0-3話 わたしは王女なのよ

選りすぐりの千人の近衛兵たちがわたしを守ってくれている。

銀のティアラに腰まである長い赤毛。わたしはラドラスティア王国の王女。

ドレスだってちゃんと着こなしている。


王位継承権も第一位。何もかも順風満帆だった。なのに。


「姫様、お逃げください」と、近衛兵アルクは言う。

わたしは王女として自分を守ってくれる近衛兵の名前は覚えている。

「逃げ無いわ。と言うか動けないの」

ここは城の中の大広間、何が起きているのか。

どうしてわたしよりも若い女の子が、歴戦の近衛兵を殺してしまっているのか。

千人いた近衛兵はアルクだけになってしまった。

「アルクこそ、逃げなさい」

「姫様…無理です。動けないんです」

そう、そうよね。どうして動けないのかしら。

目の前の惨劇はたしかに酷い。でも、死体が見えない。

黒い何かが、どんどん津波のように大きくなって来ている。

まだ100メートルほど先に紫の司教と同じ法衣を着た女の子はいる。

黒い禍々しいオーラを隠そうともせずに、歩いて来る。

動けない。

指先を動かす事すら叶わない。黒い髪をした赤い目の女の子だ。もう3メートル手前まで来ている。あっ、アルクが。アルクが。

「ねえ、あなたの名前を教えて」と、黒い髪をした赤い目の女の子は聞いてくる。

「ふ、ふざけているの?まさかそれだけのために…わたしの近衛兵を殺したとでも言うの」と、わたしは怒ってしまった。アルクの首が床に落ちる。

「美味しそう…ねえ、あなたの名前を教えて」と、床に落ちたアルクの首を左手に持って聞いてくる。「き、貴様ぁ?」と、彼女に赤い目で睨まれると、口が自動的に動き出す。

「……ラドラスティア王国、第三王女、リティア・ウィズ・ラドラスティア」

「じゃあ、リティア。リティアと名乗ろうかしら。ねえ、王女様。あなたの国の辺境伯の名前は?」まただ、また口がわたしの意思とは関係無く。

「……ウィズ・クライン」

「うふふ、動いていいわよぉ」と、彼女は背を向けて歩き出す。

「……はぁはぁ。貴様、貴様だけわぁあああああああああああ」と、わたしはアルクの死体から剣を抜き取り、後ろから斬りつけた。

「優秀な人形(ドール)で助かるわ。」

「はぇ」どうして彼女はわたしの後ろにいる?

「リティア王女。もう死んでるのよ、あなた。でも、人形として女王にもしてあげるからがんばってね。それと、そうやって感情を食べさせて。あなたは美味しいわ。うふふ」と、彼女はわたしに背を向けて歩き出す。

「ふ、ふざけるなぁーーーーー」と、わたしは剣を投げた。

剣はまっすぐに彼女の背中に突き刺さる。

「心臓貫かれているの、わかる?わからない?人形になって長いから忘れちゃったの?もう3回目なのよ」と、彼女の声はまた後ろから聞こえて来る。

「え?」

彼女は今度は無言で歩き出す。背中を向けて。


え?わたし?え?死んでた?



どういうこと???偶然、姉たちが亡くなった?ううん。わたしが殺した?

え?


どうして?あいつに操られて?近衛たちもすでに殺されていた?

そうよね。今、わたしの目の前に跪いて集合しているのはあいつに造られた人形。


人形(どーる)わたしも?


「ふざけるなぁーーーーー、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるなぁああああ」

「いい子ねぇ」と、わたしの首から上が消えた。

なのに考えている。

わたしは動いている。

ああ、あああ、あああああああ

一体いつ?いつ殺された?

わたしはいつ人間を止めてしまったの。

いやぁああああああああ

「ホントに優秀な人形ね、あなたは。だから名前を貰ってあげる。リティアはリティア・ウィズ・クライン。辺境伯の第三女。あなたと同じ三番目よ。また記憶をいじって戻してあげる。やさしいでしょ」

わたしの身体も黒い蜘蛛に喰われた。

黒い蜘蛛と黒い狼の姿をした何かに喰われた。

断末魔もあげる事無く。


〇月〇日、朝。王宮の廊下にて。

「姫様、大変です。辺境伯の第三女が大悪魔に乗っ取られたと。人間に大悪魔指定をするのは異例ですが、姫様からも母君にお願いします」と、宰相が頭を下げて頼んでいる。

<リティアからもお願い>

あいつだ。あいつの声が脳裏に響く。

「もちろんよ、宰相様」と、わたしはほほ笑む。

大悪魔?何を言っているの?そんな生易しいモノじゃない。あいつはあいつはあいつはーーーー。

「姫様、どうされました?何か我慢されているような」

「ちょっと疲れているだけだから」

体調の事を気づかってくれて、挨拶をした後、宰相は立ち去って行く。

誰もいなくなった廊下。侍女が1人。

よく見るとあいつと同じ黒髪で赤い目をしている?

メイド姿なので、侍女に違いないはずだが?

「まだ分からないの?リティアよ」

「ひぃ」

「思い出した?どうやって死んでいったか?」

「いや、いや、いやぁああああああああああ」

わたしはまた食べられた。

END

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