88歳

にーりあ

88歳

「円卓機関大騎士セレスティア=リー=メイ=パラミデス。汝に勇者の監視を命ずる。従者として昼夜に渡り付き従いその動向を報告せよ」


帝国の属領地・アーリア藩国出身の帝国大騎士の一人にして藩国最強の神官戦士コード名リーシャインは、六竜神に仕える巫女である。


彼女が持つ権能は【虹の輝き】。

よわい88歳にして条件を満たす『ハッパ六十四でこの世のことわりムシしちゃうダジャレなチート開発しちまったぜー俺天才』転生と呼ばれる古代秘術を行い、生まれ変わることで授かった万能なる神の奇跡である。


彼女の揮う聖なる光は疑似生命体に対して無類の破壊力を誇り、また人々を癒す薬の生成に長け、癒しの奇跡すら意のままに操る。


そんな彼女が言い付かった命令は、勇者の監督である。


竜神の巫女としての最大の使命は、転移者たる勇者を育成し、来るべき予言にある「暗黒の大魔王」をうち滅ぼすこと。


彼女はその使命に殉教する覚悟で今日まで過ごしてきた。


故に、勅命を賜わった彼女は今、燃えていた。


母国アーリア藩国から出た勇者が世界の平和を成し、その栄光を故郷に飾る輝ける未来。


待ちに待った待ち焦がれたこの日がついに来たのだ。





――そうして彼女は、遂に彼に会った。転移者に。勇者に。


――――ん? この人が、ゆう……え?()



勇者の特性は驚くべきことに【闇】である。


メイの鑑定で解析したその特性は、吸収。


敵意をもって触れた全ての対象から生命力を奪うおよそ勇者らしからぬ能力。


今まで確認されている転移者の中でも誰一人持ちえなかった特性であり、前例のない能力である。


勇者が闇属性。これは教会にとっても大きな不安要素になるかもしれない。


闇属性は主に不死族の特製であり、教会からしてみれば敵以外の何物でもない。


メイの【虹光】は【闇】に対して優勢であるが、【闇】は【虹光】の相克属性【漆闇】に進化する可能性がある。


そして【闇】系の頂点は魔王の属性とされる【極黒】である。


そこまで成長するとは思えないが、放置するのは危険だと教会ならば言うだろう。


メイは悩む。この男を始末することは、恐らく今ならば可能である。


しかし特性が【闇】という一点だけで始末しても良いものか。


それが即ち悪とは言いきれない。


これはしばらく監視をして様子を見るしかないか。



こうして、メイの勇者観察の日々が始まった。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆  勇者視点  ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ちょいきーてくれ。


今異世界にいるんだけどマジやばい。パナイ。


昨日米寿のお祝いっつーて88歳おめでとうおじいちゃんフィーバーでヤンチャしたら寝落ちしちゃってて次目が覚めたらあやしい神様がどこからともなくカットオフのインサート。

ソイツ儂が寝てたらどっかの国が撃ったっぽいミサイル飛んできてて、ウチの近くに落ちた結果あなたは死にましたとか言ってんの。


んで、んじゃねってバイバイされて画面暗転したかと思ったら今度は目の前にいたの儂より年下の自称王様。


アニメとかでよく出てくるお城っぽいとこで、儂の目の前に偉そうに座ってた。


王冠とかかぶっててマジウケたね。室内では帽子とれよ。


そんでそいつ、儂に「よくぞ来た、異世界何とかゆーしゃよ」とか一人でお話しを始めちゃってそれがまたなげーの。お前は学校の校長先生かよ。


そういうわけだから何言ってたか覚えてないんだわ。次からは三行で頼むマジで。他人のする長話とか88歳にはつらみがけーんだ理解しろ? な?


まぁでもあれだろ。これって要は最近よくあるゲームの最初みたいな感じなわけだろ?


88歳にゲームやらせるとかとんだ介護だな。何でもかんでも自動化かよおめでてーな。IT信仰深すぎて儂ドン引き。


おい自称王様の若造昼間だぞ仕事しろよって思ったね、儂は年金ニートだけど。


しかもそいつさ、あ、ちょ、たんま。なんか変なガキが来た。儂の世話するみたいなこと言ってるやつ。


言い心がけだな坊や。苦しゅうない。人生の先輩に教えを乞え跪け頭を垂れてつくばえ。


儂、ここは88歳の威厳ってやつを見せつけてやろうかね。

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