11話 殺したい相手がいるのに、殺せない。
「感謝を?」首をかしげてしまう。
自分の育ての親に感謝するのは当たり前みたいな顔で、見てるこいつらに腹が立つ。
「無理だね」と、オレは手を振って、酒場を出た。
感謝しろだって。
無理に決まっている。殺したい相手そのものなんだから。
いつも批判ばかりしてくるあいつを許せないのだから。
歪んでいる。オレは…。
あいつに剣を習った。魔術も習った。
本当の母親では無いと知らされて、なお、憎しみも増えた。
いつか殺してやる。
そう誓った。なのに、どうだ。あいつはオレに名をつけた。
ゲイル。何気に気に入っている。
風だったか。
意味合いはどうでもいい。その事には感謝もしている。
結局、認めてくれない事に憎しみを感じている。
子どもなんだ。
オレが。
魔剣士ゲイル、魔導士ヒューリ、僧侶のレクサ…今まで三人でよくやってきたと思っている。ベルディモードの街に王国の宰相ドルトムントから誘いを受けた。
明日はベルディモードの街に入る。オレは酒場に戻り、飲み直した。
オレは義理の母であるチェイを連れて、4人でこのベルディモードにやってきた。
で、すぐに気づいた。悪魔たちが歩いている事に。魔族と呼ばれる奴らが笑顔で歩いている事に。どうりで税金は無しなわけだ。
だが、不思議と怖くない。
殺したい母親を連れて、やって来ているオレのような悪魔の面をかぶった人間には心地いいのかもしれねぇ。
まあ、憎しみの根源を辿れば「承認欲求」なんだけどな。
はぁ、そうだよな。オレはすごい。とってもすごい。「すげー」そうだ。そうやって自分で認めてやる事もできる。
子どもか。シスターらしき女性が話しかけてくる。
「救いを求めてここへ来られましたか?」
「まあな。宿へ母を置いてから教会へ行きたい。シスター、できれば教会を教えてほしい」
シスターは丁寧に宿と教会を教えてくれた。オレはヒューリとレクサともそこで別行動を取る事を話して、母親に本を与えて宿を出た。
シスターに紙をもらっていたので、紙を広げて教会へ行く。
茶色の扉を開けると、赤く光る目が一斉にオレを見る。
「な、なんだ?」と、オレは後ろを振り返る。
黒く長い髪、真紅に染まるほど赤い目、白い肌、少女のような姿、紫の司教の法衣…今まで見たことの無い禍々しい黒いオーラ。何かちぐはぐだが、悪魔の根源…最後の御方様だろうか。
「し、失礼しました」と、オレは跪いていた。
「よい」と、最後の御方様は言われる。
「お、オレは…血のつながりの無い母親が認めてくれねぇってだけで、殺してやりたいと思っています。そんな母親を宿に残して教会へ来ました。こ、この悪魔めをどうかお命を召し上げてください。最後の御方様!」
気づけば叫んでいた。
心の叫びだ。
悪魔の根源にして、あらゆる存在の最後を看取る御方。死の天使にして、唯一の死の神。
最後の御方様はオレの目から流れる何かを拭き取ってくださった。
「憎しみを受け止め、わが導きを受け入れよ」
オレの棘だらけだった心からすぅーっと黒い何かが抜けていった。
さっき出会ったシスターが手鏡を持って来てくれる。
目が赤く光っていた。
「あ、ありがとうございまふぅ」と、オレは泣き崩れた。
住民たちは悪魔になったのではなく、自分の中の悪魔を受け入れたのだと。その時わかった。
精神体は死を迎えた。
死んで生きる。
こういう生き方もある。
「お前…」と、チェイが来ていた。ヒューリとレクサに支えられてオレの後ろに来ている。「母さん」初めてそう呼んだ。
「…う、ふぐぅ」と、チェイが泣き出す。泣き崩れる。
三人とも赤く目が光っている。
どうやら悪魔を受け入れたようだ。
誰の心にも「もう1人の自分」がいる。
そいつは悪魔そのものかもしれねぇ。
最後の御方様が教壇からお声を発せられる。
「よい。わが導きを受けよ」
棘がすぅーっと溶けていく。
ああ、不思議だ。この街へ来てほんとによかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます