第一章 へなちょこでヘンテコなパーティー

異世界転生して、チート俺つえぇーハーレムを期待していたワイは、奇妙なことに、魔王の娘に好かれてしまった。


ワイは勇者。魔王を倒すのが多分目的のはず。


なのに、その目標の娘に好かれてしまい、結婚を申し込まれ、断ったら世界を滅ぼすとか言われた。


とりあえず世界を見て回る(ダリアからすると旅行らしい)という口実で、今すぐの結婚は回避できたわけだが…


正直言ってヤバい!めちゃくちゃヤバい!


ワイに結婚する気がないとバレたら、世界は終わっちゃうんでしょ?世界の命運は勇者のワイにかかってるわけだけど、その命運のかかり方がなんか違うよね?


「なぁなぁタロー!まずはどこを回るんだ?」


ウキウキしながらダリアがワイに問いかける。


って聞かれてもなぁー。この世界のこと全く知らんしな。


「世界を一周するなら、一番近いのはすいかシティじゃ。そこに向かうといい。」


すいか?変な名前だなぁ。まぁいいか。とりあえずすいかシティとやらで可愛い女の子をゲットしてやるぜ!


「じゃあ、ダリア。そのすいかシティまでの道案内をお願いできるかな?」


「それは無理なのだ。」


え?何で?


「はっはっは。勇者太郎よ。我が娘は魔王城から一歩も外に出たことはない!正に箱入り娘というわけだ!」


何が箱入り娘だよ!過保護にも程があるだろ!


「じゃあ、この世界に来て間もない俺と大した知識の違いはないってことですか?」


応えは予想できたけど、念のために聞いておいた。


「うむ!生まれて初めて外に出る!よろしく頼むぞ!何事も初物とはいいものだろう?」


うむ!じゃねーよ!娘をどんな目で見てるんだこのエロ親父は!それにこんな初めてはいらねーよ!絶対道に迷うじゃん!


「さぁ行くぞタロー。」


ダリアはワイの襟首を引っ張って行くし。力強いな!


「楽しんで来るんだぞ。」


魔王は笑顔でワイ達を見送ってるし。


ワイはズルズルと引っ張られながら魔王城を後にした。


典型的な作りとでもいうのか?魔王城は小高い森に囲まれていた。って言っても薄気味悪いとかじゃないし、ジャングルっぽい感じでもなく、自然豊かって感じがしっくりくる。


ワイたちは、とりあえず真っすぐ進むことにした。アテにしてなかったけど、やっぱり地図もなければ食べ物も一切ダリアは持ってきていなかった。


っていうかお互いに手ぶらだしね。


「なぁなぁタロー!あの鳥見てみろよ!うまそうだな?」


カラフルで奇抜な鳥だ。うまそう?ではないよな。アホっぽい見た目してるし。


「タロー見てみろよ!このキノコ食べれそうだな?」


ニヤニヤ笑ってるキノコは絶対に食えない!


「タロータロー!」


今度は何だ?


ワイはやれやれと思いながらも、ダリアの方へ向く。


――!


「何それ?」


やっと振り絞って出した言葉がそれだった。いわゆる絶句するというやつだ。


ダリアは何と!めちゃくちゃ巨大な豚に跨っていた。


「そこで見つけたのだ!勝負を挑んできたから勝ったら背中に乗せてくれたぞ。タローも早く乗るのだ。」


乗れって言われても乗れるわけないじゃん。家の屋根くらいの高さだよ?むしろダリアはどうやって乗ったの?


「タローは甘えんぼだな。」


ピョンと巨大豚から飛び降りたと思ったら、突然ワイをお姫様抱っこしてきた。


「え?ちょ。」


有無を言わさずたった一度のジャンプで巨大豚の背中に飛び乗った。


ツルツルしてて不安定だし、乗り心地は最高ではなかった。


「甘えんぼなタローもいいな!」


どうやらさっきのワイが、甘えてるように見えたらしい。


謎に頬ずりまでしてきてるが、暑苦しいからやめて欲しい。可愛いから許されるんだぞ?だからワイも、やめて欲しいとか言いながら抵抗しないんだからな?


