0-6 はあはあ、俺たち盗賊団をなめんなよ。2
地下1階の地下神殿ではすでに惨劇が始まっていた。
「黒い蜘蛛、黒い蜘蛛がいるぅ。ダンジョンの最奥にしかいないはずの冥府の大蜘蛛様がどうして」と、叫ぶ男は黒い蜘蛛に姿を変えていく。
頭(かしら)と呼ばれた男、アラジンは逃げていた。
生まれつきの緑の髪、青い目。ぱっと見は商人でもしてそうな出で立ち。だが、腰に差している短刀から血の匂いがあふれ出していた。
周囲で部下たちが次から次へ死んで行く。
とらえていた奴隷たちはどういうわけか、襲われていない。
これはあいつらが、呼び出したとでも。と、俺は走りながら考える。
奴隷たちの元へ行く。
黒い蜘蛛たちは近寄って来なくなる。
なるほど。奴隷たちの場所が何らかの結界があったと言うわけか。
「おい、貴様ら結界があったのなら、あったと」と、奴隷たちに声をかける。
「ああ、あああ」と、奴隷たちは跪いて一斉に祈りを捧げだした。
「おい、俺を無視するなぁ。貴様らは奴隷紋がある限り、俺の言うことは……」
そうだ。逆らえないはずだ。行動を束縛できるはずだ。
「俺を視ろ」と、命令する。
「ああ、偉大なる最後のかみさま」と、奴隷の誰かがそうつぶやき、地面に頭をつける。奴隷紋は起動しないようだ。それも全員。
どういうことだ。
奴隷紋を解除されたとでも。
入ってきたのは少女、迷い人じゃなかったのか。
どうなっている。
「こんにちは、あなたで最後かしら。私、ここをアジトにしたいの」
「だ、誰だ!」と、俺は後ろを振り向く。
腰まである長い黒髪、赤い目、白い肌。最高位の司教の法衣…紫だと。
ありえないだろ。
なんだこいつは。
というか、学が無さすぎだろ。
迷い人どころじゃねぇ。
こいつは魔人か何かだ。
ああ、部下にそういう教育でもって…それどころじゃない。
どうする、どうすれば助かる?
「私の質問に答えてくれる?それとももう食べられたいの?」
「待ってくれ。俺はアラジンというモノだ。あんたに逆らう気はねぇ。あんた魔人だろ。どうすれば助けてくれる?」
「うふふ、食べなさい」
「は?」魔人の少女は背を向けて立ち去って行く。
「がぁあああ」と、頭に痛みを感じる。
「な、き、きさまら」と、後ろを振り向くと奴隷たちが俺に岩を投げて来ていた。
その岩が顔に、身体に、目に、…。一体何人の奴隷が岩を投げているんだ。
こいつらにこんな体力があったのか。
全員、目が赤く光っている。
どういうことだ。
何が起きているんだ。
岩が止まる。
いつのまにか中央に空間ができている。
その空間に黒い蜘蛛たちが集まって行く。
黒い蜘蛛たちは少女の姿に形どって行く。
「私はリティア。傷、治してあげたわよ」
「お、おお。ありが…」そこで首が飛ばされた。
意識はある。胴体からはちゃんと血しぶきがあがっている。
「私はリティア。傷、治してあげたわよ」
首を持ち上げてくっつけられた。切断されたはずの首はちゃんと動く。
「…あ、あり」と、目を見て話そうとしたところで、何かをつかまれる。
「やわらかいわねぇ。それに濁っているわねぇ。」
「……」
「頭を使いなさいな。あなた、助かりたいのでしょ。助かりたいのならば、私の真の名を口にしなさい。あなたは偶然、それを聴く事ができたのだから」
ぐしゃ。
口から血があふれ出す。
意識が……。
「私はリティア。傷、治してあげたわよ」
何だこれは。
名前?真の名前?それだけが助かる方法?
リティア。さっきから自分で言っているじゃねぇか。
いや、そういうのじゃないはずだ。奴隷たちは何か言っていた。
ああ、と。偉大なる……かみさま。なんだ、思い出せねぇ。
偉大なる何だ?なんのかみさまなんだ。
「分からない?じゃあ、食べるわよ」と、リティアは俺の腕を切り落とす。
刃物は使っていない。
まさか手刀?
「待ってくれ。今、言う」
また首が切断される。
「デゥラハンとしてなら使ってあげてもいいわ」
「いやだ、いやだ、いやだーーー」と、首だけになっても叫ぶことができた。
「あらぁ。いい声で鳴くじゃない。感情が死んでいるのかと思ったわ。人形にしてあげる。ごちそうさま」
首を投げられる。
その首が身体の足元に転がる。
黒い巨大な口が身体を飲み込んだ。
奴隷たちがちょうど頭が壊れるぐらいの岩を運んでいる。
「やめろーーーーーーーーーーー」
岩は俺の上に落とされた。
リティアは喉を鳴らし、ガラスのコップに俺の血を注いでいる。
また首だけだ。
悪趣味な女だ。俺の血だと分かるように意識だけ覚醒させている。
「やめろ、やめろぉおおお」と、俺は叫ぶ。
「あなたも飲む?おいしいわよ」
「おご、うご」どういうわけか、血を飲まれると俺に痛みが走る。
これは何の拷問なんだ。
「あなたが殺して来た数だけ、続けてあげるから…。楽しみにしていてね、リティア、やさしいでしょ」
「ひぃ。や、やめて、やめてぇええええええ」
「うふふ。いい声ね」
リティアはガラスコップにまた注ぎ、それを飲み干した。
THEEND
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