3話 お兄ちゃん、一緒に倒そう

バディはまた起きてしまった。

肩まである銀の髪。服装は踊り子の服。165センチという身長。そう言えばスバル…すーにぃは私より5センチほど背は高いはず。

ベッドの上だと思っていたら、棺の中だった。

「ここは一体?」

「起きたのか、バディ」と、懐かしい声を聞く。

ジークフリートの異名を持つ、悪魔ハンターだった兄だ。自分と同じ銀の髪、耳の当たりで切りそろっている。そして来ている服は紫のローブ。最高位の魔術師たる証だったはず。

「すーにぃ。」名前を呼んでみた。

「バディ。どうしてここへ来た…あの化物に…」

足音が聞こえる。

「……」私と兄は黙ってしまう。

「逃げるぞ」と、兄は私の左手をつかんで立ち上がらせようとする。

「うん」と、私たちは逃げ出した。

数メートル走ると頭蓋骨だけが置いてある部屋を通る。

私は思わず吐きそうになる。

「視るな。切り抜けるぞ…出るための用意と準備はしてきたんだ。」

「う、うん」逆流してきたものを無理やり飲み込む。

驚くほど順調だ。階段が見えてきた。私たちは階段を上がる。階段を上がりきると、<合言葉を唱えよ>と、あいつの声が脳に響く。目の前には大きな扉が閉じていた。

「すーにぃ。知ってるの?」

「知ってる。わたしを殺しに来る者こそわたしの極上のエサ」と、合言葉を唱えて、すーにぃは私を見て笑う。

扉は開いた。私たちは地上へ逃げ出した。どうやら洞窟の中のようだ。

「灯りが見えるわ」と、私がすーにぃを引っ張って走り出す。

洞窟の出口を出たところで、足が止まる。

灯りに見えたのは、オレンジ色の光球。

創り出していたのは、あいつ。

リティア・ウィズ・クライン…。長い黒髪、赤い目、白い肌、紫の司教の法衣。

ああ、あああああ、ああああああああああああ。

「おかえり。それともただいまかしら、バディ。それとスバル」

「武器を召喚しろ、バディ」と、すーにぃは叫ぶ。

「うん、すーにぃ」と、私はオリハルコンの短刀を呼び出す。靴はペルセウスの羽がついた靴。すーにぃと一緒なら。

32連撃をリティアにお見舞いする。あれ?全部当たってる。

切り刻んだ場所から回復しているようにも見える。え?気のせい。

すーにぃは神の杖を召喚し、巨大な雷をリティアの頭上へ。

杖を振り下ろす瞬間、私は飛びのく。

これも直撃。

リティアの顔から目玉が落ちていく。

顔は上を向いたまま。紫の司教の法衣はいつのまにか黒いローブに入れ替わっている。リティアの左手には黒い魔導書が風でパラパラとめくれている。その魔導書は白紙だ。見るんじゃなかった。


目玉の無くなった空洞は赤く光っている。

「すーにぃ……見間違いだよね。あれ」

「……俺たちは優秀な悪魔ハンターだ。見間違うはずが無い。そう、見間違うはずが無い。正体を知っていれば倒しになんてこなかった。そうだろう、バディ」

すーにぃも震えている。私も足から震えている。


魔王だ。拒絶の悪魔、ルキフグス……。

「思い出せ、バディ。あいつは魔王なんてモノじゃない。冥府の大蜘蛛の化身であり、暴食のフェンリルの化身であり、拒絶の悪魔、ルキフグスの化身……。わかるか、バディ。あいつはあいつはーーー」


王の中の王。悪魔の中の悪魔。

「うそよ、うそ。うそだと言ってよーーーーー」


「騒がしいわよ。リティア、とてもいい気分なんだから」と、リティアに銀の髪をさわられる。

「いい表情(かお)してるじゃない」と、頬をなめられる。

動けない。

よく考えれば人形(どーる)なのだ。

口惜しくも、あいつに魔力の供給停止されると何もできないただの人形(どーる)


ほんの少し魔力量を減らされただけで動けない。

すーにぃを見ると黒い蜘蛛に食べられていた。首だけ残されている。

ごめん、すーにぃ。ごめん。


「合言葉を唱えなさい。それで動けるようにしてあげるから」

「わたしを殺しに来る者こそわたしの極上のエサ…」動けた。

私はムダと知りつつも、人形(どーる)として抗う。

「いいわぁ、バディ。あなたはとてもいい。エサとして極上。」

オリハルコンの短刀ごときで、そもそも倒せるわけが無かった。

魔王サタンが7人集まったような化物。

王の中の王。

悪魔の中の悪魔。

たゆたいし混沌。本来、名さえ無い。

ああ、ああああああああああああああ

「私は抗う。抗い続ける。私は、私はぁぁあああ」

「いい子ね」と、リティアに心臓部を貫かれる。

「まだ動けるわ」と、回し蹴りを放つ。

リティアは右の甲で受ける。

砕けるはずの無い右手はちぎれて、私の回し蹴りはリティアの顔に当たる。

足を喰われる。

足が黒い蜘蛛になっていく。

私は地面を這いずりながら、足が治された事に気づく。

「な、何?」

「これを持って行きなさい。リティアの右手。わかるでしょ。討伐の証に持って行きなさい。ただし、1ヶ月後に帰って来る事。軍隊を連れてね。簡単でしょ。バディ、たくさん、エサになってくれたからご褒美よ」と、リティアは笑った。

「い、いやよ。いやよ、いやよぉおおおお」

「供給停止…行きなさい。」

「ああ、ああああああああああああああああああああ。行きますぅ。行かせてくださぃいいいいい」と、私は崩れていく身体を眺める事しかできない。

「供給開始。いい子ねぇ。じゃ、バディ。お願いね」

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