「すごいなタロー!外の世界は楽しいな!」


ワイが自分に言い訳をしている間にも、ダリアはハイテンションだ。


何かあればタロータロータローって。ワイのバーゲンセールかよ。


それにしても、裸を見られたからワイと結婚をするって言ってたけど、いいんかな?そんな理由で簡単に結婚を決めて。


いや、彼女いたことないワイにはあんまり結婚生活とか付き合ったカップルの生活なんて想像つかないけどさ、好きになった同士でも嫌なことや喧嘩があるのに、好きになったわけでもないワイを選ぶのはさすがに危険すぎる気がする。


ワイも、ダリアのルックスは好みだけど、中身は全く知らないわけだし。どうしても結婚ってのは躊躇しちゃうのが普通だよね。


それこそ、お友達から始めさせてください。ってこーゆー時に使う言葉なんじゃないの?


「どうしたのだ?タロー。さっきから黙って。ダリアといるのつまらないか?」


キョトンとした顔で覗かれる。


「いや、つまらないとかじゃなくて。ダリアはどうして俺と結婚したいのかな?って。裸を見られただけならもう少し」


「好きだからなのだ。」


ワイの言葉を遮ってダリアが堂々と言い放つ。


「え?好き?出会って間もないのに?好きになる要素がどこに??」


今度はワイがキョトンとしてしまった。


「好きなものは好きなのだ!気が付いたら好きになってたのだ。」


ない胸を張ってエッヘンと最後に言っていた。


うーむ。どうやらワイのスキルは女の子を好きにさせてしまうとんでもスキルのようだ。気を付けなければ、世の中の女の子がみんなワイのものになってしまう。グフフ。


とまぁ、それは置いておいて。ワイのハーレム計画はどうやら簡単にことを成しそうだ。


問題なのは、ダリアがそれを許すのかどうか。そして、結婚する気がないとワイが言った時に世界を滅ぼされないように何とか懐柔しておく必要があるということか…


当面は、旅行という名のハーレム女探しで何とか回避できるだろうしね~。


「ところでこの豚はどこへ向かってるの?」


ふとした疑問をダリアに投げかけてみた。


「さぁ。」


笑顔で言われた。


さぁ。って!可愛いけども!


ここでふと思った。さっきダリアは勝負を挑んできたと言っていた。ということはこの豚喋れるのか?


「なぁなぁ。すいかシティって分かるか?」


ワイは豚に話しかけてみた。


期待に胸が膨らむが、返答は無かった。


「どうしたのだ?タロー。こいつは話せないぞ。」


またまたキョトンとした顔で言われた。


喋れないのかよ!恥ずかしいわ!


「だってさっき勝負を挑んできたって言ってたじゃん?」


「突然突進して来たから殴ったのだ。そしたらおとなしくなったのだ。」


おとなしくなったのを見て、乗れと言われていると勝手に判断したのか。


なんと恐ろしい。ダリアには絶対に逆らっちゃダメだ。


さすがは魔王の娘だな。


「そういえば、ダリアとお父さんって全然似てないよね?お父さんはいかにもって感じに怖いけど、ダリアは普通の人間と変わらない見た目をしてるよね?」


ふとした疑問を投げかけてみた。


「ダリアは人間の血が混ざってるからな。」


衝撃だ!まさかの魔王と人間のハーフ?


「タローのいた世界では、人間は他の種族と交わらないのか?」


「あぁ。人間は人間としか交わらないな。」


というよりも、魔王なんていないし亜人とかもいないからな。


「変なの。ダリアが聞いた話だと、人間が生存権を獲得するために多種族と交わったと聞いたがな。」


「何の話だ?」


「世界の創造の話なのだ。ダリアもよくは知らないけど、この世界では人間が生きるには生き辛かったから、人間が住みやすい世界にするために他の種族と交わったと聞いたことがあるぞ。」


てことは、人間が住みやすい世界になっているということか。地球に似ているのかな?


「お!タロータロー!なんか町みたいのが見えてきたぞ!」


すげーなこの豚。本当に言う事聞いているよ。


「あそこがすいかシティかな?」


またまたワイをお姫様抱っこしながら、巨大豚からダリアはピョンと飛び降りた。


「ありがとうなー!また帰りもよろしく頼むのだー!」


森へ帰る巨大豚の背中に向かってダリアが叫ぶ。


帰りっていつになることやら。


「さぁタロー!行くのだ!」


そう言ってダリアは、笑顔で手を差し伸べてきた。


普通逆なんじゃないかなぁ?


