0-7話 集められた奴隷商人

「奴隷を隠すにはいい森だなぁ」と、ターバンを巻いた奴隷商人のボラは言う。

「ああ、俺もそう思う。バディって悪魔ハンターさん、いい仕事してるじゃない」

と、俺も頷く。

奴隷商人をやり始めて5年。俺の名前はラキタ。平民だ。そんな俺だが、今では1000人以上の奴隷を扱っている。隣の奴、ボラは500人ほどだ。向こう側のデラは100人。あっちのゴロゴロは10人。まあまあだな。

俺が多い過ぎるだけだ。

奴隷たちはすでにベルディモードの街へ移り住んだ。

俺たちは奴隷たちがちゃんと管理されているか視察に来た。


街の門には腰まである長い黒髪の少女がいる。

「あらぁ。お客様ねぇ」と、少女はつぶやいている。

赤い目、白い肌…最高位の司教の法衣。

「あのお嬢さん…いえ、司教様。この街にお住まいですか?」と、俺は聞く。

「リティアはねぇ、ここには遊びに来ているのぉ。みんなリティアをちゃんと信仰してくれるからぁ」と、リティアと名乗った少女は背を向けて歩き出す。

「は、はぁ。遊びに…ですか」と、俺は疑問に思う。

奴隷しか住んでいないはずだ。奴隷になりたいのだろうか。緑の髪をしたボラがリティアに近づく。

「へへへ、なんなら高く買い取るよぉ」と、ボラは言う。

ボラも俺と同じ事を考えたようだ。

「あらぁ、あとで心臓を食べてあげるねぇ」と、リティアは笑う。

「ひぃ」と、ボラは後ずさる。

少女の何気ないひと言だったはずだ。何を怯えてボラは後ろへ下がったのか。

「失礼をしたなら謝ります、司教様。」と、俺は茶髪の頭を下げた。

「リティアの名前を呼べたら考えてあげるわ」と、リティアは俺をまっすぐ見て告げた。名前?リティアじゃないのか。真の名前でもあるのだろうか。

赤髪をしたデラが俺の名前を呼んで近寄ってくる。

「おい、ラキタ。何だか様子がおかしいぜ、さっさと見て、帰ろうぜ」と、デラは言う。そうは言っても……今は真の名前を知る事が大切な気がする。

「おれっちも嫌な予感がするばい」と、黄色の髪をしていて、背の低いゴロゴロも頷いている。ボラだけがさっきから何も言わずにいる。

「おい、ボラ。ボラ」と、何度か呼びかける。

返事は無い。

ボラは倒れた。背中に穴が空いている。

心臓の当たりだ。

見間違いだろうか。

心臓が抜き取られている。


見間違いじゃない。心臓が抜き取られている。


ボラの身体は黒い蜘蛛に変わり、消えて行った。


「ひぃあああああ」と、デラは逃げ出す。デラの足は黒い何かに覆われて、デラは倒れる。おそらく黒い蜘蛛だろう。黒い蜘蛛はデラの全身を包み、デラも消えた。残ったのはゴロゴロと俺だけだ。


「ゴロゴロ……リティアと名乗った少女の真の名前を知ろう。おそらくそれだけが助かる道だと思う」

「……逃げても殺され、名前を呼べなくても殺されるってか。ははは、ま、状況は最悪だどもやるしかねぇな。だがよぉ。案外、簡単じゃねぇべかな。リティアと名乗っていたべ。辺境伯の第三女だべ。きっと。リティア・ウィズ・クラインにちげぇねえべさ」と、ゴロゴロは嬉しそうに言う。

赤い目をした奴隷たちがやってくる。

奴隷たちは俺を無視して、ゴロゴロを気絶するまで殴り、担いで連れて行った。


なんだこれは……。ありえない。奴隷紋が消えていた。


真の名前?真の名前…。リティア・ウィズ・クラインは真の名前では無い。

それを呟いてもいけない。奴隷たちに回収され、殺される。


はは、商品だった1000人の奴隷たちはもうここの住人か。

また別の商いを考えよう。

それよりも今は真の名前だ。

仲間たちの死を無駄にせずに。


俺は歩いた。建物は立派だ。街を歩いている奴隷たちは笑顔で暮らしている。

そりゃそうだろう。奴隷紋から解放されたんだから。

どうやって話せばいいだろう。

「すみません、道を教えてください」と、俺はとっさにそう聞いていた。

立ち止まってくれた赤い目をした男女の二人組はじろじろと俺を見ている。

話してもらえなければ、俺もここまでなのかもしれない。

「え…っとどこへ行くのですか」と、男性の方が聞いてくる。

「お、おおぅ。ありがたい、ありがたい」と、俺は男性の手を握り、涙を流した。

「はは、大袈裟ですよ」と、赤い目をした男性は言う。

色々考えた。司教様では無く、神さまなのかもしれない。

「お祈りをしたいのです。神の真の名前を教えてください」

「お前は誰だ?」と、男性は俺の首を絞める。

何だ、神の事を聞くのもダメなのか。

「は、はぁ。お祈りをしたいのです」

「……」「ねえ、この人初めてなのかもしれないわ」と、赤い目をした女性が助け船を出してくれた。

「なるほど。じゃあ、一緒にお祈りしましょう」

2人は跪いて目を閉じる。

「最後のかみさま、お慈悲を」

俺も跪いて目を閉じた。

周囲が暗くなる。

目を閉じたからだと思ったが、目を開けても暗いままだ。

少女が現れる。

暗いはずなのにはっきりと見える。

「もらうわね」と、右腕を食べられた。

「うがぁああああああ」と、痛みのあまり叫んでしまう。

「あぐ、おぼぉ」と、内臓を抉り取られる。顔からヨダレと涙が出る。

左腕、右足、左足と順に食べられる。

痛みは限界だ。

奴隷の身体をバラシて売っていた報いだろう。


ばあちゃんが言っていたな。

どんな存在であろうと、死を与える神さまがいると。

だから最後のかみさま…。

気づけた俺はしあわせかもしれないな。


「わたしの事を思い出せたからこれで許してあげる。王都の酒場で誰かにこの街の事を語りなさい。リティアの名前を伝えて。楽しみにしてるわよぉ」


俺は王都の酒場で目を覚ました。マスターに頼んで鏡を持ってきてもらう。

目が赤く光っている。

人形(どーる)だ。

俺は言われた通り、行商人ハウリィに街の事を語った。

酒場で飲んだ分だけお金を払い、出るとリティア様がおられた。

「はい、次の飲み代」と、お金を渡してもらえる。

無理して笑顔を作ると首を食べられた。

「気持ちの悪い笑顔より、祈りを捧げなさいな。そうじゃないと供給を止めちゃうわよ」と、言われた。

治された首で下を見ると、足が、腕が崩壊していく。

「ひぃひぃいいいい、すみません、すみません。最後のかみさま、どうかお慈悲を」

「供給開始…。そうそう、それでいいのよ」

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