拝啓 昔の私へ

寄鍋一人

n回目の米寿祝い

 拝啓 もう何年前か分からない昔の私へ




 このメッセージは無事届いただろうか。届いていて聞くことができているなら嬉しい限りだ。


 そっちの私は仕事やプライベートで忙しくしてるだろう。そんなときに急に変なメッセージを送ってしまってすまない。


 これから久しぶりに米寿の祝いをしようとしたんだが、珍しくテンションが上がって送ってしまった。


 安心してくれ。周りには誰もいない。私一人だ。




 私は不死になった。いや、正確には違うか。


 死ぬときに魂と記憶を新しい体に移して人生を再スタートし続けている。


 私ももう何度目か分からない。


 そっちではコロナが流行っていたか。人と会う機会は減っただろう。マスクも苦しくて大変だろう。


 でもそう落ち込むな。こっちにはもう人類はいない。防護服を来ていないと数分で死ぬ。それに比べたらなんてことはない。


 地球はもう終わっている。


 宇宙人の侵略やら、ウイルスによるバイオテロやら、ゾンビやら、そっちの時代にフィクションでしかなかったことが、現実に起こった。


 生き残った数少ない地球人は、技術を進歩させて地球を捨てて別の星に移り住んだが、どうも相性が悪かったらしい。やっぱり地球が一番だったようだ。生き物が繁栄した地球さまさまってことだな。


 そんなことがあったのに、私がなぜ生き続けているのかは分からない。宇宙人によって改造されたか、ゾンビになり損ねたか。


 とにかく人類はいなくなった。もちろん他の動物もだ。


 今は、生き残りの人たちが作り、そして管理者がいなくなったコロニーを転々としながら、残った物だけで食いつないでいる。


 もっとも、餓死で死んだとしても体が変わって生き続けるんだが。


 今夜は一人寂しく、何回目か振りの88歳を祝うよ。


 さっき運良く見つけた飲めるか定かじゃない酒を一気飲みして、窓の外の星を見ながら気持ちよく逝くことにするよ。


 コロナや世界情勢や自分の国や、色々とゴチャゴチャしててよく分からないだろうが、そのゴチャゴチャは今しか味わえない。今のうちに楽しんでおくように。


 次の米寿でまた会おう。




 敬具

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