ワイは恥ずかしそうにダリアの手を握る。


うおぉー!女の子と手を繋ぐなんて初めてだぞ!恐らくお母さん以来かと!


心の興奮をダリアに気づかれないように平常心でワイは歩く。


手汗が凄い。


「なんかいいなこういうの!」


ダリアがえへへと笑ってくる。か、可愛い!


「何て言うんだ?なんか心臓の辺りが凄くドクドクしてて痛いのだ。」


「あぁそれは。嬉しすぎてテンションが上がってるんだよ。」


ダリアが繋いでない方の手で胸の辺りをさすっていた。


「そうか!ダリアはタローと手が繋げて嬉しいのだ!」


ニパッと笑う。もう何だろ?ダリアっていちいち行動が可愛い!


「と、とりあえずあの町に行ってみようか。」


やべ、緊張して吃った。


緊張がバレないようにワイはダリアの手を引いて町に向かった。


町はとても活気があった。ここがすいかシティなのかは分からないけど。


「てゆーか、俺たちお金とか持ってないからこの町に来ても何も出来ないんじゃね?」


「む。確かに。人間たちは、食べ物などを手に入れるためにお金を使うと聞いたことがあるのだ。」


確かに魔王ともなれば、お金なんかなくても食糧には困らないだろうしな。お金の存在を知らなくても仕方ないか。


どうしたものかと、悩みながら町を見て回ろうとしたワイ達の背後から、可愛らしい声がかかった。



「あの、勇者様ですよね?」


これぞ女の子の声!という感じの可愛らしい声を後ろからかけられた。


これは絶対に可愛い!そう思って期待してワイは振り返った。


そこには、茶色い髪を短く切り揃えて小麦色に焼けた素肌のいかにもスポーツ少女という感じの女の子が立っていた。


猫のような切れ長の目に八重歯が特徴的だ。


ルックスは、そこそこって言ったら失礼かもしれないけど、うん。彼女いない歴イコール年齢のワイに言われたくないだろうが、可愛いとは言えない。


いわゆる声詐欺ってやつだな。


「えっと。勇者様じゃないですか?」


可愛すぎる!声だけは可愛すぎる!この声でダリアのルックスだったら完璧だったかもしれない!


「ええと。多分勇者で合ってます。自分でもこの世界に来たばかりでよく分かってはいませんけど。」


「やっぱりそうなんですね!実は、勇者様は分かる人には分かる特殊な存在なんですけど、何しろ見たのは初めてだったので、本当に勇者様なのか不安で…」


何だろ?勇者補正みたいのがあんのかな?


「お前は何なのだ?」


ずいっとワイとカワボ少女の間にダリアが割り込んだ。


「ごめんなさい!申し遅れました。私はグラジオラスと申します。魔導士として勇者様のお仲間に入れて貰えればと思っています。この前15になりました!」


茶色い瞳を輝かせながら聞いてもいない年齢まで教えてくれた。


「タローとダリアの仲間になりたいのか?ダリアは構わぬが、タローの隣は譲らないぞ。ダリアとタローは結婚するんだからな!」


とんでもないことを言ってるよこいつ!


「結婚ですか…勇者様もダリアさんのことがお好きなんですか?」


なんてことを聞くんだこの子は!


「え?いや。好きとかそういうのじゃなくて。」


「なんだタロー。照れてるのかー?」


ちげーよ!


「そう…ですか…」


グラジオラスは少し残念そうな表情をする。


何て言うか、めちゃくちゃ運動神経良さそうで活発そうな女の子なんだけど、どうも性格はおとなしめな感じそうなんだよね。


それにしても、残念そうにしているってことは、やっぱりハーレムコース確定で、グラジオラスもワイのことが好きってことかな?


ルックスはあれだけど、声だけは最高だからよしとしよう!


