12話 ハウリィの弟、兄の宝石を受け取りやってくる

 ベルディモードと呼ばれる辺境の街。領主はリティア・ウィズ・クライン。大悪魔指定を受けている辺境伯の第三女様だ。

オレは宝石商、ハウリィの弟、マウリィと言う。兄の宝石を譲ってもらい、オレはここへ来た。神の名前を言えば、宝石は飛ぶように売れると聞いた。だが、神の名前は住民から聞く必要があるらしい。何故なら住民は信仰しているから。


神さまか…。ここで行方不明になった兄はどうしているか、知らない。ただそうだな。兄がここへ導びいてくれたのか、酒場の親父さんなのか、それは分からない。

それとも宰相ドルトムントの移住者計画のおかげなのか。たしかに商売をするならここだろう。宝石も誰でも買えるように加工もした。大きさも手ごろな物を増やしつつも、大物買いのお客様のための商品も用意している。正直、神の名前を聞くことよりも、誠実に商売をしていきたい。


オレは門をくぐり、一緒に来たロドリに声をかける。

「よお、ロー。中央広場まで行って商売をしよう」

「マー、あそこは噴水があるし、いいのかもしれねぇ。そこへ行くか」

お互い変な愛称で呼び合っている。

兄と同じオレンジの髪、ロドリは赤い髪をしている。

お互い短髪だ。

 噴水のある中央広場で商売を始めて見ると、呼びかけるまでも無く、客はやってきた。一人、二人と買っていく。これはいい。

そう言えば、「最後のかみさま、お慈悲を」と、祈りを捧げていた。最後のかみさま…なるほど。それが…うん?何かの絵本で読んだ事がある。

悪魔にも天使にも、どんな存在にも「最後」を与え、看取る存在。

ん?げげ。あいつは…。

「なあ、ロー」

「うん?なんだ、マー。ここはなかなか客の食いつきがいいぜ」

「あの肌の黒いの、あいつって悪魔召喚士じゃないか」

「げ、そうだ。あいつはゼント。間違いねぇ」

「下を向け。目を合わせるな」

悪い予感って奴は当たる。

「おやおやぁ、いい宝石を売っているじゃないか。その大きいのをくれないか?もちろん、タダで」と、ゼントは悪そうな顔をして言ってきた。

「ば、馬鹿野郎。これは兄の形見なんだ。誰がタダでやるか。ふざけるのもいいかげんにしろ」と、何故かオレは叫んでいた。

顔を蹴られた。すげー蹴りだ。意識が早くも飛びそうだ。

山羊の顔をした悪魔を召喚している。

よく見ると?誰の視点だ?どうして自分とロドリを見ているんだろう。

ロドリは悪魔に持ちあげられて脅され、投げられている。

あれ?でも誰の視点なんだ。

なんだ、山羊の顔をした悪魔が、急に跪いて震え出した。

ロドリは驚いている。胸の前で十字を切って、「最後のかみさま、な、名前を呼ばせていただき、感謝します」と、号泣しながら跪いている。

オレ?おい、オレ。って気絶したままか。まったく誰の視点なんだろう。

<わたしよ>

…………

ゼントは尿を漏らして、地面に座っている。

最後のかみさまだ。

最後のかみさまはおられたんだ。

それもこの街に。

ゼントに冥府の王たる黒い蜘蛛が集まって行く。

まるで声さえも喰われていった。


それからしばらくして、オレは起き上がる。

埃を払い、ロドリにあいさつをして、また商売を始めた。

修道女が一人やってきた。

「綺麗な宝石ですね」

「このルビーを2つどうぞ」と、オレは何気なく渡してしまう。

「え?あの、でも…わたし、お金なんて」と、修道女はルビーを返そうとする。

「入りませんよ。オレ、ここに住もうと決めたんです。このルビーは最後のかみさまのお導きです。1つは教会に飾ってください。そして1つはあなたが持っていてください。教会に飾るのが小さいなら、こっちの大きい奴でもいい。オレの気持ちなんです。宝石商としてのね」

「……最後のかみさまからのお導き?」と、修道女は首をかしげる。

「あっ、いや。失礼しました。あの方のお導きは何者とも比べる事などできません。

そうでは無く、ただ貰ってもらいたいだけなんです」

「……わたし、ルビーよりもエメラルドが好きなんです……」

「おっと、そうでしたか。すみません。そっちは」

「マー、オイラが払う。だから渡してやりな」

「いや、ロー、お前」

「いいから渡してやりな」

「え?ほんとにいいのですか。まるで夢を見ているかのよう」と、修道女は顔をほころばせる。

「いえいえ、お礼ならロドリに言ってやってください」と、オレはロドリの方を見る。ロドリはすでに下を見て、次の宝石を磨いていた。

すると別の客がロドリのところへやってくる。ロドリは磨いていた宝石を落としてしまう。何だ?どうした、ロドリ。商売道具を落とすとは…と、思い、ロドリの前方を見る。長い黒髪、腰まであるだろうか。街の人たちと違い、真紅に染まる目、白い肌、紫の司教の法衣を着た少女がやってきた。

わたしよ、と、言われた事を思い出す。

最後のかみさま?

この御方が?


ロドリは宝石を自分の前に並べ、頭を地面につけている。

オレもロドリの隣りに移動して、頭を地面につけた。

「よい。暮らす事をゆるす」

不思議と涙がこぼれた。

宝石はすべて最後のかみさまが買われていった。

その金でオレとロドリは家を建てた。


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