9話 オレはバルディオス・ザーカリー。悪魔のハーフ
「ベルディモードの街へようこそ」と、赤い目を光らせて花売りの女性は花を渡してくれる。オレンジの髪を後ろでくくっている女性だ。
森の道が最近整備されたのと、ここベルディモードは湖が美しい。ますます発展していく。ただ住人が特徴的で、全員赤く光る目をしている。
よく見ると色が違う事は分かる。青い目をしていて、赤く光っているとか。
エメラルドグリーンで赤く光っているとか。
そう、その辺はいろいろだ。
ただ怖いウワサ話もある。独特な宗教を信仰しているようで、「神の名前」を間違えて唱えたり、住人から聞いた神の名前以外の名前だと、強制的に街から出れなくなるという。またはどこかで強制労働されていると、話を聞いた。
そんな怖いウワサ話があるにもかかわらず、ここはどんどん発展して行っている。
家もたくさん建てられた。人もたくさん。みんな笑顔が絶えない。
ホントにそんな怖いウワサがどうしてあるのか分からない。
あ、オレ?紹介が遅れた。バルディオス・ザーカリー。長いのでバルでいい。オレは白髪で赤い目をしている。おそらく魔族の血が流れているのだろう。つまり悪魔なのだろう。そう、この容姿だけで、どこの街でも忌み嫌われる存在だった。なのに、ここの住人たちは誰も嫌わない。ここのご飯はうまいやら、あの宿はいいやら、ギルドに行くならこう行くといいとか。聞いてもいない事まで教えてくれる。
オレは革袋一つしか持っていない旅人だ。服も土で汚れた白い半袖に、元は青かったが、泥がついて汚れた長ズボンを履いている。
快くしてくれるポイントがまったく分からない。
そう、浮浪者のようなオレに。
いや、浮浪者なんだけどな。はは。お金だって持ってないし。
「兄さん、そんなもの欲しそうにして…どうだい?食べていくかい」と、焼き鳥を焼いているおじさんが声をかけてくれる。
「いや、でも、お金が…」
「いいよ、いいよ。ここはベルディモードだ。兄さんはあれか?御方に会いに来たのかい?」
「御方。最後のかみさまは、伝説の存在…。ここで悪魔の仲間から目撃したと…。それともこんな悪魔には慈悲は無いのでしょうか」
「はは。兄さん…あんたはこっち側の人間だよ。ベルディモードで暮らせる人間だよ。なあ、兄さん。まずは腹ごしらえしな」
「う、ぐふぅ。あ、ありがとうございます」と、オレは差し伸べられた焼き鳥を食べた。食べ終えてもう一度頭を下げた後、また歩き始める。
噴水のある中央広場まで行くと、「われはヴァルゲン。国に属さない俗物どもめ。宮廷魔術師であるわれが、鉄槌をくだしてくれようぞ」と、初級魔法ではあるが、炎の球を数十個ほど同時に発現させる。
男のくせに肩まで髪がある。黒髪で青い目、最上級の紫のローブ。
ヴァルゲンの放った炎は住民を炎に変えていく。
「う、うぉおおおおおおおおおおお」と、オレは気づくとヴァルゲンにタックルをかましていた。
「はっ、なんだ貴様は」と、魔力の鎖で身体を持ちあげられて、地面に叩きつけられる。さらに二度、三度。息が。
「ははは、誰かと思えばバルか。人間と悪魔のハーフである貴様がこんなところに来ているとはなぁ」と、ヴァルゲンは楽しそうに笑い、さらにオレを痛めつける。
炎によって燃えた住民はどういうわけか、炎が消え去り、また普段通り歩き始めた。
ヴァルゲンの手が止まる。
「な、バル。貴様の仕業か。こんな多人数に回復魔法?光属性をお前が?それとも水属性か?」と、ヴァルゲンはオレの顔を踏みつけて聞いてくる。
「さあな。オレの得意魔法は土だ。オレじゃないのはわかるだろう…」
「じゃあ、これは何だ?どういうことだ?」
<リティアの声聴こえる?>
脳裏に声が響く。悪魔ならそれは自分よりも上位の悪魔であると言う証。
魔導士であるヴァルゲンにとっては、自分よりも遥かに魔力制御が高く、次元を越えた存在であるという証。
「ひぃ。ひぃあああああああ」と、ヴァルゲンは叫ぶ。
それも腰を抜かしてしまったのか、地面に尻餅をついている。オレは逆に起き上がり、周囲をキョロキョロとしてみる。
そしてすぐに自分の無作法に気づき、膝をついて頭を下げて、胸の前で手を組む。
「最後のかみさま、お慈悲を」と、唱える。
まだ出会った事も無い王の中の王。あらゆる存在に「最後」をお与えくださる御方。
最後のかみさま。
「は、お前は何を言っている?気でもおかしくなったか?」と、ヴァルゲンはオレに向かって数十個の炎の球を全部放ってきた。
ここで死ぬのか。だが、何だろう。最後のかみさまのお声を聴けたのだ。
これほど嬉しい事は無い。われら悪魔の救い主。
やっとオレは救われる。
心地よさが心を満たしてくれる。
「ぎぃあああああああああああ」と、ヴァルゲンは腕を抑えて地面を転がっている。
おかしい。何故燃え上がるどころか、こんなにも心が落ち着いて、と、そこで顔を上げる。
長い黒髪、真紅に染まる目、白い肌、紫の司教の法衣…。
黒い禍々しいオーラ。ああ、怒っておられる。
こんなオレなどのために。
「最後のかみさま、お慈悲をいただき、感謝します」と、オレは涙が出て、それを隠すように頭を下げた。
「よい。ここで暮らし、子どもたちにも伝えよ」と、頭を撫でられる。
ヴァルゲンは歯ぎしりしながらも立ち上がり、炎を氷を。おそらく最大級の魔法を放つつもりだろう。きっと宮廷魔術師になる勉強で、忙しかったのだろう。最後のかみさまの事を知らぬとは。魔力の根源たる王であられる御方。魔力解除を合図すれば、瞬く間に消え失せる魔法など何の役にたとうや。
最後のかみさまはニッコリと笑われる。それが合図になったのか、ヴァルゲンの魔法は解除された。
ヴァルゲンはいよいよ理解が及ばないのか、さっきまで「死ねぇ」と、叫んでいた口が塞がらないようだ。間抜けな顔をしている。
腕を無くした痛みまで忘れているのか、棒立ちだ。
ゆっくりと最後のかみさまは近づかれる。
ホントにゆっくりと。
いつの間にか、黒い赤い目をした冥府の大蜘蛛様に姿を変えられ、ヴァルゲンの腕を、足を、太腿を喰らい始める。黒い蜘蛛は徐々に心臓に近づいていく。
かと思えば、人型に戻り、ヴァルゲンの顎に手をそえられる。上を向かせて、笑われる。また蜘蛛に戻り、大きな口となりて、ヴァルゲンを飲み込む。
断末魔すら上げる事なく、ヴァルゲンは消えた。
王宮でオレをいじめていたヴァルゲンはあっさりと消えた。
オレは逆に慈悲をいただき、最後のかみさまが立ち去られるまでずっと跪いて頭を下げ続けた。
しばらくすると子どもたちが近寄って来た。
オレは言われたとおり、最後のかみさまの事を語って聞かせた。
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