「えーと。仲間になるって言ってたけどさ、実は俺たちまだやること何にも決まってないんだよね。多分勇者だから魔王を倒すのが目的だとは思うんだけど、それだとちょっと問題もあってね。」


チラリとワイはダリアを見る。


「それはもちろん勇者様は魔王ブッドレアを倒すための存在です!魔王ブッドレアがどんな存在かご存知ないのですか?」


「あぁうん。だってほら、俺ついさっきこの世界に転生したばっかだからさ。」


おとなしめの性格かと思ったのに、なんかグイグイ来たぞ。


「分かりました。では魔王ブッドレアがどれ程恐ろしい存在なのか教えて差し上げます。魔王ブッドレアは、自分が働くのが嫌だからという理由で最初にモンスターを生み出しました。しかしそのモンスター達は主であるはずの魔王ブッドレアの言う事を聞かなくてなります。」


「え?」


思わず相槌を打ってしまった。


働かせるためにモンスターを生み出したの?んで、言う事聞いてもらえなかったの?


「そうなんです。そこで魔王ブッドレアは、自ら私たち人間を脅かすようになったのです。」


そこはやっぱり魔王なんだな。きっと酷いことをたくさんされたんだろう。


もしかしたら、言う事を聞かなくなったモンスターへの八つ当たりとかもあったのかもな。


「魔王ブッドレアは、私たち人間に言う事を聞かないならば飲み水におしっこを入れたり、作物を盗んだり、家畜を勝手に逃がしたりしてやるぞ。と脅して来たんです。」


「しょぼっ!魔王しょぼっ!やることがなんか幼稚だぞ!地味な嫌がらせだなそれ!」


「それで仕方なく我々人間は、魔王ブッドレアの言いなりになって、毎日食べ物を献上しているんです。」


「倒せばいいんじゃないか?」


ワイがもっともな質問をすると、グラジオラスは首を横に降った。


「それは出来ません。魔王を倒すのは勇者様のみと決まっているのです。」


何その設定。


「ちなみにそのモンスターは害があるの?」


「もちろんあります。魔王ブッドレア以上に厄介です。人間に攻撃してきますし、町が襲われた被害もよく聞きます。」


「てことは、勇者の目的って、魔王の討伐だけじゃなくて、モンスター退治も含まれてるとか?」


「そうですね。中にはモンスターさえ討伐してくれればいいって言う人もいます。」


「パパの討伐は困るけど、パパ的にもモンスターの扱いに困ってたからモンスターの全滅は全然オッケーだと思うよ?必要ならまた生み出せばいいんだし。」


ダリアもダリアで突拍子もないことを言い出したな!


「あの、パパって?」


グラジオラスが聞いてくる。


「いやいやいや。気のせいだよきっと。」


焦って誤魔化すワイ。


「魔王がダリアの父親だってことはみんなには内緒な?知られたらややこしくなっちゃうでしょ?」


ひそひそ声でダリアにそう言うワイ。


なんかめちゃくちゃ忙しいんだが。


「2人だけの秘密か?」


ダリアはにこにこしながらも、ひそひそ声で返してくる。


「あぁそうだ。2人だけの秘密だ!」


「あの、勇者様?」


声をかけられて飛び上がるワイとダリア。


「うぉーう!何でもないよ!大丈夫。とりあえず、モンスターを退治するのを当面の目標とするけどいいかな?」


「もちろんです!勇者様が決めたことなら私は何でも従います。」


にこりと笑顔で微笑まれた。


「ダリアもそれでいいのだ!」


ダリアも笑顔で返す。


「では、モンスターを全滅させた後に、魔王を倒しに行くのですね?」


笑顔のままグラジオラスが聞いてくる。やっぱりそうなるよね?


ワイ個人としては、別に倒す倒さないはどうでもいいんだけど、ダリアの目の前で倒す宣言はさすがにできなんだよなー。


「今魔王と言ったか?」


ワイが答える前に、男の声がした。



声の方を向くと、細身でやや長めの黒い髪をした男が立っていた。毛先は白く染められており、恐らくこれがオシャレ何だろうと思わせる。


しかもルックスがまたいい!いわゆるイケメンというやつだ。


あれぇー?ハーレムルートなら男はいらないんだけどなぁー。しかもイケメンだと?


