10話 私、とうとう女王に

金のティアラに腰まである長い赤毛。わたしはラドラスティア王国の女王。

「女王様、ベルディモードに1万の兵を送りましょう」

と、宰相ドルトムントはオレンジの鼻ヒゲを触りながら言って来る。

「ダメよ、少ないわ。1万じゃ滅ばされる。少なすぎるわ」

ううん、わかってる。近衛兵士1000人を無傷で倒せる化物にどんな軍隊が通用すると言うの。10万だろうが、100万用意しようが結果は同じ。

「で、では3万ではどうでしょう」

「3万……それは兵士の家族もこみにしてちょうだい」

「え?」

「言葉通りにして。戦える兵士は6000人でもいいわ。その兵士にも家族は有るでしょ。その家族と親族込みで3万人の移住目的で集めてちょうだい。税は無し。それで宣伝して」

「え?あの女王…それはどういう?」

「宰相ドルトムント、わかるでしょ。ベルディモードに宮廷魔術師、悪魔の召喚士、それに異国の英雄がことごとく戦いを挑み、散っていったことを」

「つまり」

「生贄を捧げるのは戦える兵士じゃなくてもいいと言っているのよ」

「しかしながら女王。彼らは単独で挑んだ結果です。数の暴力で攻めれば…結果は変わります。」

「宰相ドルトムント」わたしは玉座から立ち上がり、宰相ドルトムントの前に立つ。

「あ、あの女王?」

「あの街にはとんでもない悪魔がいるの。あなたはまだ出会っていないからきっとわからないんだわ。あの悪魔の恐ろしさが。たとえ100万の兵士を用意しても結果は変わらないという恐ろしさをあなたは知らないから」と、宰相ドルトムントの目を見て話す。

「理解に苦しみます、女王。私に視察に行かせてもらえないでしょうか」

「いいわ。お供に兵士を20人は連れて行きなさい。ちゃんと意志を聴くように。それから悪魔の名前を必ず住民から教えてもらうように。」

「それをしないとどうなります?」

「あなたが人間として死ぬだけ。ええ、気に入ってもらえるなら人形(どーる)として使用してもらえるかもしれないわね」

「女王、悪魔の名は?」

「わたしからは言えないわ。そうねぇ、街についたら祈りついて聞くといいかもしれないわね」

「はっ、ありがとうございます」と、宰相ドルトムントは頭を下げて、去って行く。

「ああ、次の宰相を募集した方がいいかしら。それとも戻ってくるかしら」


女王の心配をよそに宰相ドルトムントは青い目を光らせて、私兵を20人前払いで雇った。「おそらく20人でも多い過ぎるぐらいだ。きっと街の支配者と誰も会っていないのだろう。しかし宮廷魔術師も倒す悪魔とは…デーモンロードでもいるのだろうか。ははは、いや、無いな。いてもせいぜい魔神将(アークデーモン)ぐらいだろう。悪魔は契約を重んじる。街の人間に危害を加える事、これがいちばんしてはいけない事だろう。と、すると…まず街のどこを目指すべきか」と、宰相ドルトムントは肩まであるオレンジの髪を触りながら考える。

「ドルトの叔父様、こんばんは」

「おや、リティア…」ん?大悪魔に指定された???いや、かわいい姪っ子のはずだ。何を悩んでいる、ドルトムント。

「どうかしました?叔父様」

「すまない。何か記憶が混濁していてな。おかしな事もあるものだ。そうそう、今度ベルディモードに行くのだが、リティアも来ないか」

「まあ、叔父様。わたしもちょうどそこへ用事があって行くところですの。ですが、一緒には行けませんわ。先に街でお待ちしていますから」

おかしい。姪っ子の姿がぼやけて見える。幻術にでもかかっているかのようだ。

「疲れているのだろう。明日のために今日は寝るとしよう」


 王都からベルディモードまではわずか馬車を使用して3時間ほどで到着する。それは道が整備されたからだ。調べによると、魔物たちが整備に参加したという話が出てくる。おかしな話だ。私は私兵を連れて門をくぐり、中央広場を過ぎて領主の館を目指した。ご丁寧な事に領主の館と書いてある看板まである。

何故誰も領主の館に来なかったのだろうな。領主の館、リティア・ウィズ・クライン………姪っ子と同じ名前???

姪っ子が領主???私は開いた口がふさがらない。

ここはクライン家の領土だったのか。だったら何も問題は無いではないか。

何らかの事情で税が免除されるのもそれでよい。

まあ、せっかく来たのだし、お茶でも飲んで帰るか。

領主の館のドアを叩き、中へ入る。

するとリティアが中へ誘ってくれた。奥の間へ通され、兵士たちを待たせて、私は1人中へ入る。

私がプレゼントした絵画が飾ってある。

「幻術解除」

私は絵画を見ながら思った。

リティア・ウィズ・クラインなどと言う姪っ子は存在しない事に。

そう、ある日突然、当たり前のように存在していたが、本当は存在しない。

黒髪で腰まである長い髪、真紅に染まる赤い目、白い肌、紫の司教の法衣…誰なんだ、こいつは。

はっ、まさかこいつが悪魔だと言うのか。

私は魔神将(アークデーモン)と対峙しているとでも。

「どうされました?叔父様」

白々しい。

何が叔父様だ。幻術を解除しておいて、何を言っている?

いや、落ち着け。女王の言葉を思い出せ。

大悪魔指定…デーモンロード、違う。

さらに上…王?

悪魔の王?

根源?

「お前はわたしを何と呼ぶ?」と、リティアだった悪魔は聞いてくる。

「……もっとも尊き御方……」

「ほう。何を望む?」

「死を与えていただいて、ありがとうございます」

私は跪いていた。黒い何かに飲み込まれる。


「女王、家族こみで3万人の移住者を用意しました」

「ありがとう、宰相ドルトムント。よく戻って来て…そう、あなたも」と、女王は宰相ドルトムントの赤く光っている目を見て苦笑いを顔に浮かべる。

END。


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