔力は修練によってのみ増幅するらしい。」


大層なこと言ってるけど、つまり修行をしろってことか。


「つまり、たくさん魔法を使ってれば自然に魔力が増えるってこと?楽でいいなー。」


ローゼルが羨ましそうに言う。


確かにそうか。グラジオラスは強力な魔法も覚えていることだし、こうしてちまちまと魔法を使わせておけば自然と魔力が増えて、気が付いたら最強の魔導士になることも夢じゃないわけだ。


「フッフッフ。修練はこの最強マスターである俺に任せてもらおうか。」


まぁどうせ、カルドンもグラジオラスも使えないし、別に今はどんな修行でも問題ないか。


「よろしくお願いします。マスター。」


にこりとグラジオラスが微笑む。やっぱ行動は可愛いけど見た目はイマイチだな。


「フッフッフ。俺の修行は厳しいぞ!」


ということは、へなちょこでヘンテコなパーティーの魔導士の成長は期待できそうだ。


残りは、ワイとローゼルとカルドンか。


まぁカルドンは教官役だから成長は後回しだな。


「ウチは体力と運動神経には自信あるんだけどなー。」


確かに一日中歩き回ってるのに、元気なのはローゼルとダリアくらいなもんだ。


「ローゼル。君は、遠くから弓矢で攻撃するんじゃなくて、矢を槍みたにして使って攻撃したらどうだろう?」


なるほど!さすがはカルドン!


「えー!遠くから矢で射貫くからかっこいいんじゃーん。そんなのやだよー。」


子供か!


「まぁ考えておいてくれたまえ。気持ちは分かるがな。遠くから弓矢で攻撃。かっこいいよな!」


分かるの?


「でしょ?敵が近づく前にせん滅できたりさ、ふ。たわいのないとかなんとか言っちゃってさ。」


「確かに、魔法に近い魅力があるのも事実。ロマンを追い求めるのは必要なことだしな。」


なんかカルドンとローゼルが意気投合しちゃってるし。


「というわけで、ウチは頑張って弓矢の命中率を上げるようにするよ!」


勇者はどうするの?とローゼルがワイを見てきた。


「勇者様は勇者様ですから大丈夫です。」


グラジオラスが理由にならない理由を挙げている。


「うむ。太郎は勇者だしな。大丈夫だろ。」


カルドンまで。ローゼルも、そっか。と頷いてるし。何なの?勇者って。


「ダリアは最初からタローのことを信じているのだ!」


あ、ありがとね。


そんなこんなを話している内に、野草が煮えてスープが出来上がった。


明日の朝にはローゼルが仕掛けた罠に兎がかかっているだろうとのことだ。


お腹も満たされて夜が耽る。


みんな眠くなり、眠りに落ちた。


この時は何も考えていなかった。


街の外で野宿することがどんなに危険なことなのかを。


誰も見張りとか立てずに、寝ることがどれ程危険なのかを。



ガサガサという音で目が覚めた。


グラジオラスが点けた火が消え、当たりは暗闇が包み込んでいた。


気配でワイ以外の誰かも起きていることが分かった。


「ぬかった。ここが外だと忘れていた。」


声からしてカルドンだろう。ひそひそ声だから確証はないけど、話し方からしてもそうだろう。


「カルドンさんですか?」


「そういう君は太郎か。」


ほらね?ぬかった。なんて言うのカルドンくらいだもん。


「野生の動物ですかね?」


「分からん。もしかしたらモンスターかもしれん。見張りを立てず寝入ってしまったのは失敗だったな。」


暗闇の中で、動物かモンスターが動く音だけが響く。


女性陣は起きているのだろうか?


「マスター!灯かりをつけますか?」


グラジオラスだ。ダリアとローゼルも起きたらしい。


「何の音なのだ?」


「真っ暗で何も見えねぇぞ。」


少しパニくってるが、問題ないだろう。


それよりも音の正体だ。


音はこちらへ近づこうとしているというわけではないように感じる。


「地面を這いずってる感じだな。」


カルドンが冷静に分析する。


その後、あの訳分からん詠唱の後にグラジオラスが木に火を点けた。


灯かりが辺りを照らす。


地面に灯かりを向けると、昼間にダリアが捕獲した蛇がそこにはいた。


「ダリアが非常食として確保した蛇なのだ!」


ダリアが飛びついた。ワイとローゼルは固まってしまっている。


「蛇を非常食にか。なかなか考えたものだな。」


カルドンはなんか感心してるし。


「た、食べれるんですか?」


びくびくしながらグラジオラスが訊ねる。食べれないよ?食べれても食べないよ?


「毒さえなければ問題なく食べれるだろう。」


えぇー?食べるの?カルドン強いな!


「美味しそうなのだ!せっかくだから今から食べるか?」


食わねーよ!捨てなさい!


「だが、生では食べれないだろう。」


カルドンが真面目に応えてるけど、問題はそこじゃないからね?


「そんな気持ち悪いのさっさと捨ててよ!」


よく言ったローゼル!


「むぅ。ローゼルは蛇が嫌いなのか?」


「当たり前でしょ!みんなが食べても絶対ウチは食べないからね!」


ダリアに言われて悔しそうにローゼルが言っている。負けたとか思ってるのかな?


「俺も蛇はちょっと。」


ここでワイも便乗!


「タローも蛇が苦手なのか?タローが食べないならダリアも食べないのだ!」


ぽいっと蛇を放り投げる。


捨ててどうする!倒さないといつこっちに来るか分からないじゃないか!


「それにしても危なかったな。今のがモンスターだったら全滅してたな。」


何事もなかったかのようにカルドンが言う。


「確かに、見張りを張らないでみんなで寝たのはまずかったですね。」


蛇がまた現れないか、周りをキョロキョロしながらワイが答える。


「そうだな。それなら太郎が適任だろう。」


あくびをしながらカルドンが言う。


え?ちょっと待って。


「よろしくお願いします。勇者様。」


おじぎをしてからグラジオラスも眠る体勢に。


頼んだぞ!タローと寝ころびながらダリアは言ってくるし、ウチを蛇から守ってねとローゼルも言って毛布を被った。


「交代の時間とかあるのかな?」


ボソリと呟いたワイの言葉は、見事に無視された。


いいよ?ボッチなめんなよ?


高校でこそ、同士に出会えたけど中学は基本ボッチだったからな!クラスのみんなに空気扱いされるのにも慣れてるし!


長い夜を1人で耐え忍ぶため、ワイはとりあえずグラジオラスがさっき点けてくれた火が消えないように、近くに落ちてる落ち葉や木の枝を広い集めた。


ワイにはサバイバルの知識なんてないけど、石とかレンガで囲いを作ればかまどみたいのが出来上がることは、何となく知っている。


火があれば、野生の動物は怖がって襲って来なくなるって言うし火は消したらダメだ!ワイの生命線だ。


そこら辺から大小様々な石を集めては、不格好に火を囲む。


燃える燃料が減ってきたら落ち葉や木の枝を入れて火が消えないように気を付けた。


更には太くて長めの木の枝に時間をかけて火を移し、松明のようなものも作った。


「よし!」


の掛け声と共にワイはちょっと森の中を探索してみた。もちろんみんなが見える範囲で。


食べ物とかは分からないけど、燃やす材料はいくらあっても問題ないだろう。


どうだ?ボッチ経験者のワイにとって、1人は日常茶飯事。みんなが寝てる間に暇を持て余すことはしないのだ。


そういえば、昼間にローゼルが何かの肉を捌いていたな。あれを焼いてみよう。


革袋から、捌かれた肉を取り出し、木の枝に刺して地面に木の枝を突き刺してじりじりと焼く。


せっかくだからお茶も飲もう!


これまたローゼルがその辺の香草で茶葉を作ってたはずだ。


石で五徳を作って水を入れたやかんを乗せて火にかける。


カップに茶葉を入れてお湯が沸くのを待つだけだ。


この異世界に来てからまだ日も浅いのに、色んなことがあった。


そういえば、前世ではこんなに色々と忙しくしたことはなかったな。


毎日似たようなことの繰り返しだったし、あれはあれで充実してたんだけど、今の方がなんかいいな。


ふと空を見上げると満天の星空だった。


「おー。」


思わず声がこぼれる。


「いい匂いがするのだ!」


肉の焼けた香りでダリアが起きた。ダリアの声で他のメンバーも起きてきた。


やれやれ。久しぶりに前世みたいにゆっくりできると思ったのになぁ。


「みんなの分も焼くか?」


肉を木の枝に刺しながらワイが聞く。


グラジオラスはみんなのお茶を準備していた。


慌ただしくてもワイは、こっちの世界の方が好きかもしれないな。

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