「君たち。今魔王と言ったよな?もしかして魔王を退治する勇者一行か?」


声までイケメンボイスだ。


グラジオラスとこの男がいれば、声だけで仕事ができそうだな。


「何なのだ?お前は?」


物怖じしないダリアがない胸を張りながら言う。


グラジオラスも胸がないから、次の女の子は巨乳だといいなぁ。


「フッフッフ。俺か?俺はカルドン!勇者と共に魔王を討つ者なり!」


腕を組んで自慢げに話すカルドン。


「そうか!ならお前も仲間だな。ダリアだ!よろしくなカルドン。」


腕を組むカルドンの手を引っ張りながら、ワイとグラジオラスの近くまでカルドンを連れて来る。


カルドンが高身長で、ダリアが小さ目の身長だからか、それともカルドンが大人っぽい見た目だからなのか、親子に見えなくもないな。


「えーと。一応勇者の山田太郎です。」


ちょっと照れながらワイが挨拶すると、いきなりワイの両手を握ってきた。キモッ!


「そうか!君が勇者か!太郎!いい名だ。俺はカルドン!魔導士を夢見るシーフだ!共に冒険が出来ることが楽しみだ!」


魔導士を夢見るシーフ?何それ?


「えと。魔導士のグラジオラスです。よろしくお願いいたします。」


「おおお!君は魔導士なのか!するとあれか?かっこいい呪文とかを詠唱したりするのか?」


今度はハイテンションでグラジオラスの手を握り始めた。


いとも簡単に女の子の手を握れるとは!侮れんやつめ!


「詠唱?呪文などは唱えません。大事なのは内なる魔力を媒介を使って外に放出することです。私の場合はそれが杖になります。」


「何だと?それはいけない!俺がこれからかっこいい呪文をたくさん考えてあげよう!いいかね?俺が呪文を詠唱し終わってから魔法を出すようにするんだ!いいね?」


「え?え?」


謎にハイテンションのままカルドンはグラジオラスに訳の分からないルールを押し付けていた。


「それと、俺のことはマスターと呼ぶのだ。はい。言ってごらん?」


また訳の分からないルールを押し付けて。グラジオラスも困っている。


あれかな?カルドンはもしかしたら中二病なのかな?


「太郎よ。1つ提案がある!この町にはなかなかに上等な装備品が売られている。まずは装備品を整えてから魔王の討伐へ向かわないか?」


なかなかまともなことを言うではないか。さすがは見た目最年長!


「いいんですけど、俺たちお金ないんですよね。」


俺たちと言って、ワイは自分とダリアを指さす。


「それから、魔王討伐の前にモンスター退治をすることに決まったんですけど大丈夫ですか?」


「なるほど!魔王よりも前にその配下を倒す!最もな戦術だね!お金に関しては依頼をこなすしかないだろうな。」


依頼?クエストみたいなもん?


街中には、色んな人が困っていることを掲示板に出すらしい。


まぁいわゆるクエストだよね。


「とりあえず簡単そうな依頼をこなしていきますか?」


最年長であるカルドンに一応確認する。


「太郎よ。君が勇者なんだから俺たちのリーダーは君だ。君が決めたことに俺たちは従うさ。」


そうなの?やっぱり勇者だから?


とりあえずどんな依頼があるのかを見てみよう。



ワイらは街の広場まで来た。


大きな掲示板には様々な依頼があった。


その依頼を管理しているのがギルドだ。


まぁ、あるあるだよね。


「なぁなぁタロー。このレッドドラゴン討伐ってのはどうだ?」


何々?クエスト内容レッドドラゴンの討伐、難易度<金金金>、クエスト報酬50金。


なんのこっちゃ?


