0-8話 わたしはわたし。

「なあ、呪怨(じゅおん)」

わたし?わたしは母殺しのろくでなしだ。


よくペルソナ(もう1人の自分)とか、守護霊とか、背後霊とか・・・


いろいろ言う。

どれもしっくりこない。

相棒?ちがう。そんなあまちょろいもんじゃない。


自分自身、自分の行き先。

それが呪怨。わたしという行き先。

精神体(アストラルボディ)を喰い散らかし、鬼となった精神体も喰らって、喰らって、そのうち大きな鬼に喰われる。


そんな哀れな存在…。


「なあ、呪怨」

わたしたちはベルディモードの街へ来ている。

精神体で、他人の身体を傀儡として操り、ここまで来た。

操っているのは黒髪の女性の身体だ。白目を向いている。

何だかだるそうに歩いている。正確にはそういうふうにしか操れないんだ。

「なあ、呪怨」

返事が無いのはいつもの事だ。


赤い目に見つめられる。何だか心地いい。

この街にいる人間は、鬼なんだろう。きっと。

それにしては楽しそうだ。


修道女がわたしの元へ来る。

「最後のかみさまをお探しですか」

「……」わたしは何も口にできなかった。口を操ってみるが、声は出ない。

何と言えばいいのだろう。

「探しておられたのですね」と、修道女はほほ笑む。

「あ、あう」なあ、呪怨とは言えていたのに、今は操れない。

「最後のかみさま、お慈悲を」と、修道女は言う。


腰まである長い黒髪、真紅に染まった赤い目、白い肌、紫の司教の法衣。

ひと目でわかった。この御方だ。

「あ、あう。」また声が出ない。

「よい」と、ひと言。

わたしは頭を撫でられ浄化されながら、昔を思い出していく。


ほんまにあんたは何もできん、いつまでたっても子どものままやな…否定された言葉ばかり思い出す。


ほんとたったひと言、肯定してくれるだけでよかったのにと思う。

そうしてもらえたら殺さなくてすんだんじゃないかと…いや。

無理だな。

結局殺してしまったのだから。


一欠けらの救いも無い。

わたしには。


そんなわたしの最後を看取ってくださる。

よい。そう言ってくださった。

撫でて欲しかった頭を撫でてくださった。

呪怨(じゅおん)にまでなって、他人の精神体まで食べて、世界を拒絶し、自分さえも拒絶してしまったのに。

そんなわたしを救われる。その上、縁無きわたしに褒美を


ありがとうございます。


顔が最後に残った。よかった、ありがとうを最後のかみさまに言えて。


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