作品3-11
桜の木の枝には、いくつもの鮮やかな玉が吊るされている。それは、鍋や七輪、レンジやコーヒーから上がる湯気を閉じ込めた袋であった。
オブラートで包んだものは、中の湯気の動きがまるで惑星に見る大気の循環で美しい。トマトやブドウの薄皮で包んだものはまるで宝石のように輝いて見える。
「ひとつ取って口に入れてみな。」
カウンターの二人は、これが食べ物かと疑うような眼差しをしているが、しかし口に入れてみると溶けたオブラートからは芳しい香り溢れ出た。お米の香りや肉じゃがの香り、ハンバーグの香りやパスタの香りなど。
トマトやブドウの薄皮は、パンッと弾けるとそのままトマトやブドウの香りがした。それ以外にも、コーヒーや紅茶、そしてバニラやチョコレートなどのデザートまで用意されていた。二人の手は止まることを知らなかった。次から次へと、口に運んで行った。
「どんどん食べなよ。なくなるもんじゃねぇから。」
店主はそう言うと、タオルを首にかけ、再びかすみ玉を作り始めた。
誘拐犯は、無言で食べ続けた。食べる度に、頭が俯いていくのがわかった。店主の妻は手を止め、店主と一緒にその光景をずっと見守った。
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