「クエスト報酬の50金は魅力だが、難易度が高すぎるな。金金金なんて、今の俺たちには絶対に無理だ。」


カルドンが却下する。


結局カルドンが見繕って、作物を荒らすイノシシの討伐依頼を受けることになった。


「イノシシなら楽勝っぽいですね!」


イノシシが出るという畑へ向かいながらワイがカルドンに話す。


カルドンは片手を広げて顔の前に持っていきながら話す。


「フッフッフ。とうとう俺の実力を出す時が来たな。」


なんかブツブツ言い出した。


「なぁなぁタロー。カルドンは面白いやつだな。」


面白い?かは分からないけど変なやつではあるな。


「歩いてる最中もな、ずっと一人でブツブツ言ってたんだぞ!面白いよな!何か見えるのかな?」


ダリアは純粋だな。


それは突っ込んじゃいけないんだ。


「ダリア。それは見なかったことにしてあげるのがいいぞ。」


ワイはしっかりと教えてあげた。


ダリアは、何で―?とか聞いてくるが、きっと気のせいだ。


そんなやり取りをしていると、目の前にイノシシが現れた。


「あいつか?」


顔に近づけてた手をサッと目の前に出しながら、カルドンが大げさに言う。


更にカルドンがグラジオラスに指示を出す。


「グラジオラスよ。俺が詠唱を唱え終わったら魔法を放つのだ!速効で終わらせるぞ。他の者は危険だ!巻き込まれたくなければ下がっているがいい。」


倒すのはグラジオラスな気がするけど、まぁ一撃で倒せるならそれが一番いいだろう。


「闇より目覚めし我が力よ。今こそ解き放つ。天より響け!地を穿て!疾風のごとく!」


ここでカルドンがグラジオラスに合図を送る。


「いきます!」


………


……



何事も起こらない。


「えっと?」


ポーズを決めたまま固まるカルドンがグラジオラスを見る。


「私、フレアという魔法しか使えないんですけど、今のままじゃ魔力が足りなくて魔法を撃つことが出来ないんです。」


使えねー!何の役に立つんだよ!


「ごめんなさい。勇者様といれば何とかなるって思って。」


可愛い声で言われたら怒る気にもなれないわ。


カルドンはどうなんだろ?シーフって言うくらいだから、決定打はないにしろ、敵を翻弄したりはできるだろうから、イノシシくらい捕まえられそうだけど。


そう思ってワイはカルドンを見た。


カルドンは前に突き出した手を頭の後ろに持っていき、照れながら堂々と言い放った。


「フッフッフ。俺には武器がない。何しろ俺は魔導士を夢見るシーフだからな。魔法を使いたくてしょうがないのさ。魔法の知識ならある!だからグラジオラスの鍛錬は俺に任せろ!」


俺に任せろじゃねーよ!自分の鍛錬をしろよ。


「それに、俺も勇者といれば何とかなると思ってたくちだからな。」


堂々と言いやがった。何?勇者ってそんな設定なの?


そう言われても、ワイも武器はないし、戦い方なんて知らないしなー。


よくよく考えたらこのパーティー、滅茶苦茶弱いんじゃね?


チートスキルで俺つえぇーとかできる気しないし。


「ダリアが倒すのだ。」


居た。チートキャラ。ダリアがいれば負けることないかもしれない。


「よしいけ!ダリア。」


「任せるのだ!」


イノシシに向かって走るダリア。そのままパンチをお見舞いする。


「ダリアパーンチ!」


隣でカルドンが何故か叫んでいる。何でもいいのかお前は!


