0-1話 わたしを何と呼ぶ?

「はぁ、はぁ…」やっとここまで来た。

あと少し。あと少しなんだ。我が家まで帰る事さえできれば


そう、帰ればみんながいる。ボクの勝ちなんだ。


勇者マイン、僧侶ベルム、武道家ヴェルサム、オイラは魔法使いラウンド。

1人じゃ勝てなくても4人そろえば勝てる。

きっと。視線は自然と砂利道を見る。蜘蛛がいる。黒い蜘蛛?赤い目をした黒い蜘蛛。「ひぃ、何だ、何だよぉ」

オイラはまた走り出した。残り100メートルほどだ。風魔法を使って…地面に風を巻き起こし、前方へ吹き飛ばされる。肩から砂利道に突っ込む。痛みを回復魔法で癒して、玄関の階段に腰を降ろした。上を見上げると、3階建ての赤い屋根の家。オイラたちの家だ。深呼吸をして、立ち上がる。白い扉を開けて、「おい、みんな、起きてくれ。大悪魔が出たんだ。それも街中で…」そこで叫ぶのを止めた。


床に何かが転がっている。

マインとベルムとヴェルサムに似ているような気がする。

ベルムにいたっては女性なので、見間違うはずも無く。目を開けたまま死んでいる。腐敗臭がすでにする。鼻を抑えて、廊下を歩き、3人の目を閉じていった。


あれ?みんな死んでいる?


何だこれ


悪い夢か?


大悪魔に出会ったのは数十分前だ。

どういうことだ?


あいつは3人を殺したあとにオイラに目をつけたのか。

そうなのか。


ラウンドの足元で3人の死体は黒い蜘蛛へ姿を変える。

「……」オイラは床に座り込んだ。

周囲を黒い蜘蛛が囲み始める。

声を上げる事さえ許されず、刈り取られた。

黒い蜘蛛は集まっていく。

人の形をとり始めて、15,6の少女の姿を取る。

「いい味だったなぁ。人間の感情はうまい」

赤い目が暗闇で光る。


僧侶が来ていた衣服をはぎ取ると、少女の姿をした名も無き大悪魔は身体に纏って、サイズを調整し、自分の衣服とした。


彼女、リティア・ウィズ・クラインは名前を忘れたまま旅を続ける。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る