イノシシが遠くにぶっ飛ばされた。


やっぱりダリアは強かった。絶対逆らっちゃだめだ。



無事に依頼を果たしたワイたちは、報酬を貰うが当然装備を整えるのには足りない。


それどころか、


「あの、ご飯とか宿とかそういうのでもお金はかかりますよね?」


グラジオラスの言う通りだ。生きるためにはお金が必要だ。


だがしかし、問題があった。


「ダリア以外使えないな!」


その通り。


無い胸を張られるとイラッと来るが、正にその通り。


ワイは装備が無いし、あったとしても戦い方すら知らない。


少し前まで陰キャだったんだから剣とか持てる自信もないし。


グラジオラスは強力な魔法を使えるけど、それに見合う魔力がない。


カルドンは魔法の知識はあるけどそもそも魔法が使えない。シーフとしての能力は皆無。


ダリアの言う通りダリア以外使えないパーティーなのだ。


「でも、メンバーを増やすにしてもその分お金がかかりますよね?」


そうなのだ。グラジオラスは現実的だ。


メンバーが増えるということは、そのメンバーの生活費がプラスされるわけだから当然だ。


「フッフッフ。ならば個人個人の戦力アップしかあるまい。」


そう言ってカルドンは強制的にグラジオラスを連行した。


「俺たちは魔法の修行をする。太郎とダリアは簡単な依頼をこなして日銭を稼いでくれ。夕刻にここで落ち合おう。」


「勇者様~。」


悲しそうに叫ぶグラジオラス。


傍から見ると、誘拐犯だな。


でもカルドンの提案はあながち間違いじゃないかもしれない。


ワイは勇者だから、実践で鍛えるしかないし、ダリアがいれば間違いも起きないだろうし。


その間にグラジオラスが簡単な魔法を覚えてくれれば願ったり叶ったりだ。


「こうして見ると、作物を荒らしてるのはモンスターばかりじゃないんだな。」


この街ならではなのかどうかは分からないが、依頼の大半は作物を動物から守ることだった。


「まぁな。依頼がなくなることはないけど、この街に住んでる俺たちからしたら、作物を荒らされるのはごめんだよ。」


依頼を探しながら掲示板を見てポツリと呟いたワイに、ギルドの受付が返事をしてくれた。


「新人2人でもこなせる簡単な依頼ってありますか?」


あまりにも依頼の量が多すぎて探すのが面倒になったワイは、話しかけてくれた受付に依頼を見繕ってもらうことにした。


「丁度今日、酒場の手伝いの依頼が舞い込んできたよ。3人募集なんだけど、1人しか応募してないから君たち2人がやってくれれば助かるな。」


そういう依頼もあるのか。


選り好みしても仕方ないし、酒場の手伝いをすることにした。


「ダリアは働くの初めてなのだ!」


ワクワクしながらダリアが言う。


そういうワイだって初めてだ。バイトの経験もないし、自慢じゃないが家の手伝いだってロクにしたことがない!


受付に案内された酒場に入ると、奥の控え室に通された。


「助かるよ。あんた達みたいな若い者が助っ人だと特に!いま先に来た子が制服に着替えてるから、順番に着替えちゃっておくれ。」


気さくなおばちゃんが店主だ。


控え室で待っていると、更衣室から1人の女の子が出てきた。おばちゃんが言ってた先に来た子か。つまり、ワイとダリアとこの子の3人で酒場の手伝いという依頼をこなすことになるわけだ。


それにしても、陰キャのワイが言うのもなんだけど、この子めちゃくちゃ陰キャっぽいな。


同族の匂いがする。


真っ黒な髪の毛を目元まで降ろしてるし、めちゃくちゃ猫背だし。


どういうわけか、こういう陰キャの女子が巨乳なんだよな。


この子も例に漏れず巨乳だし。


「ダリアも着替えてくるのだー!」


たたっと更衣室へダリアが向かう。


おいおいおい。陰キャが2人きりって会話が成立しないぞ。


ここは男としてワイから声をかけるべきか。


「ど、どうもー一緒に依頼をこなすことになった山田太郎です。今着替えてるのはダリアです。」


作り笑いで声をかけるワイ。


「あー!もしかして勇者!?」


女の子が甲高い声で話す。


え?見た目と話し方のギャップ凄くね?


「ウチはローゼル!これでもアーチャーなんだー。よろしくー!」


片手の人差し指と中指を立ててそれをこめかみにあてる。そのままこめかみからピッと離しながらよろしくー!と言ってきた。ギャルっぽい挨拶だ。


というよりも、ノリがなんかギャル!


ワイが苦手なタイプ!


「ねーねー勇者ー。この仕事が終わったらウチも仲間に入れてくれるー?」


下から見上げてくる。


やや背が高いから屈みながら覗き込んでくる。


初めてこの子の顔がはっきりと見えた。


結論から言おう。決して可愛くはない。グラジオラスといい勝負だ。


陰キャのワイが言うのもなんだけどね。


目元には濃い目のクマがあり、ほっぺにはニキビの痕とソバカスが目立つ。だから顔を隠してるのかもしれない。


「仲間に?俺1人では勝手に決められないからそれはちょっと待って貰ってもいいかな?」


ダリアもそうだけど、女の子が苦手なワイにグイグイ来るのは止めて欲しい。そういう点ではグラジオラスはありがたいな。


特にローゼルと名乗ったこの子は、ワイが苦手なギャルタイプだ。どう対応すればいいのか分からないのだ。


「えー?何でよー?ケチィー。いーじゃん仲間に入れてくれたってー。」


などと言いながらワイの手を取ってその胸に近づけようとしてくる。


ワイだってこういうの嫌いじゃないよ?でもいいの?こういうのいいの?経験ないからワイ分からないけど、付き合ってなくてもこういうことってするものなの?


「何してるのだ!」


更衣室から出てきたダリアが怒鳴る。


ドキドキが収まらない。


助かったという気持ちと残念という気持ちが入り混じってる。


「あんたがダリア?ウチはローゼル。今からあんた達の仲間になったから。それとウチは勇者のことが気に入ったらから。だから胸くらい好きなだけ揉ませてあげようと思ったの。


何それ?これもハーレムスキルのおかげ?


「何だと?ダリアだってタローのことが好きなのだ!お前にはタローは渡さないのだ!」


「残念だけど。あんたじゃ勇者のことを満足させられないと思うよ?」


そう言ってローゼルはダリアの胸を見た。


「む!ダリアだってタローを満足くらいさせられるのだ!」


ちょっと待て!だからってワイの手をその無い胸に持っていこうとするのはやめてくれ。


ワイが手を引っ込めるとローゼルが勝ち誇ったような顔をした。


「ほうらね?ウチの時はこんな反応しなかったわよ?」


「タロー!タローはダリアのことが好きだったんじゃないのか?」


「ウチのような胸のある人間の方がタイプだよね?」


えぇー。どっちかを選ばないといけないの?


「むぅー。タローはダリアの裸を見たんだぞ!ダリアの勝ちに決まってるのだ!」


何言っちゃってるのダリアさん!


「何ですって?」


何ですってじゃないよ!


「まさか2人がそこまでの関係だったなんて…今のままではウチの負けのようね。」


そこまでの関係って何だよ。


「当然なのだ!タローにとっての一番はダリアなのだ!」


またもや無い胸を張るダリア。


膝を落として落ち込むローゼル。


そこまで?


おばちゃんが、まだなの?と声をかけてきたので、とりあえずワイは着替えることにした。ローゼルに一発殴られたのは納得がいかない。



すいかシティで数日間ワイらは滞在した。


ローゼルはグラジオラスとカルドンにすんなりと受け入れられた。


受け入れさせたが正しいのか?


「よ!ウチはローゼル。勇者の仲間になったからよろしく。」


ワイにした挨拶と同じように、2本の指をこめかみからちょっと上にピッと上げながら挨拶をした。


「フッフッフ。俺は誰が仲間でも問題ない。」


さすがはイケメン。物怖じしないね。女慣れしてそうだもんな。


ちゃっかり手を握って、よろしく。なんて挨拶してるし。


「ローゼルさん。よろしくお願いします。」


グラジオラスは反対に緊張したような感じだ。


見た目は運動部とかに入って活発そうだけど、中身はワイに近いと見た!


とまぁこんな感じで、ヘンテコなメンバー5人は、色んな依頼をこなしつつ日銭を稼いでいた。


装備品を買う前にみんなのご飯代で消えるのは何故なんだろうな?


ところで、グラジオラスだが、きちんとファイアといういかにも初級な魔法をカルドン指導のもと習得していた。


しかしこれがカルドンと一緒にいることで、恐ろしく弱くなってしまった。


というのも、カルドンの長ったらしくて訳の分からない詠唱を終えないとファイアを出してはいけないというルールがあるからだ。


初級魔法なので、威力はさほどない。


なのにグラジオラスの魔力は1発で底を尽きてしまう。


魔法は覚えたけど、基本戦力にはならないと考えた方がいいだろう。


戦力にならないと言えばローゼルも同じだ。


アーチャーと言うだけあって、ローゼルは自前の弓矢を持っていた。そこだけは評価できる。


だがこの女。ありえないくらいのノーコンだった!


目の前の敵に矢が当たらないならまだしも、後ろにいる仲間に矢が飛ぶのはどういう仕様だ?


かく言うワイも全く進歩なし。


喧嘩なんてしたこともないし、したくもない平和主義者のワイ。


可愛いらしい兎が現れたとしても、殺すことなんてできない。


なんなら、このまま武器が永遠に手に入らなければいいのにとさえ思ってる。


というわけで、相変わらずダリアの一強パーティーなわけだが、顔見知りになったギルド受付のおっさんに、ひょんな依頼を頼まれた。


依頼の内容は、とある書類を隣町まで届けるというもの。


報酬は、全員の装備が買える金額とのことで引き受けた。


今にして思えば、この依頼を引き受けたことが、ワイのこの世界での人生を決めたのかもしれないな。


こうして、へなちょこでヘンテコなパーティーは隣町までの旅をすることになったのだった。

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